第8話 ~ロック・オン~ ①


 地響きが、段々こちらに近づいてきて近くにそびえ立つ森林が揺れ動き、枯れ葉はいとも簡単に落ちた。

 全身が揺れて、視界もブレる。

 

 身体に当たる空気が何だかピリピリと痛く感じた。

 この光景に、確実にルナシスメンバーの皆は気を張り詰めていた。


「皆、ざっとだけど作戦ね」


 リーナの声は高めだが、真剣な話をするときは気持ちを落ち着かせるためか少し低くなる。


「タランチュグラは巨大生物だから、まずは相手の死角に入り込んで……」

「一気に叩く!」


「そうね、マイキー。あんたの攻撃魔法は誰よりも“速い”から。隙がある所には徹底的に叩き込んで。あと、糸を吐き出されるところも、マイキー、あんたがちゃんと見ててね」


「へぇーい! 俺の“改造”で作ったこのゴーグルさえアレば大丈夫っ」


 マイキーはいつもオプションとして頭にゴーグルを装備している。


「すごい、それマイキーが作ったの?」

「そだぜ、俺の特技は改造なんだ。このゴーグル、“見分けくん”は相手の動きを少しスローに再生してくれるし、一番ダメージを受けてる所とかもわかるんだぜ。あと、これさえあれば幻覚術だって俺には通用しないっ」


「……機能は凄いのに。あんたってネーミングセンスほんっと無いわよね」

「リーナはさ、褒めるセンスってのがないよねっ」

「マーイーキー!」


「そうだ、アイカも、マイキーが仕掛けたら、あたしと一気に蜘蛛の動きを止めるため……脚へ、ね。攻撃に入ってね。一緒に居るから、安心して」

「うん、わかった」


 リーナの瞳が私をしっかりと捉えている。

 視線から、信じていいということを改めて認識する。


「タランチュグラは確か俊敏さはあまりないんだったよな」

「うん。ライトはあたし達が脚を止めてる間に、一気に頭部を狙って叩いて」

「了解。任せろ」


 ライトは、拳と手のひらを勢いよく合わせ、音を鳴らして気合を入れた。

 地響きが近づく度に、どんな大きさなのだろうかとか、どんなにおぞましいものなのだろうかとか、怖い怪物を思い浮かべるばかりで。

 アイカはごくりとつばを飲んだ。


 あれだけ身体を上下させた地響きが急に止まった。

 恐ろしく静まり返る。


 小さく、リーナが呼吸したかと思えば、真剣な目つきで先の木陰を見るよう促す。


 ごくり。


 先の木陰は少し暗がりで見えにくかったが、は確かにあった。


 樹の幹よりも太く、黒い、鋭い物体が地面を刺して止まっていた。

 足、だろうか。本体を探すが見えない。



「ライト!! 跳べ!!!」


 突如、マイキーがあらん限りの声で叫んだ。


 ライトは驚きつつも反射的に身体が反応し、ジャンプしたかと思えば、その身体は落ちていくこと無く、空中で不自然に止まった。


「……ん? おい、マイキー……お前俺の足元か?」


 マイキーがゴーグルに手を触れると、様々な情報が目の前に映しだされた。


 タランチュグラLv50

 HP250000 特殊効果:ステルス・スピーディア・ウォールド


「ああ……見えるぜ。タランチュグラコイツ、まさかのLv50だぜ……。おまけにステルスとスピーディア、そしてウォールドの術が掛かってる。弱点無しだなぁうぉい……。あり得ねぇ……レアボスか……?」


「まじかよ、普通よくてLv20だろ! なんでここに…こんなんアリか? それにタランチュグラって使


「ちょっと……コイツ倒すにせよ、あたしがLv25、マイキーLv23、ライトがLv31……アイカはまだLv.1だし……だめだ、絶望的。コイツのLvといい特殊効果がある限り、あの戦略はコイツには全く効かない……」



 ビュゥ―――!!


 ズドン!!!!



「きゃっ!!」


 足先が、アイカ達を狙って空気を切り裂くような速さで刺してきた。


 

 速い――!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る