第4話
「ここ1週間で召喚術を使った形跡を辿れないかですって?」
「うん」
リーズの答えに、アランはため息をつきながらこめかみに手を置いた。
「簡単に言いますが、莫大な数だと思いますよ。
条件を絞らなければ鍛冶屋の精霊がダントツでしょうし」
「タウンの外、コーグルとかは?」
「私が請け負えるのはタウン内だけですよ。
何かあったんですか?」
アランの言葉に、リーズはちらりとユイナを見る。
その視線の真意に気付きユイナは頷くと、リーズはユイナと出会った時の事を事細かに話した。
「……召喚術と言うのは、精神世界に存在する精霊や魔物をこちらの世界へと呼ぶ事ですよね。
ユイナさんがもし本当に召喚術でこの世界に来たと言うのなら、ユイナさんは精霊や魔物等と言う事になりますが?」
「わっ、私は人間です!!」
慌てて叫ぶと「でしょうね」と頷かれた。
「ですがあなたからは一切の魔力を感じません。
魔力とは即ち生体エネルギーとは別の存在。
私達の先祖は魔力をその身に宿し、交わり薄れて行って現在に至る。
毎日生まれる人間のほぼ全ての人間は魔力を持って生まれます。
稀に魔力を持たない人間は産まれますが、彼等は巫女として生涯を神に捧げるとされている。
しかしあなたはこの世界で生まれておらず、これには該当しないと言う場合もあります」
「そう言えば…あの男私の事をラフォルドの神がどうたらって言ってた気が…」
「ラフォルド…5柱神の1柱ですね。
あなたの言葉を丸々信じるとすると、あなたはラフォルド神の加護を受けし者。
そう捉える事が出来ますね」
「神様の加護を?」
きょとんとするユイナの隣では、机に頬杖をついて考え込んでいるリーズが「うーん」と唸っていた。
「もしそうだとして、ユイナがこっちに来た事で生じるその男のメリットとデメリットって何だろう?
自分が召喚した精霊や魔物なんかは普通、精神世界から召喚する際に自分の魔力を糧として呼び出すでしょ。
例に挙げるとして下位の精霊なら5、戦闘用のワーウルフやトロルなんかは20。
上位の精霊は50、…ユイナは?人間を一体丸々、世界間の干渉分を考えたって無事にこの世界に召喚するだなんてどう考えても天文学的な数字になると思うんだけど」
「それにいくらユイナさんがその男から逃げたとしても、召喚獣は主人のもとに強制送還される事が多いです。
それはもちろん、自分の実力以上の魔物などを放置されては困るからという魔導士協会の決め事ですが。
しかしだとすると、ユイナさんの入国経路は特殊と表現する他ありませんね」
小さくため息を吐き出した二人に、ユイナは申し訳無くなって謝る。
「…ごめんなさい」
「ううん、これむしろ世紀の大発見だから」
「え?」
俯いて、てっきり落ち込んでいるのだろうと思っていたリーズの瞳は、きらきらと輝いていた。
そう言えば私のこの状況を「羨ましい」と言った張本人だった。
「いやあ…すごいね、すごいよね?私ひとりじゃ絶対味わう事の出来ないスリル!!
世界間での干渉?神の加護?もう…さいっこーっ!」
「最高じゃないわよ!こちとら家族も友達も全部全部置いて来てんのよ!」
「大丈夫、絶対私がユイナを元の世界に返してあげる!」
にっこり笑顔でブイサイン。
その根拠とは一体…。
「…まあ、確かにリーズに任せておけば大丈夫だと言う根拠の無い自信はありますね」
「一体どこにそれを信じる要素があるんですか」
苦笑したアランは、さらりとすごい事を言ってのけた。
「彼女…このどう見ても幼いただの子供のように見えるリーズですが、五冠の異名を持つ凄腕の冒険者なのですよ」
「そうだよー!私これでも本当にすごい冒険者なんだから!」
ソファーの上で胸を張るリーズに「五冠って何?」と問うと、これまた笑顔で答えてくれた。
「この間コーグルで東西南北とその中央が大陸で国として機能してるって説明をちょろっとだけしたでしょ?
その5ヵ国すべての王様に、あなたは良い冒険者だって認められた証を持つのが五冠の冒険者、私を含めあと四人はいるって話しだよ!」
「何してそんなの認められるの!?って言うかリーズまだ20でしょ!?」
驚き叫んだユイナに「彼女は庶校生でダントツの成績で卒業していますから、まあ…」とアランは苦笑する。
「アランも次席でしょ?別におかしな事なんて無いし、私は早く外に出たかったんだもん!!
見た事の無い場所に、自分の足で赴いて…その場所がどんなものなんだろうって、ずっとずっと楽しみにしてたんだもん。
そりゃあ勉強なんてしてる時間勿体無いでしょ!」
「天才の言う事だ」
「そうですね」
不満そうに表情を歪めるリーズに、アランは「褒めてるんですよ」と言って紅茶を注ぎ足した。
それだけで笑顔になるリーズはちょろい。
「それで…話しは戻るけど、根拠はあるの?」
「何が?」
「私を元の世界に戻してくれるって話し!」
「うーん、各国の王様の力を終結させたらちょっとした危ない事でもなんでも出来そうな気もするんだよね。
それに魔法の原則とか…今から見直したらちょっとしたほころびとか見付かりそうだし、本腰入れて研究とかしたら新たな扉が開くかもだし…錬金学に至っては答えのない哲学の世界だから、レシピさえどうにかしたら次元とか歪めそうなもんじゃない?」
笑顔で話すリーズからは本気度が伺える。
天才が周りにいなかったからちょっとどう返せばいいのか分からないけど、リーズは楽しんでこの世界を旅してるんだと認識した。
「よーし、そうなったら早速王様に会いに行かなきゃ!
ユイナも一緒に来てね!」
「え?私!?待って待って、そんな偉い人と話した事とか無いから、礼儀とか全然知らないんだけど!!」
「私も行きましょう、ですが手続きがあるので二日後にして下さい。
陛下もあなたがこちらに来ている事を感付いているかもしれませんし」
「え?王様忍者なの?」
「何それ?」
首を傾げたリーズは「それじゃあさっさと荷物まとめちゃおうか!」と言って立ち上がると、両手を打ち鳴らしてアランへと微笑んだ。
「アラン、泊めて?」
「…………はあ」
こめかみに手を持って来て、アランは苦笑した。
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