【11-06】ブライアンと小狼



「賞金稼ぎってそんなに重要なんですか?」




 僕はカズさんに聞いた。




「うーん。まだギルドを立ち上げたプレイヤーって確認されてないんだけど、アプデ後のギルドは冒険者ギルドとかに近い運営をしないといけないんじゃないかって噂になってるんだよ」


「冒険者ギルドに近い、運営」




 依頼を受けてそれを達成して報酬を得るわけだ。アプデには条件を満たす必要があるとか書いてあったはずだ。それを通すために冒険者ギルドを真似るっていうのもアリなのかな。冒険者ギルドがギルドと名乗っている以上ギルドとして許可を受けていると考えるのが妥当だ。それは条件を満たしているということでもある。




「どこにでもルール違反をする人は出てくるでしょ? そんな時に必要なのが賞金稼ぎって結論が出たんだよ。冒険者ギルドと同じ対処ができるという利点になるから」




 冒険者ギルドと同じ対処ができるか。たしかに信用性は上がりそうだ。冒険者ギルドのような大企業と同じ行動が、選択肢が取れるということは小さい組織でも健全に運営できているということになる。そこに、僕が実際にどう行動したかは関係がない。僕の肩書があればいい。




「AWでは国のポリスが騎士団だとすれば、ギルドのポリスは賞金稼ぎってことだ。オロチ。俺はブライアンだ」




 男性が僕に右手を差し出す。これは、握手ですね。僕はブライアンさんの手を握り返した。ブライアンと名乗っているけど、これは本名でもある。




 ブライアンさんは正統派の騎士だ。日本にも置田さんを始め、多くのタンクがいるけどブライアンさんには敵わない。


 ネットで彼の役職を言う時にタンクと言う人はにわか扱いされる。彼は役割としてタンクの動きをしていることが多い。だからタンクと言っても間違いではないのだが、彼のポテンシャルは攻撃面にも発揮している。彼をただのタンクと思って無視すれば一撃で行動不能にされてしまう。そして、彼自身がアタッカーとなることが出来る。高い攻防力を発揮できる彼はまさに一騎当千だ。


 ネットでは、彼を敬意を込めて騎士ナイトと呼んでいるのだ。




「私は小狼シャオランよ。オロチ」




 女性は小狼シャオラン。小狼と書くが中国語では名前の前に子を付けると愛称になるらしい。よくわからないけど。子供の狼って意味ではないのだとか。掲示板情報だけど。


 彼女の服装から道士系の魔法使いであることはわかる。いや、たしか情報では彼女は魔術師だったか。しかし、彼女の本質は魔術ではない。その近接戦闘力だ。彼女は幼い頃から修めた中国拳法をAWに合うように改変した武術を魔術と絡めて戦闘する、極めて強力なアタッカーだ。武術特有の動きと遠距離も近距離も間合いとする魔法によって彼女はブライアンさんと同じように一騎当千となった。




 ブライアンさんと小狼さんを落とすためには、現状同等の戦力を当てるか数で攻めるしかない。そして、日本にいる同等の戦力がカズさんこと剛田和道。


 カズさんのスタイルは僕も体験したけど双剣を使った攻撃。その速さはもはや人の次元を超えている。現に過去のVRオリンピックで彼の前に立った敵選手たちが時代劇の殺陣のようにバッタバッタと切り払われている。三人ともネットに戦闘の映像が溢れているけどどれも一般のプレイヤーとは乖離した実力で圧倒的な支持を得ている。




