【11-05】そして、僕は自分の意志でクランに加入した。




「それでこいつは何ができるんだ?」

「面白いことだよ」


 そんなことを言いながらカズさんが僕に向かって腕を振る。このまま何もしなければ僕の肩を直撃して僕は後ろによろめくことになるだろう。でも、僕はその腕の軌道を追えている。速さはもしかしたらカズさんと模擬戦をしたときと同じくらいかもしれない。でも、僕はそれを感じられる。

 僕は半身でカズさんの攻撃をかわした。


「あれ?」

「おいおい。なにやってんだよ。あれ、じゃないだろ」


 男性がしかめっ面でカズさんに僕への攻撃を非難する。


「いや、いきなりだから意味があるんだけど。瑠太君、腕を上げたねぇ」


 カズさんに褒められてうれしく思えばいいのかいきなり攻撃されたことを怒ればわからずに微妙な顔を僕はした。


「カズさん、AWでは大蛇オロチでお願いします」


 賞金稼ぎギルドで言われたことを早くも実行しよう。


「あれ? そんなネームだったっけ?」

「昨日から変わったんです。前はテイルです」


 僕が詳細を離さずにそういえば三人が思案顔になる。


「名前が変化ってことは神職か? いや、その風貌からしたら暗殺者とか密偵ってところか」

「そうね。そこらへんでしょうね」

「まあ、僕らはリアルでも付き合いができるだろうからどっちでもいいよね」


 どっちでもいいってことはないと思うんだけどなぁ。それにリアルって話が飛躍しすぎてついていけません。これからってことはこの四人がってことでしょ。どういう経緯でそうなるのですか。

 僕は賞金稼ぎか言おうか一瞬悩んで言うことにした。彼ら三人が所属するギルドがあるのであれば是非とも入りたい。間違いなく環境としては良い場所になるはずだ。流されるとかではなくこのギルドに所属することが今後の僕の活動にいい影響を及ぼすと思ったからだ。


「賞金稼ぎです」


 僕が答えを教えると三人は意外そうな顔をする。


「瑠太君、いや、おろち君。君は賞金稼ぎギルドに所属していたんだね。これは是が非でもほしくなっちゃったね。まあ、元から欲しかったんだけどね」

「そうね。賞金稼ぎが居ればギルドの活動の幅も広がるわね」

「ああ。いいやつ連れてきたな! カズ」


 僕が賞金稼ぎだと告げると僕の加入に三人が僕の加入に賛同してくれた。


「僕はあなたたちのギルドに加入できるのですか?」


 僕は率直に聞く。結果が出ないで話していると不安で疲れてしまいそうだから、先に聞いておく。


「おろちくん、僕はもとから君はぜひ手に入れておきたかったんだよ。反対なんてするはずもない。本当は二人の意見を無視してでも押し通そうと思ってたくらいだからね」


 カズさんは僕のことをそんなに買っていてくれたのか。多分というか十中八九、僕の自動防御オートガードを目当てにしているのだろうけど、うれしいな。


「カズがそこまで言うとはな。わかった。俺も賛成するぜ」

「私も賛成するわ。賞金稼ぎってだけでも入れる意味があるわ」


 さっきから話を聞いていれば賞金稼ぎってそんなに重要な職業なのだろうか。

 僕が賞金稼ぎのことを考えているとカズさんが動いたのが一瞬見えた。しかし、その動きはさっきより数段早いもので僕は目で追うのもやっと。それでも、正確な軌道は追えなかった。カズさんは左腕をまた僕の肩に目掛けて振った。

