第10話 ――オーレン一家のアジト――
木々が鬱蒼と生い茂っている森の中は、木の葉に遮られて日の光があまり入ってこないので薄暗かった。時折リスやキツネなどの野生動物が見られた。どこかからさわさわと水が流れる音が聞こえてくる。
三人は《オーレン一家》のアジトを探し、森の中を彷徨っていた。しかし、一向にそれらしきものは見つからない。
「なかなか見つからないわね……」
ミナが愚痴をこぼした。
その時、突然三人の目の前にあったしげみがガサガサと音を立てて揺れ動いた。
「な、何だ!?」
突如現れた何者かの気配にトムは動揺する。
揺れ動くしげみの中から何かが三人目がけて飛び出してきた。
~戦闘開始~
GMは机の上にマップシートを広げ、三人と敵の位置関係をチェスの駒で示した。
『じゃあ、戦闘開始ですね。皆さんの目の前にはなんか敵がいます。でも正体はわかりません。正体を見破るにはモンスター識別判定を行わなければいけません。行動順はテイル、敵、トム、ミナの順ですよ。では、テイルの番です』
「俺か……。今こそ知られざる力、エネルギーボールの力を見せてやる! 俺は謎の敵に向けてエネルギーボールを蹴っ飛ばす」
「モンスター識別しないのかよ!?」
「うるせえぞトム。そんな面倒なことは俺はやらん」
『攻撃するんですね。じゃあまずは命中判定ですね。これも計算式はシートに書いてあるはずです』
「えっと……、3D+15だな」
テイルはサイコロを3つ掴んでコロコロと転がした。
出目は3、4、4。これに15を足して、合計値は26。
『なんか数値高くないですか? 回避判定で、2個振ります』
GMが二つのサイコロを転がして出た目は1と6。
『1と6だからえっと……あ、当たりました。ダメージ判定ですね』
攻撃が命中したテイルは与えるダメージを決定するためにサイコロを3個振る。
出た目は5、3、2。計算式は3D+8だったので、与えるダメージは合計で18。
『18ですね。ここから敵の防御力を引いて……と。うわ! もう、虫の息ですよ!』
「フン。一撃では無理だったか……」
テイルは自慢げに鼻を鳴らした。
「テイル、その……エネルギーボールって何?」
ミナの質問にGMが答えた。
『ミナそれについては私が。エネルギーボールっていうのは、この世界における超古代文明の遺産、ということになってます。優れた科学技術を持っていたが謎の原因で突如消えた古代文明。その時代にエネルギーボールは作られました。
大気中から何らかのエネルギーを取り込み、内部で増幅。ターゲットに当たった瞬間、集積されたエネルギーが一気に暴発するというものですね。ただし、蹴って使うものなので扱いは難しいとされています。
通常は物理攻撃扱いですが、MPを消費することで無属性の魔法攻撃ダメージ扱いに変化できます。テイルはこれを、クレイルベインにいた爺さんにもらったという設定になっています』
ミナはGMの言ったことを頭の中で整理し、しばしの沈黙。
「……。つまり、爆弾ボールってこと?」
『うーん……ちょっと違いますけど、まあ、そんなようなものです。気を取り直して、次は敵のターンですね。敵は最前列にいたトム目がけて突進します』
GMがサイコロを二つ振って算出した敵の命中判定値は14。
トムは突進攻撃に対する回避判定を行う。二つのサイコロを振って、算出した回避値は16。何とか突進攻撃を回避することができた。
「ふう、避けられたっと。次は僕の番だな。どっかの誰かさんのせいで敵の正体が不明だから、敵にモンスター識別を行う」
『いいですよ。ではサイコロを振ってください』
モンスター識別は知力すなわち魔法力の値を使って行う。これにサイコロ二つ振って出た値を合計したのが識別判定値となる。幸いなことに、トムの魔法力は三人の中でトップだった。まあ、一応魔法使いだしね。
トムがテイルをしれっと睨みつつサイコロを振る。出目は6と4。よって、識別判定値は22。
『余裕で成功ですね。三人目がけて飛び出してきた敵の正体はワイルドボア。要するに野生のイノシシです。山や森を住処にする野生動物で、気性が荒く、人を見ると襲ってくることもあり注意する必要がある。レベルは2。防御力は4。魔法防御力は0です』
「なんだただのイノシシか」
敵の正体が判明してトムは余裕の態度を見せる。
『モンスター識別はメインフェイズの行動ですから、トムはもう何もできませんね。次はミナのターンですよ』
ようやく回ってきた自分のターンに、ミナは右肩をぐるぐると回す。
「やっと、私のターンね。トドメをさしてあげるわ。アホイノシシに攻撃。まずは命中判定でしょ」
ミナが2つのサイコロを転がして、出た目は5と6。ミナの命中判定式は2D+6。よって、判定値は17だ。
『出目いいですね。じゃあワイルドボアの回避判定です! えいっ、と。あら、命中しちゃいました~。ダメージ判定どうぞ』
「よし当たった! ダメージ判定は2D+15ね」
再び転がした二つのサイコロの出目は両方3。したがって、与えるダメージは21。
「くらいなさい! 私の剣の一撃は重いわよ!」
『防御力を引いて、17ダメージですね。トドメ刺されちゃいました。戦闘が終わったのでアイテムドロップです。誰でもいいのでサイコロ2個転がしてください』
「俺、俺が振る!」
と、すごく振りたがったのはトム。
しかし、勢い勇んで転がしたサイコロの出目は両方1。ファンブルであった。
『ドロップアイテムなし、ですね』
「このバカ!」
「残念な奴……」
「う、うるせえやい!」
トムが集中砲火を浴びる結果となったものの、戦闘は終わった。
~戦闘終了~
突然遭遇したイノシシを倒し、三人はさらに森の奥地へと進んでいく。
薄暗い森を歩きながら、ミナがふとつぶやいた。