「オロチです。キメラです」




 僕は二人に向けて尻尾を動かしてお辞儀させるように動かした。ヒューだけはちらりと二人を見た後そっぽを向いたけど。




「へー。そんな動きもできるのか。その一匹にはどんな意味があるのかしら?」




 小狼さんが面白そうな顔をして僕に問いかける。


 あ、そうか。二人は尻尾の操作を全て僕がしていると思ってるのか。ヒューめ、なんてことを。おとなしくお辞儀してくれていたら追求されなかったのに。




「彼は本当に変わったキメラなんだよ。僕が誘ったのもそれが理由。この蛇たちには全てAIが入ってるんだよ。ね? おろちくん」


「え?」




 カズさんがうまい感じにフォローしてくれた。でも、それって僕の手の内晒してますけど。まあ、仕方ないか。




「二人に遠慮は必要ないよ」


「ああ。安心しろ。俺たちがオロチの情報を国に伝えることはない」


「ええ。仲間のことを売りはしないわ。敵になったときに私個人が情報を活用しないとは言えないけどね」




 僕はカズさんを信じるしかないか。それにしても、カズさんってこんな感じだったかな。




「彼らには独自のAIが付いてるからヒューの、こいつの動きに他意はありません」


「独自のAI? それは大丈夫なのか?」


「最初のキャラメイクからですし、今回のアップデートでも消えなかったので大丈夫だと思います」


「だから、こんなに不規則に動かせるのね」




 小狼さんがオンの頭をなでていた。いつの間に。


 まだご飯が食べ足りないのか、主にキーとルーから空腹アピールが来る。周囲を見れば何か飲んでいる人はいるけど食事をしている人はいない。




「ここって飲食可能ですか?」


「可能なはずだよ」




 カズさんの答えを聞いて、僕はアイテムボックスから干し肉を取り出してキーに放り投げた。それを見たしたキーはおいしそう噛みつき、そこにヒューとオン以外が突撃した。




「こいつら食事するのか」


「みたいです。まだ確証はないんですけど空腹は僕と共有しているみたいだから食費の心配はありません」


「そういうことじゃなくてだな」




 ブライアンさんが軽くあきれている。ヒューが飛びつかないのはわかるけどオンが動かないのはおかしいなとオンを見れば小狼さんに餌付けされていた。オンの顔がうれしそうなのでほっとくことに決めた。




「僕らはね、ギルドの結成と同時にシージのプロリーグを作る活動をしようと思っているんだ。瑠太君も協力してね」




 カズさんがさらりと重大なことを言った。軽く言いすぎでしょ。しかも、三人のようなトッププレイヤーが声を上げれば実現する可能性も高い。これまでVRゲームに限らず多くのゲームの大会が開かれてきたが、プロリーグとして成立したゲームは少ない。ゲームのプロリーグ化には大きな問題があるからだ。しかし、それはAWには関係ない。




「AWなら廃れることがないだろうからな」




 ブライアンさんの言う通りだ。これまでのゲームタイトルは栄枯衰弱が激しいためにリーグとして成立させることが出来なかったのだ。しかし、AWは世界中を巻き込んだゲームだ。これ以上にユーザーを抱えるゲームは今後現れる可能性はとても低い。そして、このゲームは既に四年続いている。今年はアップデートが入り、リンカーのよなデバイスの登場がよりAWとSWを活性化させている。




「VRオリンピックのような大会とは違う。一年を通して順位を決めるようなプロリーグを作るんだ」




 カズさんの決意のこもった視線に僕は頷いてしまう。でも、僕の手の内を晒したことの理由にはならないですよね。正直なところ、僕はプロリーグが出来ようが出来まいがどちらでもいい。今、その二つで悩む必要はない。




「これで六人ね」




 小狼さんが六人といったけどここには僕を入れても四人しかいない。だとすれば、後二人いるのか。でも、シージは二十人はいないとできないはず。六人じゃ足らない。


 いずれ会えるのだろうけどせめて名前ぐらいは知りたい。もしかしたら、ブライアンさんや小狼さんみたいなビッグネームが参加しているかもしれない。


 僕はメニューに新しく追加されたクランメニューの欄を見る。メンバ一覧にはここにいる四人の名前が書かれていて全員の状態がログインになっていた。




「アイ、美樹にミッション第一段階完了って送信」




 クランメニューを見ていた僕の隣でカズさんがいきなり話し出した。アイって二人のうちのどちらのかの愛称なのかな。いや、二人とも反応していない。




「うん」




 いきなりうなづく。これは一体。目の前で明らかにおかしい言動をしているカズさんに二人は特に違和感を感じていないようだ。




「それでね、瑠太君」




 アイという存在と話していたカズさんは急に僕の方を向く。




「実は個人的な話がもう一つあってね」


「また始まったわ」


「諦めろ。このギルドだってもともとそっちの話ありきだったんだろ」




 個人的な話し。なんだろう。気になるけど聞かないほうがいいような。でも、気になる。


 二人は内容を知っているのか。それでも個人的な話ということは、同じ話をしているけどそれぞれ個人に関係があるってことかな。それとも、どうしようもなくくだらない、どうでもいいことか。




「実はね、うちの会社で瑠太君のスポンサーをさせて欲しいんだ」

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