第一章 王の戴冠式
第1章 王の戴冠式 その1
目を覚ますと、そこはベットの上だった。
そこには私がいつも愛用しているくしや鏡、机にペン・・・間違いなく私の部屋だった。
またいつもの夢か・・・・。
マールレイクは体を起こすと、服の襟からそっと肩に手を差し込んだ。
そこには傷があった。
傷は見た目より小さく、誰かがそのことで指摘しなければ、ただのできものに見えているだろう。
だがこの傷は見た目ほど軽いものではない。
腕を動かすたびに激痛が走り、痙攣を起こす。
だが部下にはその話していない。
部下に心配され士気を落とす結果にはしたくないからだ。
今から少し昔の記憶。
約二年前、クロンベリア軍が進行してきた。
クロンベリアは山に囲まれた山脈にある小さな国でバールハルト以外とは同盟関係を結んでいる。
バールハルトとの対立は昔、この大陸をしていたゼファーレという国があったがバリミアントハークス14世が死去したのち後継者をめぐり国が完全に分離してしまった。
分離した後、鷲をかたどった紋様を持つ国、クロンベリアと獅子をかたどった紋様を持つ国、バールハルトとなる。
二つに別れた国は互いに領土を自分の領土だと主張し合い、事あるごとに戦さを起こしている。
その戦いの一つが2年前の戦いフォーレルの戦いである。
フォーレルの攻防はクロンベリア国王、パルベザン14世の不可解な死から始まる。
パルベザン14世は国王は若く、28歳で国王となったがその2年後、寝室に隠してあった短剣によって命を絶った。
そのあまりの若さで命を絶ったことによりクロンベリアの者達は不振を募らせ、敵対している国バールハルトが暗殺者を送り込み国王を殺害したのではないかと噂が立ち上り始めた。
バールハルトはそのことを否定したが受け入れられず、国王の弔いをかねた戦いが始まった。
クロンベリアの軍隊はフォーレルの森に陣を構え、バールハルトを襲い始めた。
バールハルトは獅子の騎士団長カルメリスを先頭にクロンベリアの軍隊に戦いを挑んだ。
この戦いで最も活躍した部隊が敵の鷲隊に対抗するために創設された軍団『飛竜空挺師団』俗称『飛竜遊撃隊』私が所属している部隊である。
私の所属する部隊、飛竜第三連隊は敵の本陣を叩くため、敵の鷲隊を陽動する役目を受け持っていた。
しかし鷲隊はそのことを察し、本陣を叩くはずだった第一連隊に奇襲を仕掛けてきた。
そのため、第三連隊に本陣を落とす命が下された。
不利な状況ではあったが名将、グレイゼスの片足を吹き飛ばし、最前線を退かすことで、クロンベリアの士気は一気に落ち込み、停戦にまで持ち込むことに成功した。
そして、その代償こそがこの傷である。
マールレイクはベットから降りるとクローゼット前に立った。
今宵はバールハルトの皇子、ラグレリオス11世が王となられるための大事な日だ。粗末な服は着れないな。
マールレイクはネグリジェを脱ぎ捨てると厚手の服に身を包み込みその上から鎧を着込んだ。
鎧は腕の袖のないレーザーアーマー、黒竜の皮を折り込んで作られ、飛竜の重荷にならないように軽量化されている。
その鎧の上からいくつかの飾りと勲章をつけ、この良き日のために着飾った。
マールレイクは鏡の前に立って自分の姿を見る。
炎をまとったような紅い髪に瑠璃色の瞳、まだ幼さが残る17歳のつやのある肌、鏡に映った彼女の姿は勲章とは似付かわしくないうら若き少女の姿と、軍人としてのりりしさを持った女性の姿が映っていた。
「うん、悪くない」
マールレイクは鏡に映った自分の容姿に満足した。
マールレイクは自分の部屋を出た。
「よう! おはよう」
扉を開けるとそこにはウェスナー中佐が待っていた。
髪は美しく金髪、きれいに整えられとても美しくなびき、整った顔立ちに拍車をかける。
鎧は白銀の輝きに満ち、彼の体を包み込んでいる。
「なにか用か」
マールはつき離すように振る舞ったがウェスナーはまるで答えていないようにへらへらと笑っていた。
「そう言うなよ。 俺とお前の中だろ」
