リアルよりネトゲの方が本気で愛情が生まれる気がするのですが❁完結❁(リライト中ですが、内容には差し支えありません☆彡)

満月 愛ミ

ギャラクシー・ウォーへようこそ

第1話 ~表情を作ろうサイトから脱出せよ~


 あなたが心から笑える瞬間は、

 誰と一緒に居られる時ですか?



 私は、自分だけの時間に

 画面に向かった時が一番

 心が踊る。



・・・・



 タイムカードの音と共に、出勤モード、オン。

 鏡見て、笑顔を作る。よし、完璧だ。


 会社での勤務時間は口元を上げ、笑顔を見せる。


「今日も素敵な笑顔だね、白崎さん」

「ありがとうございます、部長」


 綺麗な声を意識してはっきり、そして優しく言うことを心がける。


 日中は社員が席を立ち上がっては「この案件はどうなってる?」と休み無く動いている。

 もちろん、下っ端であればあるほど人と顔を向けたからには笑顔を向けなくてはならないため、なるべく目を合わせないようにしていた白崎愛華の元へも先輩はやってくる。


「これをお願いしてもいいかしら。

 ちょっと急いでる書類だから、慎重にね」


「はい、分かりました。この書類ですね。早急に用意します」


 嫌でも人々の目を見て今日も仕事をこなしていくのだ。


 人と関わる時に「人は皆お客様」と考えるようになったのだろう。

 愛華は嫌でも作れるようになった笑顔を重ねていくたびに、ふとそう思うことがあった。


 昔から腹を割って話すのが苦手である愛華。

 社会人になってからというもの、会社での人間関係のあまりのシビアさが少しばかりトラウマになっている様子。



 先輩は後輩の噂話を楽しむが、下っ端になればなるほどそれができない。

 危険すぎるのだ。全て、どういうわけか筒抜けになるシステムになっている。

 しかも、内容にいくらかの輪がかかって返ってくるということも、愛華はよくわかっていた。

 最近はSNSもあるから、なおさらだった。


 もちろん、男女の恋愛など、誰も祝福しないのが当たり前の時代。


 何年か会社勤めを続けてきた愛華だが、上司や同僚と関わるときの感覚が気が付いた時には“接客”という部類に分けられてしまっていた。

 嫌でも身に沁みた振る舞いだった。


 愛華が化粧室で見つめた自分の顔にハッとした。


 ああ、疲れてる。


 顔と気持ちがあべこべになってきてるからか、と愛華は鼻で笑う。


 友達へだってそうしてしまう。社会人になってからか、あるいは――。

 結局は人と関わる以上、愛華には全てが接客業に思うようになっていた。


 昔は一人ひとりの様子を見て、この人、何かあったのかなとかもっと人間らしく考えている時間があった気がするのにな。

 愛華はそう、炭酸水を飲んで思うこともあった。人間はこういった状況が続くと、簡単にも、共感という感情が遠ざかって行ってしまうものなのだろうか、と。


 日々、謙虚に生きる。そうすれば、好きじゃなくても、笑顔になれる。

 そのために、今日も愛華は笑顔をつくる。


 時には「これどうなってんのよ! 聞いてたことと違うんだけど!?」と、ムカつく客に怒鳴られることだってあるが、愛華の心の内、気持ちは嫌いでも、申し訳ありませんという表情をつくっていた。


 謙虚を創りあげ、膨大に感じる量の“接客”をこなす。



 誰も居ない家に着くと叩くように電気をつけ、ソファに疲れ果てた身を投げる愛華。


「あー……疲れたー……!」


 この瞬間が愛華にとっての「表情を作ろうサイト」から脱出できた瞬間。しばらくうねうねと身を転がしてから「あー、ご飯食べるのもめんどくさい……」とだらけつつも身体を起こして愛用のパソコンの電源をつけた。


 “ガガッ”という特殊な機械音を聞き流しながらお菓子専用の引き出しを開けにのそのそと向かい、お気に入りのチョコチップクッキーの袋を手にとった。

 冷蔵庫を開けると、ウーロン茶、他にはところどころ惣菜が入っているだけだった。

「明日、お酒かジュースか……何か買ってこよう」と怪訝そうな顔をして見た後、バタンと冷蔵庫を閉めたのだった。


 一通りの食事と飲み物を手にもってパソコンの前に座る。

 ウェブメールを開き、いつものようにメールチェックを行う。


『ギャラクシーウォーβ版開始しました』


 それまで疲れによって眼力さえ失っていた愛華の目に、受信メールのトップにその件名によって、「え?」と現実に戻される感覚がしたのだった。

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