【11-09】


 ログイン。

 出た場所は冒険者ギルドの広場。昨日は三人と話した後、気疲れして冒険者ギルドを出たところでログアウトしたのだ。

 僕は正面に見える冒険者ギルドに入る。今日はこれといってしたいこともないから、何か依頼を受けようと思う。王都の散策もしたいけど目的もなくさまようっていたら迷いそうだ。


 冒険者ギルドの中は人で賑わっている。壁に貼られた大きな掲示板に人だかりが出来ている。そこで依頼の確認ができるのだろう。僕もそこに向かう。真っ黒な僕にすれ違った人が振り向いてくるけど気のせいだと思う。


「おい、あれ?」

「黒づくめだ」

「あいつか?」


 大丈夫。みんな、確信がないはず。気のせい気のせい。黒づくめなんて探せば腐るほどいる。そのまますすめ、瑠太。お前は黒づくめではない。他の人より少しだけ服の色が黒いだけだ。


 掲示板に近づけばメニューのディスプレイが勝手に視界の端に開く。それを手で目の前に出るように動かす。そこには依頼一覧が映し出されていた。ディスプレイをよく見れば上に受注可能依頼一覧と書かれている。

 ヴィーゼの街では受付カウンターに直接行くことが多かったから掲示板がどうだったか覚えてないけど、王都はこんな感じなんだね。ヴィーゼでは必ず受付に聞けって言われた記憶もある。もしかしたら、人が多くなりがちな場所だからこういうシステムになっているのかもしれない。これなら掲示板の近くに行けば現在受注可能な依頼を一気に確認できる。それに、依頼の量が多すぎて掲示板の空きスペースが足らないなんてこともない。NPCらしき冒険者が掲示板までどうにかたどり着いて掲示板から依頼が書かれた紙をはがしているのを見るにNPCにはこのディスプレイは出ないのだろう。メニューとかもないんだろうな。ステータスの確認ってどうしているんだろう。


 ズラーッと依頼が流れるように表示される。僕は左にあるカテゴリーから討伐依頼を探す。

 まずは腕試しがしたい。王都の周りはヴィーゼのように東西南北で出てくるモンスターが固定されていない。AWではヴィーゼ周辺のように生息しているモンスターが固定されていることの方が少ない。エリアごとに出現するモンスターの特徴は異なる設定は広義で言えば固定されているのかな。王都の周辺にもAW内のすべてのモンスターが出てくるというわけではないけど出てこないわけでもない。モンスターの生存競争如何で出現モンスターが変わる。


 適当に目星がついたら受付に行く。どうせならこの掲示板のディスプレイで依頼の受理も出来るようにすればいいのに。僕は長い列に並んだ。


「こんにちは。ご用件は?」


 相変わらず容姿のいい受付嬢にギルドカードを出して依頼を受ける旨を伝える。


「依頼を受けたい」


 なんか口調がロールプレイみたいになってる。格好と合わせてそれっぽくなってるかも。むふふ。今の僕は熟練冒険者でござる。


「どの依頼を受けますか?」

「ゴブリン討伐を」


 このまま行こう。ゴブリン討伐だけど。たしか昔の小説に『小鬼殺し』っていう小鬼だけを討伐する主人公もいたからおかしくはないね。

 王都の周辺は一定の距離まですべて木が刈られて草原のようになっているが、その奥には森が繁栄している。森というよりは林に近いかもしれない。おそらくだけど、森の中を開拓して作ったのがこの王都なんだと思う。前情報では森までの距離はあるけど歩けない距離でもないとあった。王都の周辺だけでなく、王都がある古代国家オペニングは森林地帯が大半になっているみたい。ヴィーゼの街の周辺にも森があった。


「はい……。大蛇様は今回が王都での初依頼ですね。ゴブリン討伐もいいですがはぐれオーガの討伐はいかがでしょうか? ヴィーゼの街からの推薦状を持つ貴方にぜひお願いしたい依頼です」


