飛竜遊撃隊

大王さん

序章 始まりの時

 月夜の空を一頭の竜が舞い昇る。

 大きな翼を広げて嵐のように力強く羽ばたき、雲の海を駆ける。

 竜の背中には少女が座っていた。

 少女は前を見据えて、竜の手綱を扱う。

 竜もまた少女の強さに引かれるかのようにより強く翼を羽ばたかせる。

 少女の後ろには人を乗せた竜達が 列を乱さないよう後に続く。

 その光景は少女が長い帯を引いているようにすら思えた。


「隊長、まもなく敵陣の上空に到着します。 我らに指示をお願いします」


 一人の兵士が少女に話しかけた。

 それに軽く首を縦に振る。

 少女は後ろの兵士達のほうに振り向き声を上げる。


「これより敵本陣に奇襲をかける。皆のもの、後れを取るな!」


 少女の言葉に一斉に兵士達に緊張が高まる。

 少女が高々と手槍を掲げ、兵士達もまた竜に備え付けられた手槍を引き抜く。

 そして、少女は竜に吸い付くように体を寄せた。


「いくぞ!」


 その一言に竜達は雲を突き抜け地上が姿を現すほど一気に高度を落とす。

 辺り一帯、木で覆われた森に一ヶ所だけ広場になっているところがある。

 その場所にはバールハルトに敵対する勢力、クロンベリアの軍事キャンプが犇めいている。

 少女は手槍を掲げて一気にキャンプの上空に滑り込む。


「て、敵襲だ!」


 監視が大声を上げて辺りにこだました。

 だが、少女の放った手槍が監視の鎧を貫き、兵士の体に大きな穴を作り出す。

 意識を失った兵士は高台から真っ逆さまに落ちていった。

 少女が陣営に入るのに続いて、バールハルトの兵士達が流れ込む。

 クロンベリアの兵士達はその騒ぎに気付いて、キャンプから次々と顔を出した。

 しかし顔を出したことが裏目になる。

 顔を出した兵士を狙い、バールハルトの兵士の放った手槍が流れ込む。

 手槍はクロンベリアの兵士の体を次々と貫き、大地にひれ伏し悲鳴と絶叫がその空間を覆い尽くしていく。

 そのことに恐れを抱いた兵士達はあちらこちらと逃げ惑い始めた。


「臆するな。敵はたった一連隊だ。勝てない相手ではない。陣を組め、敵に後ろを見せるな! 武器を持ち、次に構えよ」


 敵の隊長らしい者の耳が張り裂けそうになるぐらいの叫ぶ。

 その声に十数名が我に返り、急ぎ陣を整え始めた。


「第二波、いくぞ!」


 少女の叫びにバールハルトの兵士達は迂回をして再び手槍を構えた。


「弓だ。弓を構えろ。次が来るぞ!」


 少女は敵の放つ矢に備えて手綱をしっかりと握り締め、敵地の上空へと差し掛かる。


「放て!」


 その言葉に一斉に矢が放たれた。

 少女は何百本という矢と矢の間を擦り抜け、お返しに手槍を投げ放つ。

 手槍は敵の隊長の右足を貫いた。

 その破壊力で足は大地に転がり、隊長はバランスを崩して倒れ込んだ。

 それを見据えた少女は勝利を確信した。


 次の一撃で勝てる!


 少女は竜に指示し大きく羽ばたかせて高台から陣を抜け、次の一撃に備えようとした。

 しかし、高台辺りを差し掛かったとき人影が見え急いで振り向いた。

 そこには弓兵がこちらを見構えていた。

 少女は硬直した。

 兵士の弓には力一杯に弦を引き、揺るぎない目でこちらを見つめている。

 兵士がためらうことなく私を射止めるための一打が放たれる。

 目の前まで矢が近づいた瞬間、『次の瞬間に死ぬ』とそのことが頭の中によぎる。

 矢は少女の右肩を貫き、少女はその痛みに顔を歪めた。

 陣から飛び出すとそのまま気を失った。

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