「それにしても、テイル。あなたさっきのエネルギーボールすごかったわね」
「ま、まあな。《眠れる獅子》の通り名は伊達じゃないってことさ」
テイルはほっぺたを指で掻くようにしてそう言った。
と、三人は何やら看板のようなものが立っているのを発見する。トムが近づいて行くと、
《オーレン一家》のアジト この先もうちょい セールスお断り
と書いてあった。
看板を見たミナとテイルが思わず絶句する中トムはつぶやいた。
「《オーレン一家》って……アホなのか……?」
看板に従って三人が先へ進んでいくと、洞窟の入り口が見えてきた。農夫が言っていた噂によると、《オーレン一家》のアジトは洞窟の中にあるという。この洞窟が奴らのアジトなのだろうか……。
「洞窟の前までやって来たわけだけど、このまま入るわよ。いいわね?」
ミナの言葉にトムとテイルの二人は首肯する。
「よし、じゃあ行くわよ! 隊列は私、トム、テイルの順ね」
隊列を整え、三人は洞窟の中に入っていく。
洞窟の中は思った通りというか、やはりというか、ジメジメして陰気な感じだった。それに加え、かなり薄暗かった。
「ぼ、僕、カンテラ持ってるよ!」
トムは持参していたポータブルカンテラに灯をともす。辺りがぼわぁっとカンテラの灯に包まれる。先頭を歩くミナがトムからカンテラを借りて進んでいく。
壁面は水で滴っており、触れるとひんやり冷たい。上を見上げると、思ったよりもこの洞窟は大きいようで、天井が高いところにあった。時折、コウモリがバサバサと飛んでいる音が聞こえてくる。だが、山賊が移動した痕跡などは見当たらない。
三人が足元に気を付けながら洞窟の奥へと進んでいくと、やがて道が二つに分かれた。道は、右と左の分かれ道となっており、左の道からは風が吹いてきた気がした。
「道が分かれてるわね……。どっちに行く?」
「僕は右だと思う。某漫画のキャラクターがそう言ってた」
「それってクラ……、いや、そんなことはいい。俺は左だと思う」
「じゃあ、二人ともじゃんけんして。買った方の道進むことにするわ」
じゃんけんの結果、勝ったのはトム。よって、三人は分かれ道を右に進むことにした。
景色は先ほどと変わり映えしないものだった。
だが、しばらく行くと、開けた場所に出た。そこは洞窟の内部であるにもかかわらず、不思議とドーム状の大きな空間になっていて、中央には泉が滾々と湧き出ていた。
泉の水は驚くほど澄んでいて、濁りの欠片さえ見当たらない。
「すっごくきれいな泉ね」
「でも……どうやら行き止まりみたいだね」
「だから左って言っただろ。それにしても、泉の水はこんなに澄んでいるのに、すぐ近くにあるって言ってた川の水が濁っているってのは妙だな……」
「言われてみれば、確かにそうね。でも、今は山賊団退治が優先よ。道を引き返して、分かれ道を左に行きましょう」
三人は踵を返し、来た道を戻ってゆく。分かれ道まで戻って来た三人は地面に複数の足跡があるのに気づいた。
「私たちが右の道へ行ったあと、誰かがここを通って行ったのよ」
「もしかして、《オーレン一家》?」
トムは顎に手を当てがい、思案顔でそう言った。
誰の足跡かはわからないが三人は足跡を追って右の道を進んでいく。
左の道を進んでいくと、奥の方に光が差し込んでいるのが見えた。おそらく出口だ。
三人は陽光のもとへ飛び出した。
「あれが、《オーレン一家》のアジト……」
ミナはため息をつきながらそう一言つぶやいた。
彼女がため息をつくのも無理はない。
ジメジメした洞窟を抜け出た三人の前には、緑生い茂る森が広がっていた。木々の隙間から、奥の方に何やら怪しげな小屋が一つ立っているのが見えた。山賊のアジトにしては、ちょっとばかし小さすぎる。
トムとテイルも小屋に対する意見を述べた。
「アジトにしては小さいような……」
「確かにな……あれがアジトだとしたら拍子抜けだぜ」
しかし、ミナはあくまで真剣な顔をして言った。
「でも、アジトである可能性がある以上、油断は禁物よ。なるべく敵に気づかれないように小屋に近づくわよ」
三人は、森の木々を利用して身を隠しつつ、そろそろと小屋に近づいていく。だが、敵の気配はなく、難なく小屋の前まで来ることができた。
『さて、小屋の前までやって来ましたよ。どうします?』
「とりあえず、誰かが聞き耳立ててみた方がいいんじゃない?」
と、発案したトムに対してテイルが毒づいた。
「聞き耳とか、趣味わりーなあ」
トムはぷりぷりした顔で言った。
「これはゲームなの! 趣味悪いとかそんなんねえんだよ!」
ミナは真面目な顔をして二人に言った。
「趣味がどうとかは置いといて、中の様子を探るのには賛成ね。GM、小屋の中の様子を探ることはできるかしら?」
『大丈夫ですよ。感知判定になりますね』
「テイルとトムの感知値が同じだけど、言いだしっぺはトムだから、判定お願いね」
「了解~。僕は小屋に近づいて聞き耳を立てるよ」
トムが出した感知判定の値は21。
『ええと……、トムが聞き耳を立てると、小屋の中からはガタガタと何かが動く音と、扉が閉じるようなバタンという音が聞こえてきた』
「ガタガタ動く音と扉が閉まるような音……。前者が山賊だとして、後者は一体何の音かしら……?」
思案顔のミナに対しテイルは、
「とりあえず入って見なきゃわかんねえだろ。さっさと行こうぜ」
ミナはテイルの意見に従い、慎重に小屋のドアを開ける。古めかしい家屋特有の嫌な音を奏でながら小屋のドアは開いた。
小屋の中には誰もいなかった。中は案外簡素な作りなっていて、ベッドに本棚、テーブルセットとタンスが置かれているだけ。見回してみても、トムが聞いたような音がしそうなものは辺りには見当たらなかった。床にはわずかに土ぼこりがついていた。三人が入った時についたのだろうか……?
