第39話 ~雨が止む~

「どういう、こと?」


 アイカはゆっくりと立ち上がる。

 雨がアイカの髪や衣服を次第に濡らしていく。


 状況を把握しようとしていると、突然間近で聞こえた車のクラクションの音に全身が震え上がった。


「きゃ!!」


 アイカは反射的に飛び退くと、車は何事も無かったかの様にそのまま走って行ってしまった。


 何故だろう。

 いつもならなんだろうあの車、だけで終わるのに。



 ものすごく、胸騒ぎがする。



「行かなきゃ」



 アイカは車が行ってしまった方向へと走った。



「だめ、だめ、そっちはだめ!!」



 この先何がおこるのかなんて皆目検討もつかないというのに、何故か、心が危険だと叫んでいた。


 わけも分からず雨に打たれながら走る。



 助け……なきゃ。


 助け、られるかな……。



 ううん。違う。



 浮かんだ、愛しいあの人の表情。


 愛しい。

 一つ思い出せば、溢れんばかりの愛しさに襲われた。



「ライト!!!」



 助ける!!


 助けるから!!


 お願い、元の場所に戻して!!!






「でりゃああ!!! アイカ!! 目を覚まして!!」


 突然の大きな声。目を覚まして?


「マジ、何でアイカちゃん目覚まさないのかな! この黒いの怖すぎ!」


 アイカの意識は先ほどの夜の雨の光景とは打って変わって、ぼんやりとしていた。


「アイカさんが起きるまで、こうやって戦ってて意味あるんですよね!?」

「起きてもらわないと困るよ!!」


 あれ?

 この声……。


 はっとなって、アイカは身体を起こした。


「あ!! 起きた、良かった!!」

「もう、心配したよアイカちゃん!!」


「え?」


 今度視界に入ったのは、ルナシスメンバーが光り輝く武器や防具を身にまとい、暗闇を切り裂く姿が視えた。

 切り裂いた跡に、プルトーであろう景色が垣間見えていた。


「な、に、これ……」


 アイカは腰を抜かしたように様子を見ていると、エルが近寄ってきて、まばゆい光でアイカを包んだ。

 


「大丈夫だよ、アイカの意識が戻ったから、あたしもバリアを貼りやすい」

「何、どうして、どうなってるの?」

「ここに辿り着く前に、マイキーがクリスタルで出来た防具を転送しようとしたら、アイカの意識が急になくなっちゃったんだって」

「え!? ちょっと待って? ココって……」

「プルトーだよ。あれから闇を抜けてたどり着いたの」

「ええええ!!?? す、凄い!!」


 アイカは頬を両手で抑えて驚いたのと同時に喜ばずにはいられなかった。


「ふふ、艦自体は、私守れたんだけど、僅かな隙間に入り込んでくるのがあの恐ろしいエネルギーだからねー……」

「へ、へぇー……じゃあ、このエネルギー達の正体って……」


 心の、闇――?


「アイカの思うのが、正解かもね。マイキーの皆への転送が一歩遅かったっていう言い方もあるけど……。でも、よかったよっ」


 エルは本当に嬉しそうにアイカに向かって微笑んでいた。


「ねね、アイカちゃん俺の作ったクリスタルソード、超かっこよくない!? もちろん、短剣、魔道具にもできちゃう優れもの!」


 マイキーは愉快に呪文を唱えながら闇を打破していく。


「す、すごすぎるよ、マイキー。やっぱりマイキーは凄い」


 アイカは圧倒的な攻撃力を見せるマイキーの技術に、口元が緩んだ。


「まったく。遅いですよ、アイカさん……って、大丈夫ですか? いけますか?」


 ユララムがアイカに近づいて手を差し伸べる。


「うん、行ける」


 ユララムの手を、力強く握った。



 プルトーにたどり着いたのはチームルナシスだけでなく、数々の戦艦からのメンバーが聖剣を振りかざして闇を切り裂いていた。


 そして、ついに闇は一つの塊となって空に漂う。



 この闇を切り裂けば、ライトの力になれる。


 彼の左目が治れば、またルナシスに戻って来られる――!



 アイカは迷いを払うように思い切り息を吐き出し、そして立ち上がった。


「アイカの後ろは、僕が守るから安心してくれ」


 ポン、とアイカの肩に手を置いて、微笑んだのはカナタだった。


「カナタ……。ありがとう、本当にありがとう」


 希望が、もう目の前に在る。


「よっし! アイカが来たからにはもーうこれは大掃除じゃん? 最後まで、斬って斬って、斬りまくるわよ!!」


 リーナはアイカの復活を喜び、闇に向かって短剣を構える。


「あ、そうだ、マイキーからのを装備しなきゃ意味無いんだっけ……」

「ちょ、アイカさんまだ装備終わってなかったんですか!」

「いいじゃん、装備できればっ。それに、何かアイカちゃんらしいっ」


 マイキーはユララムやアイカに笑顔を向けた。


「そういうところが、守りたくなるんだろうね」


 カナタが側でアイカを守るため二丁拳銃を構える。


「そんな……。ありがとう。準備、できた」


「よっし! じゃあチーム・ルナシス、フルボッコでいくわよぉ!!!」


 装備が完了したアイカへリーナが気合を入れてルナシスメンバーに活気を生み出すために声を張り上げる。


「うん!!」

「おう!!!」


 エルもカナタの戦闘服のポケットに入り込むと、嬉しそうに手元を握りしめた。


「うりゃあああ!!!」


 ルナシス・メンバーだけでなく、沢山の戦士たちが空に漂う塊の闇に向かって飛び上がった。



 ズシャァアアア―――――!!!! 



 闇が、一気に凝縮していく。


 そして、戦士たちの攻撃の力によって生まれた豪風。


「きゃぁっ!!」


 アイカや戦士達は風圧に吹き飛ばされ、高く舞い上がった。


「え、ちょ!? え!? どうなってるの!?」


 高く上がった身体は、対策を取らない限り堕ちるしか無い。


「まって、ちょ、体勢が整わない!」


 堕ちる身体。


「きゃぁああ!!!」


 アイカは混乱したまま気絶しそうになった、その時だった。


 身体の全体に、小さな衝撃を受けた。


「え?」


 何かに支えられた感覚さえもして、わけも分からず、状況を把握しようとする。




「また、堕ちてんのかよ」


 その声に、耳を疑った。

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