第7話 ガウルフ vs ルスカ
下山開始から2週間ほど過ぎた。
歩きっぱなしでルスカの機嫌がわるい。
「ぜにすー。まーだー?」
「もうすこしだ」
「それ、きのうもいったのー」
不機嫌だ。そのたびに撫でてあげるけど、やはり不機嫌だ。
「ゼニス。正確にあと何日かかるかわかる?」
「うむ。山のふもとまで行くだけだからな。この速度ではあと4時間程度だろう。」
ならあと8時間くらいだと思って気長に行こう。
そういえば、ここはもうほとんど下り坂がない。
紫竜がアルノー山脈の頂上で飛んでいるのが米粒みたいに見える。
あそこらへんから歩いてきたのか。3歳児、頑張った。
高度が下がると気温が上がる。
すでに気温は30度くらいで、結構暑い。
もしかしたら山のふもとって砂漠地帯じゃないだろうな。
「む、喜べ。ガウルフが現れた。人里は近いぞ。」
なんか灰色のオオカミが現れた。
人里で悪さするようなオオカミなんだろうな。
今までのランクから推測すると、このオオカミの強さは
普通の………駆け出しを抜け出した冒険者がソロでなんとか勝てるレベルかな。
アルノー山脈は結構強い魔物やら動物やらが多いみたいだ。
そして、魔物であろうと動物であろうと、僕にとっては『肉』が現れたとしか認識していない。
焼肉は偉いよ。うまいから偉い。
これはなんのセリフだったかな。
胆嚢や脳みそは食わないけど、食べられるものは食べないと損なのだ
ここ最近、ホワイトベアーの解体とかでかいイノシシの解体とかばかりしてたから、僕の解体の腕が上がっていくよ。
なんでだろうね。僕はどこに向かっているんだろう。
今の僕だったら、前世で
5分もあれば、鶏程度ならすべての部位を解体できそうだ。
えっと、まず血を抜いてから熱湯にさっと付けて羽を落とすでしょ。
肛門に切れ目をいれて、食道を切断。
ケツの方から内臓を全部引っぱり出すでしょ。
胆嚢を傷つけないように砂肝や肝、心臓、腸、胃を部位ごとに分けるでしょ
首をどこかに引っ掛けて宙に浮かせた後に背中に縦断する切れ目をいれて、右足を腰から解体。そのあと左足。
腰骨を切断して、つぎは肩からムネ肉を引っ張って骨と肉を離す。
残った鶏がらからはササミと
さらに残った首ガラから
最終定期にあまった鶏の骨だって、鶏がらのスープにしてしまえばあら不思議。
どこも余すところなく鶏を食べることができましたー
ちなみに、胸の中央にある
ヒザナンコツもコリコリしておいしいの。
はぁ、なんで僕は解体ばかりやっているんだろう。
まぁ、おかげで下山しているだけなのに、僕に肉が付いてきた。
3歳児のガリガリ体系から、ちょっと痩せすぎている3歳児くらいにはなったかな。
解体もけっこう筋肉つかうから、鍛えることもできたよね。
筋肉、ついた………かなぁ。
でも、ルスカほどじゃないだろうな。
あ、ちなみに、イノシシの毛皮やホワイトベアーの毛皮は僕がなめして乾かして、量の少なくなってきたゼニスのカバンに入れてある。
苦労したのはなめした皮を乾かすとき。日干しするのか陰干しするのかよくわからない。
しょうがないから僕の火魔法とルスカの風魔法による温風ドライヤーで一気に乾かした。
今の時点では生臭い。
人里に着いたら売ろうと思う。
「りお~、ぜにす。あのおおかみさん、るーがおいはらってみたいの」
おや、暇を持て余した我々の天使がそんなことを言い始めた。
なんてことだ。
普通の冒険者がようやく討伐できる狼を、自らの手で追い払いたいと。
過信のし過ぎだ。
いままで、ルスカは怪我らしい怪我をしたことがない。
ゼニスがポンポンと蹴飛ばしているのをみて、自分だってと思っても不思議じゃあない。
だが、それは甘い考えだ。世の中を舐めすぎている
「あぶないから、ダメ」
「ぶー。りおがそういうなら、がまんするの」
ただ、ちゃんと僕の言うことを聞いて、やっていいことといけないことの分別はついている。
だからこそ、僕にやっていいかを聞いてきたのだから。
だからといって、危険なところにルスカを放り出すほど、僕は甘ちゃんじゃない。
当然、ルスカの提案は却下である。なんてったって3歳児だ。
牙で噛まれたら、それだけで喰い千切られる。間違いなく。
「まてまてリオル。ルスカが危なくなったら私がヘルプに入る。やらせてみたらどうだ?」
だというのに、子供の成長を見る親にでもなったつもりなのか、ゼニスがそんなことを言い出した。
「………ルスカに怪我させたら、僕は怒るよ」
「わかっておる。私もリオルを怒らせたくない。全力でサポートするとしよう」
ということで、ルスカの戦闘を見よう。
「りおー、ほうちょうちょーだい」
「ん、あぶないから、気をつけて使うんだよ」
「はぁーい♪」
僕が土魔法で作り上げたミスリル包丁。
職人が鍛えたわけじゃないから、切れ味は保証しない。
でも僕がいつも解体できているから、相当な切れ味はある。
ミスリルだから軽いし、ルスカにも扱えるだろう。