「特に何も……ないわね」
「ハズレ!? 僕が聞こえたのは幻聴ってこと!? ここにいてもしょうがないし、引き返す?」
すると、床を凝視していたテイルがふとつぶやいた。
「上でもない。右でも左でもない。つまりは……下か」
テイルは土ぼこりが多めについている所を丹念に調べた。何と、驚くことに床のその部分だけが少しだけ盛り上がっていたのである。
「こ、これは……!」
ミナが盛り上がっている床に剣を突き立てると、何やら堅いものにぶち当たった。床板は案外簡単にはがれ、姿を見せたのは取っ手が付いた、見るからに怪しげな扉。
意を決してミナが扉を開けると梯子が下の方に伸びていた。扉は人一人がやっと通れるような大きさ。
「もしかして、この奥にアジトが!?」
トムも若干興奮気味の声を出す。
三人は梯子を使ってそろそろと下に降りていく。
小屋の地下はどうやらどこかの洞窟の内部みたいだ。山賊たちが強引に穴を掘って、小屋と洞窟をくっつけたのだ。辺りには松明が備え付けられていて、火がついており、暗い地下での道しるべとなっていた。松明の火はずっと向こう側まで続いていた。小屋の地下すなわち、この洞窟はかなり広大らしい。
ここから先は《オーレン一家》の庭とも言える。三人はいっそう気を引き締めて、松明の灯りを頼りに歩き出した。
『はい、ちょっとタイム。ここで、先頭を歩いているのは誰ですか?』
「私だけど」
『ミナですね。では難易度15の感知判定をお願いします』
GMに言われるままミナはサイコロを転がした。判定値は14。ぎりぎり感知失敗だ。
歩みを進める三人の前方から突然矢が飛んできた。矢は先頭を歩くミナに命中した。
『二つサイコロを振って、と。9の貫通ダメージでミナには毒が付きますね』
「くっ! 毒ですって……」
『毎回ターンの初めにHPが5減りますからね』
「それってけっこうピンチじゃない!?」
~戦闘開始~
三人の前方に敵がいるのは確かだが、暗くてよく見えない。
GMがマップシートに現在の配置を書き込んでゆく。それによると、前方に敵は三体。
『例によって、モンスター識別しないと正体わかりませんからね。行動順はテイル、敵、トム、ミナの順ですよ』
「まずは俺か。俺は前に進んで、敵Aに攻撃」
命中判定と、敵の回避判定の結果、テイルの攻撃は命中した。続けるダメージ判定では6を二つも出して、合計で24ものダメージを叩き出した。
『うわ! 一撃でやられちゃいましたよ~』
「よし!」
敵Aはエネルギーボールの強烈な一撃が命中し、バタリと倒れそのままピクリとも動かなくなった。
敵を一撃で葬り去ったテイルは満足げな表情である。
「一撃って……あんた……」
「残るは二体か……」
『次は敵のターンですね。まず、敵Bは接近してきたテイルとエンゲージ。テイルに攻撃します』
GMがサイコロを振った結果、敵Bの攻撃は命中し、テイルのHPが半分ほど削られた。
思ったよりも敵の攻撃力が高く、三人の顔は緊張で引きつりそうになっていた。 反対にGMはしてやったりという顔である。
敵Bに続いて、敵Cのターン。
敵Cは移動せず同じマスに留まった。そして、そこからテイルに遠距離攻撃を仕掛けた。続けて二連続で攻撃を受けては、さしものテイルも生命の危機にさらされてしまう。
GMが命中判定のダイスロールで5と6を叩きだしたので、テイルは絶体絶命のピンチ。
万事休すと思われたが、奇跡は起きた。
テイルの回避判定でクリティカル――つまり、両方のサイコロで6が出たのである。そのため、間一髪テイルは敵Cの攻撃を避けることができた。
『ここでクリティカルとは……やりますね、テイル』
「あっぶねえ……死ぬとこだったぜ」
「一人で特攻するからだよ。全く……」
「本当に、トムの言う通りね」
敵のターンを終えて、次はトムのターン。
トムは正体不明の敵に対してモンスター識別をすることにした。
本当は一ターンに一体しか識別できないが、GMがそのルールを忘れていたので、今回の戦いに限り、一ターンの間に二体の敵にモンスター識別を行った。
識別判定は難なくクリア。
『忘れてた私も悪いですし、今回だけ特別ですからね……。
敵Bは山賊です。レベルは3。村を襲ったりする荒くれ者で、いつも何人かのチームで行動しています。刃が湾曲した剣――シミターを装備しており、切れ味の鋭い湾曲剣による斬撃は威力が高く、非常に危険です。ただ、防具の類はほとんど身に着けておらず、皮の腰巻やバンダナ、簡素な服程度なので守備力は低く、魔法防御力は無いに等しいです。
敵Cは山賊アーチャー。レベルは3。こちらも山賊。ただし、弓矢を装備しているため遠距離から攻撃を仕掛けてきます。普通の山賊との違いはそれくらいですね』
「なるほど……。つまり、僕の魔法が火を噴くというわけか……」
しかし、ミナの鋭いツッコミがトムに襲いかかった。
「あんたの魔法弱すぎて使い物にならないわ」
