第40話 ~消滅~ ①


「え?」


 声だけではない。目も、疑った。 


「アイカ、いい加減着地の仕方どうにかしろよ、な?」


 じゃないと心配だろと、言葉を足した彼。



「ライト……!?」


 左目に眼帯を付けた彼は間違いなくライトだった。


「うそ、どうして!?」


「俺達も丁度ここの救護要請を受けて来たんだ。さっきの一斉攻撃の後に、妙におかしな堕ち方する奴が居ると思って来たらこれだ」


 ライトはどこか笑うことを堪えているような、そういう姿を見せていた。


「ライト……」

「黙って出て行っちまって悪かった……。久しぶり、だな」


 その言葉の後、着地した。


「アイカー!」


 リーナやルナシスの仲間が呼ぶ声がする。アイカとライトが着地した場所に、それぞれが集合する。


「アイカ、大丈夫!? ってライトじゃん!?」


 アイカがリーナへ大丈夫だよと言い終わるや否や、リーナは思い切りライトの腹にパンチを繰り出した。


「う゛!! おい、な、何するんだよ……!」

「うっさい! あんたが黙って居なくなって、アイカがどんだけ心配したと思ってんのさ!」

「……ワリィ……」

「そうだぞーライト、俺だって心配だったんだからなー」


 マイキーは思い切り、自身よりも背の高いライトの肩にジャンプするように腕を回した。


「おいマイキー……! 悪かったって」


「お久しぶりです、ライトさん。無事そうで、何よりです」

「おうユララム、ありがとな。あとー……」


 メンバーが再会を喜んで居る中、一人真剣な表情でライトの元へ向かってきたのはカナタだった。


「あなたが、ライトさん……。はじめまして、僕はカナタです」

「お、おう」


 カナタとは初対面であるのに、真剣な表情をされたライトは視線をアイカに向ける。無言で、何があったんだと、瞳で訊いてみる。分かんない、とアイカは困惑した瞳を返すだけで精一杯だった。


「あぁーもーびっくりした、カナタったらすごい剣幕だったから。このデッカイ人殴るのかとか思っちゃったじゃん」


 突然カナタの後ろからエルが登場し、驚くライト。


「わ!? よ、妖精……?」

「どもども、皆お疲れ様だねっ」

「エル、ありがとう、なんとか終わったね……」

「頑張ったじゃん。カナタも、皆も」


 その時、エルの身体に少しノイズが入った気がした。


「え……? エル……?」

「うん? なぁに?」

「いや、その、身体が……」

「……なによ、小さいのは仕方ないんだから」

「いや、そうじゃなくてさ……」


 エルの様子は変わらないため、疲れから見えたものなのかと、息を整えることに集中した。


 その時、惑星全体にプルトーの警報システムの音声は流れた。


“悪性エネルギー体、消滅。惑星の損傷が90%を超えたため、生存不可能。これより、消滅活動を開始します”


 その言葉に驚いたのは、プルトーに訪れていた戦士達と、エルであった。


「え!?」

「どうして!?」

「信じられない、どうして、何のために戦ったわけ!?」


 戦士達の悲痛な声が次々と上がる。それを聴きながら、アイカは希望を失った事を身をもって知らされた事が分かった。


「これじゃ、これじゃ……!」


 ライトの目が……治らない……!?


「そんな……!!」


アイカは力なく座り込み、心の奥に絶望という気持ちが湧き出てくるのがわかった。




「樹木が……」


 一方、戦いが終わり、消滅活動開始を告げられた頃。サナは巨大にそびえ立つ樹木の根のひとつに触り、瞳を閉じて視ていた。


「悲しみでいっぱいになってる……。樹木の奥まで、闇のエネルギーが浸透してしまってたみたい」


 サナの側にケイが寄り、サナの肩に手を置いた。


「何で……サナ、どうにかできねぇのか」

「やってみる……聖なる力の根源がこうなったら……どうにもできないかもしれないけど……」


 樹木に触れるサナ手のひらが光る。


 戦士たちは落胆してその場にしゃがみ込む者や、途方にくれる姿の者も居た。



 だが、微々たる力であっても、確かに樹木へ力を与えていた。



『お……かえり……なさい』


 突如、戦士達頭の中に響いた力のない声。


 サナははっと顔を上げ、側で見守っていたケイと目が合う。ケイが頷くと、樹木へ更に力を送るサナ。



「え、え? 誰か居るの?」


 リーナは、頭に響いた声に弾かれたよう辺りを見回す。他のメンバーも同様に、辺りを見回すが、それらしき声の主が見当たらない。


『おかえりなさい……ミラ』


「ミラ?」


 そんな名前の仲間はいないと、メンバーはお互いに顔を見合わせては首を横に振る。


「……エル?」


 カナタは、またエルの身体にノイズが走るのが見えた。


『ミラが無事でよかった』


「ミ、ラ……それって……」


 エルは確かにその名を知っていた。


「エル……?」


“今日も幸せそうで、何よりです”


 エルの脳内に瞬間的に樹木と話している映像が見えた。


 それをきっかけに次々と、プルトーにまつわる記憶が蘇り、体が感動で震えた。


「カナタ……ねぇ、カナタ!」

「どうしたの、エル」


 エルの中で、バラバラだった記憶が一つになっていく。



「あたし……思い出したよ! 全部思いだした! あたしは、ミラだ」


 エルが嬉しそうにカナタの前を飛び回る。


「何……?」



『おかえりなさい、ミラ王女』



「王女……!?」


 王女という言葉に驚くメンバー達。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る