~消滅~ ②

「ありがとう。思いだしたよ、何もかも。あたし……助けなきゃ」

「何を言って……?」


 エルはカナタの顔のすぐ前まで羽ばたく。


「あたし、カナタと出会ってから、全部が楽しかったよ。皆、ここに連れてきてくれて……本当に、ありがとう」



「エル、どうしたの……?」


 メンバー達はエルの言葉に固まり、ただただ困惑している。


「エル……それじゃ何か別れの言葉みたい……」


「カナタ……。確かにあたしのこの身体ではお別れだけど……でも、お別れじゃない、よ。カナタや、皆に出会えて、よかった」


「何だよそれ、意味分かんないって……!」


 エルの身体が樹木に引き寄せられるように浮き上がって行くのを止めようと、カナタが瞳に涙が溢れ視界が歪みつつも、手を伸ばしたのと同時に、それを阻まれる様に視界が眩しくなった。


「わっ!!」


 メンバー達も突然の光に皆手や腕で目元を守る。


 暫くすると光が治まり、代わりに幼い声が聞こえた。


「皆さん、はじめまして。エルがお世話になりました……。ここまで連れてきてくださって、ありがとうございました」


「エル……は?」


 カナタは目の前に居る、白い上品なワンピースを着た少女に、信じられないという表情でいる。少女は、金色の髪を高い位置でゆるく一つに結わえていた。


「エルは、私の仮の姿でした」


「どういう、こと?」


 カナタは困った表情ですがるようにミラを見つめる。


「私が、惑星プルトーの“核”だからです」

「核……!?」

「はい。ここへ迫る敵は、私の存在、そして姿も知っています。惑星が無傷であっても、私の命がなくなれば、消滅してしまうということです。そこで、身体を変えられ、避難させられていたのです」


「何、そのしくみ……」


 リーナは驚きつつミラとカナタを見ていた。


「よほど何かない限り、私は、永遠にこの姿で生きることになります」


「そう……なんだ……。エルはギャラクシー・ウォーのAIだったんだね」


 マイキーは優しく、カナタを見ながら言う。


「カナタ。エルを……。私を守ってくださって、ありがとうございました」


「お礼なんて……いいよ」


 カナタは現実を受け入れようとしっかりとミラを見つめた。ミラはカナタへ柔らかく微笑み、そして凛とした表情となった。


「では、これより惑星プルトーを復活させます。アイカさん」


 ミラに名前を呼ばれたアイカは驚いて目を見張った。


「は、はいっ」


 ミラはゆったりとアイカの元へワンピースのスカートを揺らして歩いてやってきた。


「手伝って、頂けませんか。あなたは、特殊な力を持っています」


 アイカに手を差し伸べるミラ。


「時の、賢者――」


 その言葉に希望を込めたのはライトだった。



「で、でも私に何が出来るのか……」


 アイカは希望を見つめられるような瞳に囲まれ、しどろもどろになる。


「大丈夫です。もう、十分なレベルになっているようです。私の手を、握っていてください。そして、瞳を閉じて。私がイメージするものを、アイカさんが受け取ってくれたら、それは完成します」


「う、うん……!」


 話しが見えないが、自分が力になれるならと、アイカはミラの手を取り、立ち上がった。


 二人は、光を失いつつある傷ついた樹木へ向かうように立つ。


 辺りは、静まり返り、消滅活動という惑星から解き放たれる言葉だけが繰り返し聴こえる状態となった。


「プルトー。今までありがとう」


 ミラは瞳を閉じ、アイカも合わせて瞳を閉じる。


「プルトー。もう一度だけ、思い出して。人々の希望を。人々へ、忘れてしまった希望を与えるために、思い出してもらうためにここは在る――」


 ミラの手から、熱が伝わってきた。


 瞳を閉じたアイカに、ミラの手から伝わって、イメージが視えてきた。


 輝く樹木、生まれる水、人々の笑い声、愛情。それが、小さな輝きとなって無限の方向へ運ばれていく――。



「アイカさん、あとは、アイカさんがいつも通りに使うそのスキルを、力強く……お願いします」

「うん。分かった……!」


 光が生まれ、綿毛のように揺られていろんな場所へ運ばれてゆく。


 輝きの温かさを感じていると。


 一つの輝きを手にした一人の男性の顔が瞬時に見えた。


 次には。


 ライトが、こちらへ微笑む姿が見えた。


 アイカ――。


 そのライトには、眼帯がなく、心から嬉しそうに微笑んでいて。



 涙が、溢れた。



「お願い……元に、戻って――!!」


 ミラとアイカの身体が光に包まれた。


 そして、戦士たちを包むように、惑星を包むように。温かい光がプルトー全体を包んだのだった。



 エル。

 こちらこそ、ありがとう。

 初めて話しかけてくれたのがエルで本当に、本当に、嬉しかったよ。

 

 カナタは光に包まれながら、静かに瞳を閉じた。

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