頭ではわかっていたが、現実を直視することを避けていたトムに、ミナの言葉は見事に現実を突き付けた。トムはふてくされてしまった。
「さて、アホはほっといて敵を片づけないと。このままだとテイルヤバイわね……。よし、私は前に進んで敵Bの山賊とエンゲージ。攻撃よ」
しかし、ダイスロールの結果、ミナの渾身の一振りは空振りに終わってしまう。ミナの武器は威力は高いが命中しにくいのが欠点だった。
『さて、一ラウンド目は終了ですね。ミナは毒のダメージでHPが5減ります』
「そういえば……私、毒状態だったわね。忘れてた」
ミナは先ほど、敵の先制攻撃をくらって体に毒を浴びていた。まだレベル1の冒険者たちにとって毒のダメージは決して軽いものではない。ミナは実に、HPの五分の一を毒ダメージで持っていかれてしまった。早く、対処しないと後々ひどいことになりそうだ。
『毒ダメージの処理も済んだことで、次のラウンドに移りますよ。再び、テイルのターンからです。
「思ったよりも強いな、山賊……。仕方ない。俺はいったんエンゲージを抜け出して後ろに下がる。そんで、ここから敵B、山賊に攻撃。スキル《バイシクルシュート》を使うぜ」
セッション開始前のキャラクターメイク時に、プレイヤーは自分のキャラクターに個別の特技――《スキル》を習得させることができる。スキルは様々な種類があり、攻撃系、防御系、補助系、その他独特なものまで多種多様だ。
《バイシクルシュート》はそれら一般的なスキルとは異なるもの。キャラクターメイク時に、翔一がGMと相談して生まれた、独自のスキルだ。
モーションはかなり派手な設定。ハイジャンプしてから、体をくるりと回転させその勢いでボールを相手に向けて放つ。その動作が空中で自転車を漕いでいるように見えることから、《バイシクルシュート》と名付けられた。
その効果はMPを3消費する必中攻撃。だが、それだけではない。このスキルを使う時、事前に1~6の数字から一つ選択する。その後GMがサイコロを一つ振って出た目がピッタリ的中した時、ダメージロール時のサイコロが一つ増えるというボーナス付きである。
テイルは見事、GMのサイコロの出目を的中させ、ダメージは4D+19。ダメージロールの結果、30ものダメージを敵Bの山賊に与えた。
山賊は、テイルの放ったエネルギーボールの衝撃によって消し飛ばされた。
『まさか……一撃とは……。次は山賊アーチャーの番ですね。ミナとエンゲージしてるので弓矢では攻撃できませんね。では、ナイフでミナに攻撃です』
山賊アーチャーの命中判定、ミナの回避判定の結果、攻撃は命中した。ダメージロールの結果、ナイフによる斬撃のダメージは12。そこから守備力を差し引いて、ミナのHPは1だけ減った。
騎士というだけあって、装備も強力。ミナはそこらの攻撃など意に介さないほどの守備力を持っていた。その反面、速さに劣り行動順は遅い。
『か、固いですね……。次はトムのターンです』
「僕は一回ファイア使っちゃったし、MPも少ないから普通に攻撃する。まだ、《オーレン一家》のボスも控えていることだし。ボスへの道のりで〝ガンガンいこうぜ〟は失策だしね」
トムはミナ、山賊アーチャーとエンゲージして、装備しているシンプルな棒で山賊アーチャーを殴りつけた。
トムの攻撃は命中し、ダメージは出目が良かったおかげで18。山賊アーチャーに結構なダメージを与えたものの、一撃で倒すまでには至らなかった。
次のミナのターンで、ミナがしっかりと両手剣の一撃を命中させ、山賊アーチャーは地面に倒れてピクリとも動かなくなった。
『皆さんなかなか強いですね~。さて、戦闘も終わったので、アイテムドロップですよ~。では、敵Aをミナ、敵Bをトム、敵Cをテイルが担当して、それぞれサイコロを二つ振ってください』
まずはミナがサイコロを振った。出た目は1と6。
『ボロの布きれ。10Gです』
「やっすいわね……」
続いて、トムがサイコロを振る。出た目は1と2。
『ドロップなし!』
「そ、そんなあ~」
最後に、テイルがサイコロを振った。出た目は1と3。
『ドロップなし!』
「ちぇ~!」
アイテムドロップを終えて、危なげながらも三人は敵を倒すことができた。
「結局、敵Aって何だったのよ?」
『え、普通に山賊ですけど』
「まあ、わかってたけどね」
~戦闘終了~
危なげながらも、三人は山賊を倒すことができた。だが、安心はできない。ここからが敵の本拠地なのだ。
ミナは先の戦闘で受けた毒を治すために、持っていた毒消しを飲んだ。毒消しは想像以上の苦さで、毒は消えたものの、ミナは毒のダメージの代わりに精神的なダメージを負う羽目となった。
テイルはかなり減少してしまったHPを回復するために、トムからHPポーションをもらってがぶがぶ飲んだ。ポーションは何とも言えない独特な味がした。決して美味しくはなかった。
一息ついた三人は、
