第9話決してバレない売春組織
「ルリは悪い男に殺されたの」
この国の
西宮田川霊園は山の斜面を切り開いて
2年前、ジェリービーンズタウンから100キロメートルほど北西にある山林でルリは死体となって発見された。警察の
「犯人は捕まったの?」
「まだ」
「はっきり聴くがキミは
「うん」
「ルリも?」
「うん」
「だったらルリを殺した奴は簡単に
「……それが、私たちが売春してたってことは警察にバレてないの」
「警察だってバカじゃないだろう」
「それが本当にバレなかったのよ」
スミレによるとこういうことらしい。
そもそもは売春組織で働く男とルリが夜の街で偶然知り合ったことがきっかけだ。そしてルリはスミレを誘い自分たちのSEXを男たちに売り始める。金を貯めていっしょに海外旅行へ行こうと二人は
なんと売春の客引きには有名動画投稿サイトが利用された。娼婦たちは
一方、事務所は娼婦、男性会員とのやり取りにネットは使わなかった。
まず事務所と娼婦たちは36戸一棟のマンションでいっしょに生活をした。しかし個々は直接コミュニケーションを決して取らない。仕事のオファーはマネージャーが一週間分のスケジュールを紙の
男性会員から事務所への買春の依頼は専属のバイク便を利用した。ウィークデイ、いかにもヒッピー崩れのような大型バイクライダー数人がジェリービーンズタウン全域を
事務所と男性会員との間をすべて専属のバイク便が取り持った。そして現場のトラブルも事務所と娼婦の間で暗号通信でしのいだ。たとえば、いざベッドインとなって男性会員がルール違反をしそうになったら、娼婦は事務所にランダムな固有名詞とともに間違い電話をかけた。それがトラブル発生のサイン。細かい情報のやり取りは時間がかかったが、ネットを使って足がつくよりマシだった。
売春組織のボスが、最近の警察による犯罪捜査は
そのおかげでルリが殺された当時、売春組織にもスミレにも捜査の手は伸びなかった。正確に言うとスミレはルリの友人として刑事に事情を聴かれたらしい。しかしそれも例のマンションの玄関先で10分ほどの立ち話で終わった。
結局今も事件は未解決のままだ。
スミレがしゃがんでルリの墓に手を合わせる。どこから持ってきたのか火のついた
「私、ルリが死ぬ直前スマホで通話したの」
「ルリ、『私ダメだったよ』って言ってた。『私の人生ハズレだったよ』って」
「きっとその直後殺されたんだわ」
スミレが
「キミはルリから俺のこと知ったの?」
「そう、最初は二人だけの秘密だった」
「犯人を
「私はもうあきらめたわ。今日ここに連れてきたのはアンタにルリの存在を知って欲しかったから」
俺たちはルリの墓前で立ち上がり後を振り返った。目の前にはジェリービーンズタウンの夜景が広がっている。欲望は光を呼び、美しさには人間の
「今日はルリの命日なの」
スミレの言葉はジェリービーンズタウンの夜景に吸い込まれた。
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