第29話偽物の金取引、その1
目をつぶり外の世界を感じる。
風が耳の
目を開ける。夜。俺は一人でサッカー場の半分ほどのだだっ広い駐車場にいる。車は一台もない。そして誰もいない。中央の柱の上に
駐車場の出入り口からセダンタイプの黒い車がゆっくりと入ってきた。効率良く駐車するためアスファルトに
運転席の男が窓から顔を出し
「サソリはどうだった? ぎゃははは」
小野田が話を切り出す。
「ふん、待たせたな」
「まずは D−7の顧客データをもらおう。
俺はできるだけ冷静に言った。
小野田は俺の目の前まで来て立ち止まった。鼻が曲がっている。確かに小野田だ。緊張しているらしい。いや、緊張しているのは俺の方か。
小野田は俺に近づきUSBメモリーを差し出す。俺は黙ってそれを受け取った。そして、今度は俺が一歩近づき小野田の足元にスポーツバッグを置く。スポーツバッグは重く、中で金属がぶつかる音がする。
「中身を確認してくれ」
俺の言葉に
「これが5億円分の
「そうだ」
「確かに受け取った」
「一つ確認したい。顧客データはコピーなんてしてないだろうな?」
「ああ、安心しろ。俺はそんなことしない。それがすべてだ」
ガチャリと音がした。小野田が
「じゃあな。エロ親父によろしく」
そう言って小野田は後ろ向きに手を振った。重いスポーツバッグのせいで歩きにくそうだ。
俺も最初はゆっくり歩き、徐々にスピードを上げ小野田の後ろについた。そして右後ろの腰にあるシザーケースからリリアの祖父にもらった手作りナイフを取り出した。
俺はナイフを振りかざし小野田の太ももにザックリ刺す。本当にザックリと音がした。
俺と小野田の乱闘が始まった。
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