洞窟は奥に進むにつれて構造が複雑になっていったが、パーティ内にダンジョン探索型ゲームや、RPGが得意で大好きなトムがいたため、それほど苦労せず先へ進むことができた。途中ミナが落とし穴にかかったり、怪しげに置いてあった宝箱に手を伸ばしてモンスター召喚トラップを発動させたりしたものの、トムが多彩な冒険グッズを所持していたため、大きな被害が出ることもなかった。
洞窟探索の功労者であるトム曰く、
「普通、街出る時は万全の準備をしてから出るよなあ! ミナ!」
「……こればっかりは、言い返せないわね……。でも、なんかムカつくわ」
ミナの侮蔑のこもった言い方に、
「……俺も同感だ」
と、テイル。
トムは半泣き顔で、
「お前ら、揃いも揃っていじめるんじゃねえ!」
山賊のアジト内だというのに、三人はにぎやかに洞窟を進んでいく。
――そんなこんなで、とうとう三人は《オーレン一家》ボスの部屋の前までやって来た。
どうしてそんなことがわかるのか? 答えは簡単。
三人の前には鉄製の扉があり、扉には「おやぶんのへや」と書いてあったからだ。
三人は互いの顔を見合わせてコクリと頷いた後、鉄の扉を開け放った。
扉の先は丸くて小さな広間のような部屋になっていた。その奥の椅子に大柄な男が一人どっかと座っていた。
でっぷりとした恰幅の良い体型。瞳は凄まじい覇気を帯びていて、幾多の戦いを乗り越えてきた証と思われる傷跡があちこちに見られる。右腕には、畑に落ちていたものと同じ、山賊の腕章を身に着けている。ここに来る中で遭遇した山賊たちとは服装も一線を画している。バンダナの色は安っぽいブラウン色ではなく、血を連想させる鮮やかな赤。男の風貌はどう見ても、自分の部屋の扉に「おやぶんのへや」と書くような人物だとは思わせないものであった。
恐ろしい風貌の男を前に、意を決してミナは男に詰め寄った。
「あなたが、《オーレン一家》のボスね。ポイ村に近づくのはもうやめなさい! あんたたちのせいで、村の皆が迷惑してるのよ!」
男は表情一つ変えず、ミナをじろりと睨み付けた。鋭い眼光にミナ一瞬身じろぎする。
「ここまでやって来るとはな……大したネズミだ。いかにも。泣く子も黙る《オーレン一家》の親分とは、この俺様、グルゴレのことよ。もう一度言う。『ボス』じゃなくて『親分』だ」
山賊親分グルゴレはどうでもいい事に拘っているようだ。しかし、やはりその風貌は悪鬼羅刹そのもの。殺すような目で三人を睨み付け、唐突に指パッチンした。
すると次の瞬間には、どこから現れたのか親分の周りを四人の山賊たちが取り囲んでいた。
「くっ……戦る気!?」
ミナは背中に背負っていた両手剣を抜き構えた。
構えた剣の輝きを見据え、グルゴレは歯茎をむき出しにしてニタリと笑う。
「バカかお前ら……。俺たちはネズミ取り。ノコノコやって来たネズミを罠にかけ、ぶち殺すのが仕事だろ? ……ナァ?」
言い終わると、グルゴレはすっと立ち上がり、腰につけていた莢から剣を抜く。手にした剣は山賊たちが持っていた湾曲剣ではない。不気味な銀色に輝く直剣だった。
剣先はまっすぐミナたちに向けられた。それに合わせて、周囲にいた山賊たちも武器を取り出す。
一瞬の沈黙の後、戦いの火蓋は切って落とされた。
~戦闘開始~
『さて、戦闘開始ですね』
緊張した面持ちでトムはつぶやく。
「なんか、親分がエラくシリアスじゃねえか……?」
『まあ、親分ですから。行動順はテイル、敵A、B、C、D、トム、ミナ、敵(親分)ですよ。
もはやバレバレだと思いますが、敵の正体はわからないということになってますので、敵の情報を得るには識別判定が必要ですからね。まずはテイルからどうぞ。ちなみに、この戦闘の敵はかなり強いですからね』
行動を起こす前にテイルは現在の状況を確認する。
GMが置いた駒の配置を見ると、ここは障害物が無い広い部屋。敵は五人。リーダーと思われる色違いの大きな駒を囲むように四つの駒が配置されている。三人はいつものように、ミナ、テイル、トムの順で縦一列。敵との距離はほぼ無いに等しい。
親分は強い。自分の攻撃だけではおそらく倒せないだろう。だから、まず周りの雑魚を片づける。それは行動順が最も早い自分の役目だとテイルは考えた。
「よし。俺は敵Aに《バイシクルシュート》を使う」
《バイシクルシュート》は必中攻撃。しかし、今回はGMが振ったサイコロの出目を的中できずダメージロールのサイコロ数は増えない。結果、ダメージは27。なかなか高いダメージだが、敵Aはまだまだ元気な様子だ。明らかに今までの山賊とは違う。こいつらは、《オーレン一家》は強い。テイルはそう直感した。
『テイルの攻撃もなかなかでしたが、一撃で倒されるほど弱くはありませんよ。さあ、次は敵のターンです。敵はA、B、C、Dは全員、一番近くにいるミナにエンゲージ。全員攻撃です!』
「全員ですって!? なんで私が集中攻撃されなきゃいけないのよ!?」
『それはミナが一番近くにいたからです。では、行きますよ!』
