第2話 ~β版は何が起こるかわからない~

『ギャラクシーウォーβ版開始しました』


 愛華はその知らせに「ネットゲーム?」と言葉を漏らした。それまでゲームと言ったら一人でできる、簡単なスマホゲームぐらいしかしたことがなかったからだった。


 ソーシャルメディアに全く登録していない、ということはないのだが、どういう関連でこの宣伝が来たのだろうと愛華は首をかしげた。

 考える気力は今の愛華にはなかったため、「寝ぼけて何かに登録したっけ?」ということにして少しずつ興味の湧いた“ギャラクシーウォー”の文字へクリックしたのだった。


 広大な宇宙の背景にして、ゲーム特有の戦闘服姿をした魅力的な男性、女性達がトップに並んで現れた。


「うん、美麗なイラストやギャラリーは合格」と愛華はドキドキしながら内容が載っているところへと画面をスクロールする。


“宇宙暦30xx年――星々は滅びを迎えていた――”


 それは、壊滅危機にある宇宙を守る戦闘ゲームの様だった。

 定期的に生まれてくる宇宙の生物やレイドボスを倒して、仲間と共にレベルアップしていく。

 アクションRPGに属されていた。


「宇宙、かぁ。今まではパズルゲームとか育成ものばっかりだったし……滅多にしなかったジャンルだから、やってみようかな」


 アクション、ストレス発散にいいかも。と思った愛華は“新規登録”と、青く光るアイコンをクリックした。


『はじめまして。お名前を入力してください』


 画面には文章と、落ち着いた音声が同時に流れだしてきた。


 名前を“アイカ”と入力し、決定ボタンを押すと画面が自動的に切り替わる。


 出てきた画面は、様々な宇宙を映し出したモニター画面を背にした宇宙戦艦の司令室に、司令官特有のものだと思わせる服装とバッチを身に着けていた女性が立っていた。

 女性の司令官といっても、ビシッとした様子は皆無だった。ゆるやかなウェーブの掛かった栗色をしたロングヘアで、同色の瞳は大きく頬は少しふっくらとしている。おまけに司令服の腰にはふんわりとした大きなリボンが印象的だった。


 そんなふわっとした女性司令官が口を開いた。


『はじめまして、アイカ。

 私はこの戦艦―ルナシス―を指揮するルミナよ。

 このルームの画面を見ての通り……この世界はもう壊滅危機となっているわ。

 私達の星や人類を守るための優秀な人材が欲しかったの。

 これから、あなたと、この世界をシンクロするためにいろんな情報を頂戴ね』


 この声優さん聴いたことあると、愛華は誰だったかと考えていた。

 背景には壊滅危機、そして目の前にはどこか緊迫に欠けるふわふわした優しい声に妙なギャップさえも感じる。


『シンクロするには、このPCだけでなく、あなたの持つ

もう一つのデバイスが必要よ。それは仲間との通信機にもなるから。

 スマートフォン、タブレット、ゲーム機でもいいわ。それをUSBで繋いで』


 なかなか、手間のかかるような事を仰る。

 愛華は手元にあったスマートフォンとPCをUSBケーブルで繋いだ。


【読込中……】と画面に出てしばらくした時、“ウィンッ”という機械音が鳴ったかと思えば、スマートフォンの画面にはたまご型のようなマークがぼんやりと浮かび上がっていた。


 なんだろう、これ……。愛華は少し眉間にしわを寄せながら、画面を覗き込むように見た。


『アイカ、そこへ人差し指を置くの。

 ここでは、ログインは指認証で行うわ。終わるまで、じっとしてるのよ』


 あれ、戸惑ってるのがわかるの? と愛華は言われるがまま指を置く。

 最近のネットゲームは凝るところは凝ってるんだなと、納得することにした。


「んっ?」


 静電気……? びっくりした。

 触れようとした瞬間指先からほんの少し微弱な電気が走るのを感じたのを、愛華は逃さなかった。


 しばらく【読込中……】という文字が流れては消える。

 繰り返す文章に、次第に愛華へ眠気が訪れてきた。


 時刻は、23時56分。


 愛華がなんとなく、時計を見た時はもうそろそろ日付が変わる頃だった。


「早いなぁ、もう0時になるんだ……。眠くなってきたし、ログイン出来たら寝ようかな。ログイン、出来たら……」


 視界が揺らぎだす愛華。

 こんなに眠気がくるほど疲れてるのかなとも思っていたが自力ではもう視界を止めることができないまでになり、気がつくと意識を手放していた。


 ふわふわした意識の中、指はそのままにして。まどろみに浸った愛華だった。


 時刻は0時00分。


【成功よ、アイカ――――】


 遠くの方で、優しく、ルミナの声が愛華の耳に聴こえた気がした。

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