「ガルルルルル……」
ガウルフが警戒してルスカから距離を置く。
そして、僕とゼニスもすこし離れる。
ゼニスはすぐにでも駆けつけられる場所にいる。
僕は怖いからかなり離れて糸魔法であたり一面に危険はないか
「やー!」
ルスカがパタパタと走り出してガウルフに駆け寄る
「ガウ!」
それに警戒したガウルフは、向かって来るわけでもなく、逃げ出した。
「あ、まってー!」
野生のオオカミって、警戒心が強いからなぁ。
いきなり近寄ったら、なんであれ逃げるんだね。
人間だって、いきなりネズミが向かって来たら逃げるもん。小動物が敵をもって向かって来たら、油断なんかできるわけがない。こちらの実力が上だとわかっていても、『向かってくる』というのは、相応のプレッシャーを相手に与えることができるのだから。
そういや、前世でもズンズンと人が歩み寄ってくるのは怖かったなぁ。その時は十中八九、実際にぶん殴られていたけどね。
「きゃん! ふぇ………ああああああああああああああん!!」
さすがにオオカミの脚力に3歳児の足は追いつかない。
ペタペタと走って追いかけるが、短い脚をうまく使えず、石に躓いて転んでしまった
「ああ、ルスカ!」
「ふぁああああああああん! りおー! りぃお―――!! あああああああああん!!」
急いでルスカに駆け寄る。
すると、ルスカは僕に抱き着いてきた
「ぐす、いたかったの………」
「大丈夫だよ。そのくらいで泣いたらダメだよ。よく追い払えたね、えらいよ」
「にへへ、るーえらい?」
「うん、だから、泣かないで」
そう、そのくらいで泣いてたらダメだ。生前、僕は小指を切り落とされても泣かなかった。
泣いたらあいつ等の思うつぼだ。僕を痛みつけて泣かせて、人の不幸を笑うんだ。
ルスカは手と足を擦りむいた。
すぐに光魔法で治癒する。
本当に便利だね、光魔法。
生前、その魔法があったら、どんなによかったことか。
いや、治った側から怪我するだろうな。
ああ、ここが前世やあの村じゃなくてよかった。
野生の生活をしているほうが、幸せだなんて。
………
……
…
「グルルル………」
しばらくすると、もう一匹ガウルフが現れた。
ルスカはまたも自分がやると言い出す。
「仕方あるまい。」
「………そうだね。ルスカも、窮屈な思いをしてるだろうし。」
これがストレス発散になるなんて。
天使の子? 神子? そんな子が生き物を殺すことでストレスを発散するなんて、なんて皮肉だよ。
「やー!」
「バウワウ!」
今度はガウルフは腹を空かせていたのか、ルスカを餌と判断して向かってきた。
「ふにゃー! ひゃー!」
ポテポテと走りながら、
危なっかしいけど、3歳児にしては動きがかなり早い。
ルスカは魔法よりも、運動能力の方が高いのかもしれないね。
「ガルァ!」
ガウルフはルスカに飛びかかった。
「にゃー!」
ルスカはびっくりしてしりもちをつく。あ、やばい
「ゼニス!」
「うむ。ん?」
ルスカの方に踏み出そうとしたゼニスが、ピクリと動いただけで助けに向かわなかった。
「おい、助けに」
「大丈夫だ」
その言葉を聞いて、ルスカの方を注視する。
ルスカは地面に仰向けで倒れており、ガウルフはルスカが倒れたことにより、ルスカの上を飛び越えてしまった。
しかし、その瞬間、ルスカはペロリと唇を舐めると、ガウルフのおなかにミスリル包丁をスッと突き入れて、手を離した。
ガウルフは毛皮が固い。しかし、おなかは柔らかいという話をゼニスから聞いた。
ルスカはそれで、おなかを狙うタイミングを計っていたのか。
包丁は一発で心臓を刺したようだ。
心臓を刺せたのはたまたまだろう。
ルスカはそこが動物が生きるために重要な器官だとは知らない。
着地と同時に地面に崩れるガウルフ。
「えへへ、りおー♪ できたのー♪」
まさか、
魔法も使わないで、とんでもない強さのようだ。
普通の3歳児なら
ちなみに僕は魔法がなかったあのオオカミには近寄りたくない。
ヘタレのチキンだよ。安全第一。
「えらい、えらいよ、るー!」
「えへへ、きゃあんやあん♪」
ほめて撫でてあげると、くねくねと喜びを表すルスカ。
もう、なんだこのかわいい生き物!
ま、そういうわけで、今日の晩御飯はガウルフの焼肉となりました。
もちろん、毛皮はなめしてルスカの水魔法と僕の火魔法の熱湯で消毒して、火魔法と風魔法のドライヤーで無理やり乾かす。
乾かすと縮むから、土魔法で釘を打っておくことは忘れない。
イノシシの毛皮をなめした時に学んだ。
毛皮のなめし方なんてよく知らないから、この程度でいいだろう。
夜は寒い。ここらへんは雨が降らず、ちょっと空気が乾燥している。
水属性の魔法使いは重宝されるだろう。
ガウルフと白熊の毛皮の毛布に
どうせ売るから、使っておく。
さ、明日には人里に着くぞ。
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