「それが信じられないというんだ」
マールはウェスナーのことはよく知っていた。
子供のとき、親の付き合いで出会ったのが始まりだが、それからずっとマールのことをかぎ回ることばかりしていた。
マールにとっては目障り以外何者でもなかった。
「相変わらず冷たいねーマールは」
「憎まれ口をたたきに来たのか」
「いや、そうじゃなくて……」
ウィスナーは少し言葉が詰まったが思い切って口を開いた。
「今夜、俺と一緒に踊ってくれないか」
「何の話だ」
「戴冠式の後に行われるパーティーのことだよ」
マールはそのことを指摘され、顔が少し青ざめた。
そういえばそんな行事もあったな……。
「完全に忘れてただろ」
「い、いや、そんなことはないぞ!」
「じゃあ、ドレスはもう発注済みなんだな」
「前のがある!」
ウィスナーは肩をガクッと落とし、ゆっくり見上げるようにマールを見た。
「おまえな。前もそう言ってドレスが小さくてパーティーに出なかっただろ」
「あのときはあのときだ」
「次もどう考えても無理だろうが」
「おまえには関係のない話だろ」
マールの怒りの表情にウィスナーはため息をついた。
「実はそういうことだろうと思ってドレス一着用意しているんだ」
「本当か!」
「本当だとも、まあ俺の服とお揃いだけどな」
マールは細い目をしてウィスナーを見た
「で、下心はなんなんだ」
「あ、やっぱばれた?」
「おまえが私に何か頼むときは必ずなにかあるからな」
「実はおまえの彼女紹介しろってうるさくてな。 マール、いつも空いているだろ? それの代理をだな……」
「私はそんなに空いてなどいない」
マールは言葉を遮り文句をつぶやく。
「そう言うなって、それで代理に俺の相手役になってくれって服で釣ろうと思ったんだけどな」
「代理もなにもおまえに彼女などいないだろ。いらぬ見栄を捨てて本当のことを友達に喋ればいいだろ」
「喋る気はないね。 いつか、おまえを俺のものにしてやるからな」
ウィスナーは自信ありげに答え、マールは絶句する。
「一生言ってろ。 おまえの服など借りなくともあてならいくらでもいる。 じゃあな」
マールはウィスナーに背を向けさっさとその場を立ち去ろうとした。
ウィスナーはマールの後ろに付くように歩く。
「待ってくれよ。 俺のどこが駄目なんだよ。 マールがその気になればいつでも我が正妻として迎える準備ができているんだ」
「そんな準備などいらない。 私はおまえのことが嫌いだからな」
「俺のどこが嫌いなんだよ。 嫌なことなら何でもやめるだから……」
マールは立ち止まりウィスナーも慌てて足を止める。
顔をうつ伏せウィスナーに聞こえるか聞こえないか微妙な言葉でささやく。
「ねぇ、ウィスナー? 私の服を作るときにどうやって寸法合わせたの?」
「そりゃあ、マールとこのタンスから一着服を失敬して計ったんだけどそれがな……」
「私はね! そういう人の部屋に無断で入って誰の断りもなくこそ泥のような真似をするようなところが嫌いなのよ! そんなことをいつもやってくるから嫌気がさしてくるのよ」
マールはウィスナーのほうを向いて声が張り裂けんばかりに叫んだ。
ウィスナーはその言葉に衝撃を受けたような顔をしたがマールの言い分を聞いた後、少しずつ口を開いた。
「もし、その部分を直したら君は俺を好きになってくれるのか。君は俺を愛してくれるのか」
「好きになる? 愛する? 何であんたを愛さなくちゃいけないのよ! 例え、そんなことを直しても私はあんたのことなんて愛さないし愛せない! 顔を見てるだけでむしずが走るのよ! 私のためだと思うならさっさと私の前から消えてくれない!」
私はウィスナーから離れ、ゆっくり前に向かって歩き出す。
「君が俺が嫌いでも俺は君のことが好きだ。例え、振り向くことがなくても君だけを愛し続ける」
ウィスナーはマールが見えなくなった後もその場を離れようとはしなかった。
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