 あれ? これってたしか。

 この流れは掲示板で見たことがある。アップデート前にヴィーゼの街から王都に来た時に勧められる依頼だったはず。この依頼はヴィーゼの街から王都に来たばかりのプレイヤーには達成不可能な難易度に設定されていて負けそうになるとイベントキャラクターであるベテラン冒険者が加勢に来てあっという間に倒してしまうイベントだ。所謂、負けイベント。イベント後はそのベテラン冒険者と共に王都の冒険者ギルドに行きギルドマスターとの面会になる流れだったはず。そこで実力は足りないけど見所があるとか言われて、レベルや依頼達成等の条件を満たすたびに無茶振りのような依頼をギルドマスターから出されるのだ。

 達成不可能とは言っても、本来のはぐれオーガよりは数段弱くなっている。そして、はぐれオーガの討伐もできる。その場合は加勢に来る冒険者が戦闘後に現れて一緒に王都に来る流れになり、ギルドマスターに気に入られる筈だ。

 この倒しちゃったパターンになると無茶振りのレベルが上がる代わりにメインストーリーの進みが早くなるらしく、掲示板上ではイベントを放置していた人が簡単に消化できるように設定したとされている。


 今の僕にとってはどっちでもいい。問題はこの依頼を受けるか否かだ。今受けなくても事あるごとに同じ提案をしてくるらしいから無視でも問題ない筈。しかし、いつかするなら今してもいい。情報ではこの依頼を受けて王都周辺の森の中に入れば勝手にエンカウントすると書かれていた。探す必要もない。待ち合わせの時間にも問題ない。二十一時まではまだまだ時間はある。失敗してもイベントに差し障りはない。イベントのスキップも今しかできないわけではない。

 でも、今受ける必要もない。


「王都の周辺は初めてだから下見も兼ねてゴブリンの討伐をします」


 仮にオーガと戦闘になるのであればちゃんと戦いたい。いくら負けイベントであっても何もせずに死にたくない。そのためには準備がいる、かもしれない。


「分かりました。この依頼は他の人に回します。慎重なんですね。大蛇様は」


 僕は手続きを終えた受付嬢からギルドカードを返してもらって依頼を再度確認する。

 依頼内容はゴブリンの討伐数に上限はなく、討伐数に百掛けた数字が報酬になる。まだ始めたばかりの僕にはおいしい依頼だ。その分取り合いになるかもしれないけど、最低討伐数は一だから依頼達成はできるはずだ。今日は王都の森を散策するつもりでゴブリンを討伐していこうと思う。





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 僕は今、夕飯を食べ終えて、再びログインするところだ。早めの夕飯と決めたのは良かったみたいだ。六時過ぎにはログアウトしたけど夕飯にありつけたのは七時過ぎだった。

 たまたま今日は早めの時間に人が集まってしまったのだ。夕飯は列に並んで待つことに。夕飯自体は自動調理器で作られていたけど盛り付けは手作業だからね。少なからず時間がかかる。そして、席の確保にも。

 王都周辺の散歩とゴブリン討伐は何事もなく終わった。街に戻る時間を見誤ってゴブリンの納品はまだだからそこからだね。


 僕は王都の門に入ったところにログインした。ここは何門だろうか。王都をぐるりと回って目に入った門から入ったからわからないけど目の前の大通りを歩くことにした。賞金稼ぎギルドの地図では、王都は中心の王城から四方八方に大通りが外壁に向かって伸びている。そして、それらをつなぐ道が建物を避けるように張り巡らされている。蜘蛛の巣状とも言えるかな。

 冒険者ギルドがある広場も通りがいくつか交わった場所にあるから大通りを歩いていればいずれ分かる筈。地図もあるから大丈夫だよね。


 僕は人の流れを見て、冒険者らしき人たちが進む方向を選んで歩き出した。






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