同じ場所四人以上エンゲージすると、全員回避判定のサイコロが一つ減る。密集しているため、思うように身動きが取れないだろうとのことでGMが作ったルールだ。
テイルが回避判定でクリティカルを出して敵の攻撃をかわしたことがあったが、今回はクリティカルに頼ることは出来ない。クリティカルは少なくとも2つ以上のサイコロを振らなければ絶対に発生しないからだ。
GMルールによって、触れるサイコロの数は一つだけ。すなわち、敵四人の攻撃はもともと回避力が低いミナにほぼ必中ということだ。
結局敵四人の攻撃は全てミナに命中した。
「くっ……四連続攻撃はさすがにヤバいわね」
確かにミナは装備も強力で守備力も高い。しかし、四人の敵による四連続攻撃はミナのHPを着実に削り取っていく。満タンだったHPは、すでに三分の一ほどまで減っていた。次に四連続攻撃を受けたら、その時は……。
いつしか、ミナの頬を冷や汗がタラリと一滴流れ落ちる。滴は地面に落ちて一瞬じわっと広がり、やがて消えた。
「よく、耐えましたねえ~。次はトムですよ」
「このままじゃ、ミナがヤバイな……。だが、まずは敵の情報を得る! そうすれば弱点もわかるかもしれない。RPGの鉄則だぜ! 僕は敵にモンスター識別を行う!」
その時GMはトムを見て深いため息をつく。
『トム、言いましたよね。モンスター識別は本来敵一体に対して行われるものですよ。全員判定なんて無理ですよ』
しかし、トムも引かない。
「別にそれくらいいいじゃねえか! 大体、敵が強すぎるんだよ!」
『ふむ……、確かにそれもそうかもしれません。皆さんはまだレベル1。ひよっこ冒険者ですしね。確かに今回の敵は強いと思います。しかし、ルールは私、と最初に言ったはず。トム、それとこれとは話が違いますよ。モンスター識別は敵一体にだけ行うものです。大体、全員を同時に識別するなんて一体どういうことなんですか? 私には適切な描写が思い浮かびません!』
GMの言葉にトムはニタリといたずら小僧のような笑みを浮かべて見せた。
「つまり、適切な描写が思い浮かべばいいわけだな……。全員識別とはこうやるんだ」
トムが提案した全員識別の方法にGMは納得させられてしまった。
その方法とは、《天啓》。
あれは……そう、三人がギルドネームを決める時だった。
三人はギルドネームはサイコロを振って決める、という天啓、つまりGMの声を聞いたのだ。
これの意味するところは、ミナ、トム、テイルの三人は天啓を聞くことができる能力を持っている、ということ。であるならば、モンスター識別の際にも天啓が聞こえるのではないか、というのがトムの考えだった。
『むむ……天啓ですか……。確かにその言葉を使って私は皆さんに話しかけました。うーん……しょうがない! もう、モンスター識別は全員識別でいいことにします。……ただし、判定の達成値はプラス5しますからね!』
「へっ……望むところだ」
口論の末、GMに勝利したトムは全員識別を行うため、天の声に耳を傾け祈るようにサイコロを転がした。
出目はなんと……クリティカルだった。
「よし、やりぃ!」
『ここでクリティカルですか……運がいいですね』
全員識別の結果、トムの脳裏に天啓が響き渡った。
敵A~Dは全て山賊エリート。レベルは4。ただの山賊ではない。彼らは山賊団の幹部格で族長の側近であるため、それ相応の力をもっている。しかし、特別な《スキル》などは持ってはいない。守備力もそこそこあるが、魔法防御力はほとんどない。
一つだけ違う大きさの駒は《オーレン一家》親分、グルゴレ。レベルは5。荒くれ者である山賊たちを束ねる親分だけあって強い。切れ味の鋭い剣による攻撃は脅威。見た目通り体力が高いが、動きは遅いため回避できれば大丈夫だろう。
『次はミナのターンですよ』
「私はまずHPポーションを飲んで、それから敵Aに攻撃よ」
HPポーションはサイコロを二個振って出た目の分HPを回復させるアイテム。ミナはHPを9回復させ、HPは最大値の半分くらい。その後の命中判定は成功しミナの攻撃は敵A、山賊エリートに命中した。ミナの両手剣は当たりさえすれば高い攻撃力を持つ。敵Aはテイルの攻撃を受けていたこともあって、ミナの豪快な一文字斬りで倒れた。
『まだ一体倒しただけですよ。次は親分のターンです!』
親分はのっそりと動いてミナとエンゲージ。直剣で切りかかる。命中判定はミナが運悪くもファンブルを出してしまったため、親分の攻撃は必中となる。
ダメージ判定でGMが振ったサイコロは二つ。出目は2と5だったが、ダメージは、なんと27。サイコロの出目がそれほど高いわけでもないのにダメージが高くなるということは、元々の素の攻撃力が今までの敵とはケタ違いということである。
『フッ……さすがに今の一撃では死んでしまいますか……』
GMは邪悪な笑みをプレイヤーたちに向けたが、ミナの瞳はまだ諦めていない。
「まだよ! 私は《カウンターブレード》を使うわ!」
