第27話城砦のような高級マンション街

 金曜の夜、暗黒の空の下、LEDの街明かりの中を、俺は全力で走った。リリアの自宅マンションへ行くには繁華街はんかがいを通り過ぎて最寄駅もよりえきの反対側へ抜けなければならない。


 全力疾走ぜんりょくしっそうすると、俺の肉体が重いことを痛感した。それでも左右の足で力を込めてアスファルトを後ろにる。息を吐く以上に吸い、吸う以上に吐く。血液の量が足りてない。強心剤きょうしんざい静脈注射じょうみゃくちゅうしゃされたかのように心臓がバクバクと鳴った。


 走るスピードを上げることと通行人を上手くかわすことを両立させなければならないのは至難しなんわざだった。罪なき通りすがりの数人とは激しくぶつかった。ブロックき地面のデコボコにつまずいたしひざも笑った。


 右手に下げたポリ袋が邪魔だ。さっきスーパーマーケットで食材を買った。リリアのためにきゅうりとサバの酢のものを作るためだ。走るリズムに合わせ切れず、友情という荷物の入ったポリ袋が、あっちこっちへ行こうとして、ふくらはぎにバコバコ当たる。


 突然、アキレスけん断裂だんれつするんじゃないかと不安を抱えつつ、俺は城塞じょうさいのような高級マンション街を走った。

 リリアの自宅マンションに到着する。いわゆるタワーマンションだ。規模の大きさが俺を圧倒あっとうする。サブマシンガンを持った見張りの軍人がいそうである。入口の玄関インターホンでリリアを呼び出した。


「あ、待ってたよ、マッシュ、入って」

 

 玄関ドアが開き、俺は、バスケットボールができそうな広さのエントランスへ。中央のカウンターテーブルで誰かと電話をしているコンシェルジュが、汗だらけでスーパーマーケットのポリ袋を持った俺に冷ややかな視線を向ける。俺はそのまま奥の4台並ぶエレベーターのよびら前へ。そこに設置されたインターホンでもう一度リリアを呼び出す。


「マッシュ、3番のエレバーターに乗って」


 NO.3と書かれたおしゃれなプレートがかかげられたエレベーターが開き、俺はそれに乗り込んだ。


 まるでリリアの体内へ侵入していく心境しんきょうだ。そう、俺はリリアのお見舞いに来たのだ。実際、ミクロサイズになってリリアの体内に侵入し、患部かんぶ治癒ちゆしに行くようなものだ。


 俺はリリアとの友情に酔った。

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