無関心戦争

ある日、大国間での大きな戦争が起き、収束することなく泥沼化していった。

そんな時期に一人の旅人が一方の大国に訪れた。


「食べ物を売って欲しいのだが」

「悪いがうちにはもう売るパンも肉もないんだ。他所をあたってくれ」


国の商売人達はそう言って旅人を店から追い返す。

途方に暮れた旅人は道行く人にどこに行ったら食料が手に入るか聞くことにした。


「食べ物はどこに行ったら買えるだろうか?」

「あんた旅人さんかい? 今はこの通り何処もかしこも戦争で食料は売っていないんだ。みんな軍からの配給制になっちまってるんだよ」


それではどこも食料を売ってくれないではないか。

しかし、今まで旅してきた中でここまで疲弊した国など見たことのない。

話しかけたついでに旅人は幾つかの質問を男に聞いてみることにした。


「ここまでの大国でパンの一個も買えないとは……。一体どれくらい戦争をしているんだ?」

「ここ三年はずっとしっぱなしだな。何回か休戦はしているんだが、終戦にはなる気配もないんだ」

「それほどに長くか。一体なぜ戦争をしているんだ?」

「知らないよ」

「は?」


男の発した言葉に旅人は一瞬理解が遅れる。


「知らないわけがないだろう。あっちの国が攻めてきたとか、民族同士のいざこざが武力抗争になったとか」

「いや、俺はそんな話に聞いたことがないな。きっと偉い学者さんとか議員様達のお考えがあるんだろう。俺たちはそれに従っているだけなんだ。なんなら俺以外の奴に聞いてみるといい」


旅人はその男以外に話を聞いてみたが、戦争が起きた原因については誰も知らなかった。


「一体どうなっているんだ……」

「おい」


歩き疲れた旅人が椅子に腰掛けていたところに体格のいい兵士が話しかけてきた。


「不審な聞き込みをしているというのは貴様か。ちょっと来てもらおうか」


連れて行かれたのは刑務所ではなく大きく立派な建物で、旅人はそのうちの一室に案内される。

部屋の中には椅子に座った片眼鏡をかけた高齢の男性がいた。


「君が街で戦争について聞きまわっている少年かな?」

「そうです。私はどのような処罰をされるのでしょうか?」

「はは……。そんな、処罰なんかしないよ。第一そんな事をしても意味はない。戦争をしているのは事実なんだからね」

「では、何故私はここに呼ばれたんでしょうか?」

「君は戦争の発端について聞きたいらしいね」

「はい。なぜこんなに長いこと争っているのか私には皆目見当もつかないのです」

「では教えてあげよう。戦争の原因は……私にも分からないのだよ」

「え?」


ようやく答えがわかる人が現れたと思った旅人だったが、老人の意外な答えに首を傾げた。


「見たところあなたはこの国の重要な役職についているように見えるのですが……」

「確かに私はこの国の中心にいる内の一人だ。だけどね、だからと言ってこの国の全てを知っているわけではないんだよ」

「だから、戦争のことも知らないと」

「そう通りだ。戦争をしている原因も理由も私は知らない。おそらくこの国の全ての人間に聞いても無駄だろうな」

「では、なぜ今でもこんな無駄な事をしているんですか?」

「無駄とは失礼な。私たちはこれまでこの戦争に莫大な投資をしてきた。もし負けでもしたらこの国が滅びかねない。この争いは我が国の勝利で幕を閉じなければならないんだ」

「だから、死者が出ても困りはしないと?」


皮肉たっぷりに言った言葉だったが、老人は意にも返さずにこう旅人に返した。




「代償は勝利の酒で洗い流せると思わんかね」




そして、旅人が国を出て行った後も互いに争い続けた結果、両国とも滅んでしまった。

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