《カウンターブレード》はミナがキャラクターメイク時に会得した《スキル》だ。敵の攻撃を見きり、瞬時に切り返す。居合切りに近い攻撃技だ。敵の攻撃宣言後に発動することができる。その効果は、MPを5消費して、自分が受けるダメージを1D分減らす。さらに、攻撃してきた敵にダメージの四分の一を反射する。これは貫通攻撃となり、相手の防御力を無視した攻撃となる。
ミナはサイコロを振って5を出して、装備品の防御力が高いことも幸いし、ギリギリのところで踏みとどまった。
「あっぶな~」
ミナのカウンターをくらったグルゴレ親分はダメージの四分の一、6ダメージを受ける。
『フン……往生際が悪いですね。グルゴレ親分のHPはまだまだ有り余ってますよ。まあ、皆さんレベル1にしてはよくやってますよ』
GMの言葉に、プレイヤーたちは息を合わせて言った。
「「「ゲームバランスがおかしい!!」」」
「敵が強すぎるよな。僕たちはまだレベル1だよ!?」
テイルもトムと同意見。うんうんと首をうなずかせている。
「澄泉……。あんた普段とキャラ変わってるわよね……」
ジト目で視線を向けてくるミナをGMはキョトンとした表情で見つめ返した。
『はて……あまり変わらないと思いますけど? ともあれ、二ラウンド目ですね。また、テイルのターンですよ』
「つってもなあ……敵多すぎだろマジで」
誰を攻撃しようか悩んでいるテイルに、何かいい考えがあるトムは言った。「……テイル、お前は親分のHPだけ削ってくれ。他の奴らは僕が一人で何とかする」
「お前、何言ってんだ!? お前の魔法って、あのちんまい炎がピョッと出る奴だろ。あんなんで奴らを倒せるとは思えないね」
しかし、尚もトムは意見を曲げない。何やら秘策があるらしい。現状、親分が一番の脅威なのは間違いないので、テイルはトムに乗せられたのは嫌だったものの、結局親分に攻撃することにした。
まだレベル1なのでMPは少ない。《バイシクルシュート》はあと三回しか使えなかった。
だが出し惜しんでいてはやられてしまう。ここで、自分が攻撃を外すわけにもいかないし、必中の《バイシクルシュート》を使うのはやむを得ない選択だった。
必中攻撃なので命中判定はいらない。今回もGMの出目を当てられず、サイコロ数は増えない。それでも23ものダメージを親分に与えた。
『まだまだ……ですね。グルゴレ親分はまだ元気です。さて、次は山賊エリートたちのターンですね……』
さすがにミナはもう虫の息。HPは残り5を切っている。このまま敵の三連続攻撃を受ければ、まず間違いなく死ぬだろう。だがミナにはまだ奥の手があった。
「私はまだ死ねない。《アルテムガーディアン》を発動する」
《アルテムガーディアン》はシナリオ中一回しか、つまりセッション中に一回しか使えない《スキル》だ。一度しか使えない代わりに、凄まじい効果を持つ。このような《スキル》は《バーストスキル》と呼ばれる。《バーストスキル》は強すぎる効果のため、GMルールで一キャラクターに付き、一つしか会得できない。必殺技に近いものなので、普通はもっとレベルが上がってから会得するのだが、派手好きのミナはレベル1で会得してしまった。
《アルテムガーディアン》の効果は1ラウンドの間、自分が受けるすべてのダメージを0にする。なんとも凄まじい効果である。
ミナはこの地を創りし女神――リアレラの加護を受け神秘的な衣に包まれる。この衣はあらゆるダメージを吸収し無にする。
これでこのラウンド中、ミナは1のダメージも受けなくなった。
『くっ……敵のターンはこれで終了ですね。レベル1で《バーストスキル》なんて普通じゃないですよ。次はトムのターンですね』
「待ってましたっ! ……よし、敵は皆同じ場所にいるな。GM。僕は魔導銃を使わせてもらう」
『やっと、使うんですね。了解です』
GMとトムはわかっているようだが、ミナとテイルにはさっぱりわからない。魔導銃とは一体何なのだとGMに質問すると、GMの代わりにトムが答えてくれた。
「僕はドワーフだろ。本来は魔法が大の苦手な種族。だから、普通に魔法を使っていては戦えない。だからこの武器――魔導銃が編み出されたんだ、という設定だよ。ミナが二つ《スキル》を持っているように僕ももう一つ持っているんだ。僕のは《マジックバレット》。これはセッションを始める時にレベルに応じて魔弾をいくつか手に入れることができるんだ。魔弾は魔導銃を装備していることで使える弾で、威力は魔法とは段違いに高い」
魔法を銃弾に込めて撃ち出す。なんともロマンあふれる攻撃ではないか。二人は感心して首をうなずかせていた。
「魔導銃には大きな特徴がある。一つはさっきも言ったように魔法の威力を上げること。そしてもう一つ。それは範囲攻撃ができること。敵が同じ位置で密集している場合、魔導銃で攻撃すると、放たれた魔弾が敵の上空で炸裂して拡散するんだ」
「つまり……全体攻撃できるってこと?」
「その通りだよミナ。だから敵が密集している今がチャンス。しかも敵は魔法体制を持っていないからね。一網打尽にしてやるよ」
