第3話 ~ログイン=生きはじめる?~ ①


 アイカ、アイカ―――


 アイカちゃん―――


 次、ここ行こうぜ―――


 レイドボスが出たってさ―――



 これは……夢?

 なんだか、声がする。

 賑やかだなぁ……。



 アイカ―――



 落ち着いた、温かい声。

 どこか愛しくて、私は声がした方を向こうとした。




「アイカさん」


 はっきりと耳に届き、同時に目が覚める。


 あれ、私、寝てたんだっけ……。

 そして、いつの間にか立っていた私。


 見慣れた天井、見慣れた部屋……ではなく。

 初めて見る、星の海と、ガラスを張り巡らされた天井。


 星が、凄い……宇宙……?


 目の前には、カウンターと、その奥にはスーツ姿のメガネを掛けた男性が立っていた。

 髪の色は緑で、耳の形はウルフのよう。明らかに人間離れしている。

 ここは、どこ?


「目が覚めましたね、アイカさん。はじめまして、私はゼロと申します。

 そして、ご当選おめでとうございます。ここはギャラクシーウォーβ版の窓口です」


「え? ご当選? え? 窓口?」


 夢にしてははっきりしている。

 だが、夢にしてはあまりにもリアルだ。


 自分の身なりをふと、見てみる。


 そういえば、着ていた洋服が

 ちょっと小洒落た戦闘服っぽくなってるような……。


「申し訳ございません、説明が足りなかったようで。

 ここは、選ばれた人材しか来ることができない特別な場所なのです。

 アイカさんは、ギャラクシーウォーβ版にたどり着いた現在より

ここに“存在”することになります。」


「え!? あの、え、あたしはここで……生きる……ということですか?」


「はい。ログインである指認証は、たった1度だけでいいという便利な時代になりました」


「いやいや、そういうことじゃないでしょうっ」


 思わず突っ込んでしまった。


「ちょっとまって、そしたらあたし、帰れないんですか?

 仕事どうしたらいいんだろう……」


 仕事は行きたくもないけれど、クビにもなりたくない。


「帰る……。あぁ、退会の事ですね。今すぐは退会は不可能です。

 もちろん、退会自体は可能ですが、条件があります」


 よかった、と安堵すると


「1つの章が終わる事。その時に、退会か否かを選択することができます」


 1つの章……案外、早く帰れそうだ。


「そうですか……なんだか安心しました」


「安心、ですか。アイカさん、注意事項なのですが。

 退会を選択した場合、ここでの記憶は一切なくなります」


「えっ、どうしてですか?」


「基本、ここで起きたことを外に漏らして欲しくはないのです」


 確かにそうではあるけれど。

 誰も信じなさそうだけどなぁ。


「あぁー……。そしたら、全部クリアして、戻る場合は…?」


「その場合は、クリア報酬として、記憶を与えましょう。

 ただ、仲間以外の人間に打ち明けた場合は、即記憶を消させていただきます」


 それはそれで、何だか怖い。


「あの……ゼロさん、記憶なんてって、思ったりするんですけど……」


「まぁそれは、ここで体験してから、また決めてくださるといいと思います」


 にこりと意味深な様子で微笑まれては返す言葉がない。


「そうだ、アイカさん。

 リアルの世界での存在については、お気になさらず。

 ここに“存在”がある以上、あちらの世界では空白の“時間”が代わりに入って

時が進んでいきますから。“居なかった事”にはならず

“いつでも戻ってきても問題ない状態”というシステムになっています」


 安心でしょう、と、また微笑まれる。


「んー……よく分からないけど、とりあえず、どうにかなってるってことね」


「はい。そこは、ご安心ください。

 まだまだ、初めてのことだらけでしょうから。これから、説明していきますね。とは言え、私より、仲間と一緒に学んだほうが楽しさが増すでしょう」


 と、ゼロの手元に画面が浮かび上がる。


「……あ、アイカさんラッキーです。丁度今、レイドボスが出ていますから、

 そこへあなたを転送しますね」


 では、いってらっしゃい――と、最後にまた微笑まれた。


 優しい人なんだなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る