第34話呪いを解く儀式、その2

 13番倉庫に入るためドアを開けると同時に爆音ばくおんの音楽が俺たちを包んだ。四つ打ちのエレクトロ系ダンスミュージック。いや、よく聴いていると四つ打ちではない。基本は三拍子さんびょうし、だが、いきなり変拍子へんびょうしになる。かと思えば再び三拍子さんびょうしに戻る。リズムが複雑だが上手にエレクトロ系のメロディーがついていく。遠くでリアルな太鼓たいこの音もする。

 13番倉庫内は大勢おおぜいの男女でごった返していた。すべて若者。彼らは踊ったりワインを飲んでいたりする。これは本物のパーティーだ。見上げると鉄骨てっこつがむき出しの天井から等間隔とうかんかくにブルーのライトが下がっている。壁面上部へきめんじょうぶの二階からはピンクのライトが人々をらす。

 どこからか大勢のシュプレヒコールが聞こえる。


「まず、鈴木大介を探そう」

 俺は麻由さんの耳元で叫んだ。

 音楽の爆音は続く。遠くで、スミレが女数人とスマホを手にして自撮りしている。男子のはし幅跳はばと世界記録保持者せかいきろくほじしゃなら一気に近づける距離なのだが、俺と麻由さんはグダグダと人々をけながらスミレたちに近づいた。

 スミレと女たちが大声で談笑だんしょうしている。

「鈴木大介、知らない?」俺も大声を出した。

 紺とイエローのコントラストがはっきりしたワンピースを着た女が、閉じた唇に右手人差し指を当て「それは言うな」とのジェスチャーをした。そのあと倉庫の奥を指差す。音楽とリアル太鼓の音がする方だ。

「ありがとう!」

 俺は礼を言い、麻由さんの手を引いて奥へ奥へと進む。麻由さんは麻由さんでスミレの手を引いている。

 遠くのヒョウと目が合った。女は金色の髪にレオパードのワンピースドレスを着ていて血にえていそうだ。握手あくしゅしようとして胸部きょうぶをむんずとつかみ、俺の心臓をえぐり出すかもしれない。レオパードの女ははなれた場所から俺に投げキスをした。リアル太鼓と音楽が大音量でひびく。

 人混みのジャングルの中、三人が迷子にならないように、慎重しんちょうにブルーとピンクの光の中を進む。

 

 俺たちは倉庫奥に到着した。大きなステージがある。そのステージ上には全裸ぜんらの男が天井てんじょうから両手をヒモでしばられるされていた。男はぐったりとしていて汗でロン毛がほおや首筋に張り付いている。左右にはそれぞれ男たちが二人づつ小脇こわきに太鼓を抱え独特のリズムをきざんでいる。太鼓はとても原始的な作りだ。

 見るとステージの横には、最新のハイテク機器が並ぶブースとキーボードに囲まれたDJがいた。リアル太鼓の変拍子へんひょうし胸騒むなさわぎがするようなエレクトロ系のダンスミュージックを乗せているのはそのDJだ。

 ステージ前は人だかりができていて、一心いっしんに意味不明のシュプレヒコールを叫んでいる。まるでサッカーの応援のよう。

 俺は近くの男をつかまえ、ステージにるされた男が誰だか訊いてみた。男は両手で耳をふさぎ絶叫で答える。

「あの男は鈴木大介だ、今、のろいを儀式ぎしきをしている」

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