第22話合コンでもするか

ーーー瑛太がこの件からりるとよ。

ーーーわかった。

 数日前、俺はやらかした。まかされた仕事を失敗したのだ。キリトによると手伝ってくれていた瑛太は手を引くという。


 俺は近所の公園でスマホによりキリトとメッセージのやり取りをしていた。芝生しばふの上にビニールシートをいて寝そべっている。ビニールシートを通して地面の冷たさがひんやりと体に伝わる。枕元まくらもとにはクラシックロックの日本語訳付き詩集が未読みどくの半分を残して放置ほうちされていた。

 天気はよい。天気がよくても決して酷暑こくしょにはならないのがジェリービーンズタウンの長所ちょうしょだ。俺の気分を無視するかのように世界は陽気だった。世の中は、つね歓声かんせいが必要なのかもしれない。


 ウィークデイの午前中なので至近距離しきんきょりに人はいない。鉄パイプによって作られた遊戯施設ゆうぎしせつで子供が遊んでいて、いっしょ彼らを見守る母親たち……それらが遠くに見える。まだ緑葉りょくようの勢いは全盛ぜんせいじゃないが、自然豊かで心安らぐ公園。


ーーー先日のことはすべてバレてる。

ーーー申し訳ない。

ーーー余計よけいなことはするな、と言われたよ。

 俺はキリトの報告を受けた。

 くやしい。俺はとことん屈辱くつじょくを味わっていた。こんなことは、好きな女性から嫌いな男性経由で、してもいないセクハラの嫌疑けんぎをかけられた高校生の時以来である。落ち込む。

 だが、俺は気持ちを切り替えねばならなかった。

ーーー小野田からアンタに直接会いたいというメッセージが届いた。

ーーー了解した、約束の日時を教えてくれ。

ーーーくれぐれも言っておくが相手のペースに巻き込まれるな。


「ふん」

 俺はキリトから待ち合わせの場所と時間を教えてもらいスマホを切ろうとした。

ーーーそれでも瑛太は「一度アンタと酒が飲みたい」と言ってたよ。

 キリトは別れ際、俺にそう告げた。そしてスマホの画面を暗くした。


 プライベートでは意外と瑛太のような男と気があうのかもしれない。酒の席で下ネタトークで一緒に盛り上がるか? さて、どうしたもんか。

 あいにく俺は下戸げこなんだよな。


 俺はスマホを枕元に置き、代わりにクラシックロックの日本語訳付き詩集を手に取った。横向きに寝転がりながら英語を読んだ。風が吹いて身体の下のビニールシートが飛ばされそうだ。

 俺は「それでもいいか」と思った。

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