 そんな僕はもちろん動くことが出来ず、もう少しで当たるというところで二人の顔が見えた。またかよと驚いた顔をしている男とやれやれとあきらめたような顔をしている女性。

 僕はと言えば、たぶん、そんな一瞬で反応して表情を替えられるなら止めてくれよという顔をしていることだろう。

 僕は衝撃に備える。自動防御オートガードは発動するだろうけど、その防御を貫通される可能性もある。


 カズさんの左腕が僕の肩に当たる寸前、ドーがカズさんの腕に噛みつく。そして、僕の尻尾たちは一瞬で戦闘態勢に入る。

 外套は一気にめくりあがり真っ黒なシャツとスラックス、そして、僕の尻尾たちが彼らの目に入った。二人は初めて見た僕の尻尾たちを興味深そうに見ている。

 ドーが噛みついた腕は簡単に振りほどかれる。しかも、その腕には傷一つない。察知スキルに集中すれば腕を魔力が覆っているのを感じる。カズさんは少なくとも魔力制御ができるってことだ。もしかしたら、魔法も使えるかもしれない。


 カズさんが右腕で今度は逆の肩を狙ってくる。狙ってくるとわかれば対処はできる。詳しい軌道は自動防御オートガードに任せて大まかな軌道から次に取るべき行動を探す。まず〔魔力察知〕を切る。そして、尻尾たちに気力を巡らせる。

 カズさんの次撃をまたもドーが弾いた。弾く寸前にカズさんがまた動き今度は左で逆の肩に。それをラーで弾く。今度は右をドー。左をラー。その繰り返しのさなか段々とカズさんの動きが速くなり攻撃の質自体が重くなる。

 最初はドーとラーの一匹で対応てきていた攻撃も今は息も絶え絶えになりながらドーとラーとキーとルーの四匹でなんとか一撃を弾ける威力だ。四匹で一撃だから既にカズさんの攻撃速度には間に合わない。何とか尻尾たちの頭以外を使うことで対処しているけどもうこれ以上は……。


「こんなところかな。それにしても、ほんとに強くなったねぇ。びっくりしたよ。あれからそれほど経ってないのに」


 攻撃が止んだ。カズさんが軽々とそんな台詞を吐くけど僕は息も絶え絶えだ。攻撃が来ないとわかると僕は膝から崩れ落ちた。よくある床に手をついて息を何とか整えようとする。一気に汗が噴出して気持ち悪い。僕は呼吸をすることしかできない。


「ハァハァ」


 僕の様子を見ていた二人もさすがに僕の様子に途中で止めた方がよかったかと思ったみたいだ。


「大丈夫か? 途中で止めてもよかったんだが、すまんな。面白くてな。まあ、今のが加入の試験だったとでも思っておけ」


 男性が僕に手を刺しでしてくる。僕はそれを手に取ろうと腕を上げるがうまくつかめない。


「そうね。レベル四十八って聞いてたから期待してなかったけど、最低限の実力はあるようね。少し動きもおかしかったし、なんか変わったスキルでも持っているのかしら」


 女性が僕に感想を言っている間に僕は伸ばした腕を男性に引っ張られ一本釣りにされていた。


「結構重いな」


 そりゃキメラですから。それにしても、動きがおかしい、か。

 カズさんとの攻防は模擬戦の時もそうだったけど新しい僕を見つけてくれる。自動防御オートガードはアクティブでも発動できることを今のやり取りで僕は知った。自動防御オートガードのAIを使うことで僕は高度な攻撃予測ができるみたいだ。攻撃予測と言っても、数秒先の攻撃の軌道が見えるってわけではないけれど、自動防御オートガードに任せればうまく防御できる位置に勝手に尻尾たちが動いてくれる。僕は尻尾の操作以外に思考を傾けられるわけだ。


「二人の同意も得られたみたいだし、おめでとう、瑠太君。君は今からギルド『ファミリー』の一員だ」

「キメラか。面白い人材だな。ようこそ。『ファミリー』へ」

「よろしくね」


 僕はギルドに入った。ギルドファミリーの一員っておかしいから、多分ファミリーっていうのがギルドの名前なんだと思う。


「まだギルドとして許可されてはないから本当はクランなんだけどね」


 僕の前にメニューと同じディスプレイが開く。そこに書いてあった招待に応じて加入する。

 僕はクランに入った。



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