第5話昔のこと

 3年前、俺とリリアはいっしょに恋愛バカ騒ぎパーティーをオープニングセレモニーからフィナーレまで一気に駆け抜けた。あの騒動を体験したことで変わったところと変わらなかったところがある。いずれにしてもそれらがこうをそうすることはなかったわけだが。


 まず俺は大人になった。女なら誰でもいいというわけではなくなったし、調子に乗って悪ふざけもしなくなった。


 一度、ジェリービーンズタウン西地区のカラオケボックスで乱行パーティーになったことがある。夜の繁華街はんかがいで仲間たちはコンパニオンのグループをナンパし、数件のクラブやバーをハシゴしたあと、カラオケボックスになだれ込んだ。仲間たちはそれぞれお気に入りの相手を見つけ、全員、裸でやりたい放題をやった。


 当時、オマエも全裸で腰を振っていたのか? というのはいい質問だ。

 実際のところ、同じ時刻に俺は、遠くのコンビニで缶コーヒーを買い、つり銭をカウンターの募金箱に入れていた。つまり仲間とは別行動だったわけだ。

 なぜ俺がこんなクソ真面目まじめな生活を送るようになったのかといえば、リリアの功績こうせきが大きい。リリアを知ってからというもの、目の前の女にがっつかなくなった。俺はさとったのだ。俺が世界中の女に嫌われることはないだろう、と。なぜならまがいなりにも一度はリリアという女に愛されたのだから。リリアのおかげで俺は男として自信がついたのだと思う。


 その一方で俺は相変わらず定職につかずブラブラしていた。冷静に考えればよくわかる。ぷー太郎の男が好みのタイプという女はまずいない。結局これが原因で俺とリリアは別々の道を歩むことになった。


 そもそも俺は働くことが嫌いなのだ。これは持って生まれた性質としか言いようがない。高校生の時、最初で最後の労働をした。その時雇やとい主にやりたくないことをやれと命令されて彼に飛びりをしてクビになったことがある。それ以来、俺は一切労働と無縁の生活をしている。


 今現在は、ある清涼飲料水メーカーがパトロンとなって生活支援を受けている。もう少し詳しく説明すると、その清涼飲料水メーカーの会長が作った財団法人が運営している美術館の予算の一部から、俺の食費や光熱費が支払われている。ただ単に遊んで暮らしているわけではないが、実は働いてない割には安定した生活を送っているのである。


 それでもリリアは俺を許してはくれなかった。まっ昼間からオープンカフェでビールを飲みながらのデートを、リリアはよく嫌がったものだ。

「誰もが一生懸命働いてるというのに」

 毎日のようにリリアは俺にそう言った。そうしているうちにお互い疎遠そえんになっていった。


 結局俺がリリアから学んだことは、女がパートナーにアウトサイダーを選ぶことはまずないということだ。リリアと恋に落ちて、変わっても変わらなくても俺は逸脱いつだつした星のもとから逃れることはできなかった。


 人生とは不思議なものだ。選べない選択肢せんたくしもある。そう、俺とリリアは別れるべくして別れたのだ。世間ではそれを運命とも呼ぶ。


 さっきリリアに再会して昔のことを思い出してしまった。

 ちっ、たそがれてもいられない。実家へ帰るか。   



 

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