第一話 入社式

防光性の高い護送車の中で、

伏部英介ふすべえいすけは虚ろな目をし、顔を天井に向けて座り込んでいた。

三つも手錠を付けられた腕をだらんと下ろし、右足にはレトロでいかにもな鎖付鉄球を付けられている。

一見、無防備なその姿に対しても、同伴の警備を務める男達は一切の警戒を解かなかった。

車内は窓側に沿いシートを対面で設けているが、彼の座るシートはがら空きで誰も隣に座らない。

そして対岸から四名の隊員が彼に向けて拳銃を向けたまま腕を降ろさない。

車輌が出発してから緊張は一度も解かれていない。

しかし、同乗している隊員の真ん中に腕を組んで座る一人の女性は全く違う空気を纏っていた。

白色迷彩で身を包み、頭に黒いバンダナを巻き長い髪を溢した姿も異様であるが、

目から放たれるその殺気がピリピリと肌で感じるレベルのものだった。

彼女は貧乏揺すりをしながら自分の正面にいる少年を睨めつけていた。

だが少年は空を見つめ、彼女に目もくれない。


舌打ちとともに女性が開口した。

「おい、。また、つまらんことを考えてるだろう。言え。」

ーエースというのは少年についた渾名だ。


待っていましたかのように反応は早かった。

「こいつら殺していいか?」

少年はぐるんと首を前に直し口の端を釣り上げながら答えた。

4名の隊員は少年から飛び出した発言に反応し、一瞬銃を握る手に力が入る。


「つまらんことで腹を立てるな。そいつらには自己防衛をさせているだけだ」


「防衛、」

少年はおもむろに立ち上がった。と、ほぼ同時にとてつもなく鈍い音が上がった。

そして隊員の一人が絶叫をあげた。

少年に紐付いた鉄球が隊員の脛を襲ったのだ。


確実に粉砕されたであろう足を抑えようとした隊員の手に握らている拳銃めがけ、少年は短いモーションで踵落としをくわえ、拳銃をはたき落とした。


「になってないじゃん?」


女性は一部始終に驚きもせず隊員の心配もせず、ただ呆れていた。

「お前は私の前でそんなにアピールしたいのか?」

少年を見つめ溜息を吐く。


「媚を売らなきゃ出世できねえだろ?」

そして少年は否定せず、満面の笑みを浮かべていた。

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鬼が居る間に! 盆チョコ @P3H

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