包丁研ぐ女

シャッ、シャッ、シャッ


大切な包丁


シャッ、シャッ、シャッ


私は無心で研ぐ


シャッ、シャッ、シャッ


美味しいご飯を作りたい


シャッ、シャッ、シャッ


あなたの笑顔が見たいから


シャッ、シャッ、シャッ


あなたに美味しいよ、と言われた時


シャッ、シャッ、シャッ


とても嬉しかった


シャッ、シャッ、シャッ


それから私は頑張った


シャッ、シャッ、シャッ


雨の日も


シャッ、シャッ、シャッ


風の日も


シャッ、シャッ、シャッ


ひたすら作り続けた


シャッ、シャッ、シャッ


ほら、この煮物も


シャッ、シャッ、シャッ


お刺身も


シャッ、シャッ、シャッ


昔よりも上手くなったでしょ?


シャッ、シャッ、シャッ


あなたの帰りを待つのは


シャッ、シャッ、シャッ


淋しけれど


シャッ、シャッ、シャッ


あなたのご飯を作っていると


シャッ、シャッ、シャッ


淋しさも少しだけ紛れる


シャッ、シャッ、シャッ


でも、最近のあなたは


シャッ、シャッ、シャッ


全然美味しいって言ってくれない


シャッ、シャッ、シャッ


どうして?


シャッ、シャッ、シャッ


お砂糖の量、間違えたかな?


シャッ、シャッ、シャッ


それとも煮過ぎかな?


シャッ、シャッ、シャッ


それとも……あの女に会えないから?


シャッ、シャッ、シャッ


外に出かけた時に


シャッ、シャッ、シャッ


あなたが女と抱き合っていたのを


シャッ、シャッ、シャッ


見てしまった


シャッ、シャッ、シャッ


でも、私はあなたを怒りはしない


シャッ、シャッ、シャッ


だってそうでしょ?


シャッ、シャッ、シャッ


やっぱり、男の人は


シャッ、シャッ、シャッ


若い方がいいんだもの


シャッ、シャッ、シャッ


でもね


シャッ、シャッ、シャッ


あなたに色目を使った


シャッ、シャッ、シャッ


この女だけは


シャッ、シャッ、シャッ


許せない


シャッ…………


これぐらいでいいかな

いい加減後ろで騒がれるのも鬱陶しい





サク……、サク……、サク……、サク……、

サク……、サク……、サク……、サク……、

サク、サク、サク、サク、サク、サク、サク、

サク、サク、サク、サク、サク、サク、サク、

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサク

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサク

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

ザクザクザクザクザクザクザクザク……………


***


「ただいま」

「おかえりなさい」

「ん? 今日は随分といい匂いがする。何かいい肉でも貰ったのかい?」

「はい。ご近所さんから猪の肉をいただいたので、鍋にしてみました」

「おお、それは……。

最近、精のつくものなんてなかったからな。

お前も食べて子供が授かればいいんだが……」

「……旦那様」

「なんだ?」

「私はあなたと一緒に居られるだけで幸せです。

子も絶対に産んで見せます。

だから……これからも私を愛してくれますか?」

「……もちろんだとも。俺はお前しか愛してないよ」

「本当ですか?」

「ああ。本当だとも」

「その言葉、信じますからね。ずっと、ずっと…………」

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