命中判定の結果同じ場所にいる敵、すなわち三体の山賊エリートとグルゴレ親分にトムの攻撃はヒットした。威力はトムの通常魔法とは比べ物にならない。トムの宣言通り、三体の山賊エリートはトムの放ったファイアーが込められた魔弾によって塵と化した。親分にも相当なダメージを与えたに違いない。
敵三体を一撃で倒したトムは意気揚々と言った。
「フッ、僕のトリガーが火を噴く時……それはお前らが死ぬ時さ」
「すごいじゃないトム! なんかダサいし、ムカつくけど……」
「同感だな」
『同感ですね』
「なんだよお前ら、もう!」
トムはそっぽを向いてしまったが、敵三体を倒したのはやはり大きい。残る敵はグルゴレ親分ただ一人だ。
『まずいですね……。親分もけっこうHP減ってます。次はミナのターンですね』
「ますはHPポーションを飲んで、と」
HPポーションによる回復量はサイコロを振った結果10。それなりに回復した。
「トドメは私が決めるわ!」
命中判定でクリティカルを出し、ダメージ判定時のサイコロが二つ増えた。合計で35ものダメージを叩きだした。
「き、貴様ら……ネズミにしてはやるじゃないか……ぐふっ」
床を叩き割るかのようなミナの斬撃の前に、
『いやー、皆さん頑張りましたね。ではアイテムドロップです。サイコロを二つずつ振ってくださいね』
各自がサイコロを振った結果は次の通り。敵A、ルビー100G。敵B、なし。敵C、山賊の剣50G。敵D、山賊の剣50G。グルゴレ親分、親分ソード130G。
『これで、戦闘終了ですね。結構敵を強くしたつもりだったんですが……まだまだでしたね』
「十分強かったわよ! 私は二回くらい死にかけたわよ!」
ミナの怒声を最後に《オーレン一家》との戦いは幕を閉じた。
~戦闘終了~
グルゴレ親分は見た目通りの打たれ強さで、倒れたものの息絶えてはいない。
ミナはぐったりと地面に倒れ伏している親分の胸倉を掴みかかって言った。
「もう、ポイ村の田畑に手を出さないこと。わかったわね!」
しかし、親分の反応は思っていたものと違った。すぐさま誤って来るのかと思ったが、しきりに首をぶんぶん横に振っている。
三人は全くわけがわからず、親分を問い詰めた。
大きなため息を一つついて、親分はしどろもどろに言った。
「す、すまねえ……。だが、俺たちは命令されてポイ村の田畑を荒らしたんだ!」
親分の話を聞いてミナは顔をしかめる。再び彼の胸倉を掴み、半ば恐喝するような恰好で問い詰める。
「どういうこと……? 誰が、一体誰があなた達に命令したっていうの!?」
すると、グルゴレ親分は三人が全く予想だにしない人物を挙げた。
「……村長さ」
親分の話によると、ある日ポイ村の村長がこのアジトを訪れ、自分の村の田畑を荒らすように頼んでいったという。その代わりに、獲物を寄越してやる、と言って。
「……つまり、その獲物が俺たち、というわけか」
「そうだ。俺たちはあの村長が獲物、冒険者を俺たちのアジトへ寄越す代わりに俺たちはポイ村を荒らしていたってわけさ。どうだ、いい取引だろう? お前たちは飛んで火に居る夏の虫だったというわけだ。もっとも、あの村長の真の狙いが何なのかはわからねえがな……。食えねえ奴だ」
ミナには親分の言葉は到底信じられるものではなかった。あの優しげな微笑を浮かべる村長がまさかそんなはずは……。
「そんなの……嘘よ……」
そんなミナに対し、テイルは天井を見つめ、ふと話し出す
「いや……俺は有り得ると思う」
ミナはテイルに食ってかかった。
「何でそんなことが言えるのよ!」
テイルはあくまで冷静に淡々と話した。
「だって、変だと思わなかったか? 村人は全員が訛ってたのに、村長だけ訛ってなかった。俺は何か違和感を覚えたよ」
確かに……思い返してみればポイ村の村人は皆独特のしゃべり方だったのに、村長だけは普通の口調で、別になまってなどいなかった。
「…………」
ミナはテイルの話を聞いて一人沈黙する。
その後、三人は親分以下、山賊たちをトムが持っていたロープで縛り上げ、ギルドアイテム《ポストバード》を使い、山賊団を捕まえた旨をクレイルベインへ伝える。
《ポストバード》はいわゆる魔法道具マジックアイテムと呼ばれるもので、普段は飴玉ほどのひし形結晶だが、ぽーんと空に投げるとあら不思議。青白い鳥に変化する。備え付けの羊皮紙にメッセージを書いて筒に入れると、任意の相手――たいていの場合は所属するギルドだが――に筒を持って行ってくれる。要するに伝書鳩のようなものである。
ミナが放った《ポストバード》は元気に空へ羽ばたいていった。時期にギルドの連中がここへやって来ることだろう。
山賊たちの後始末は彼らに任せることにして、三人は事の真相を確かめるため、《オーレン一家》アジトを抜けてポイ村へと急いだ。
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