ここに灯るは 温度の理由 〈番外〉
地下は、寒い。
息が白くはならない程度、指先が鈍くなるのに気付く。
しん、と重たい冷たさを、細長い指が
其れを合図に銃火が唸る。花が一輪、咲く度に、陶磁器の肌に映り込む。
七ツの声が重なって、
「ひゅー! 御見事!!」
後ろから高い声がして、下ろした肩が跳ね上がる。
振り返ったらば後輩が居た。猫みたいな女子高生は
「やっほう」
ひらひらと右手を振って見せる。
ブレザーは、青が強めの紺色のもの。シャツはボタン二ツ開いていて、超が付くほど短いスカート。此れが女子高生の本気と言うもの。
「もう、驚かせないで」
オーバーゴーグルを外しながら、呆れた口調で言ってみる。
視線を奪われそうになるのを、決して悟られないように。
「にゃはは。後ろが
……何のこと。
別に?
「世間は浮かれてるのに、こんなところで御仕事なの?」
後頭部に両手を当てて、惹子の口調は詰まらなそうだ。
其れに伊香は苦笑で返す。
「郵便局だもの、仕方無いわ、ね」
落ちた薬莢を、拾い集める。
其の冷たさに驚いて、自分の指の、温度に気付く。
「ふうん」
更に気も無く相槌をして、惹子も薬莢を拾い始めた。
伊香が四ツを拾ったところで、猫の手に手首を掴まれる。
「あ、今は駄目」
「ん?」
閉じた指を
にゃあ、と惹子の口角が吊り上がる。
「何を期待してたの?」
彼女の指先が首筋を掻く。ぞくりと背筋に震えが走る。
顔を隠したくて顎を引く。彼女を見たくて瞳を上げる。
媚びるような、言葉が零れる。
「……意地悪」
全て引っ
「御仕事のあと、楽しみにしてるから」
じゃあね、と言ったら身を
元から独りだったのに、急に
「もう」
今日は頑張って、早く終わらせよう。
◇ ◇ ◇
なんてことがあったら良いのに。
こんな世でもと言うよりは、こんな世だからと言うべきだろう。今日は世間が浮ついている。
なのにススムは何の因果か、
郵便局は、年末年始の繁忙期だ。既に短期の
ススムも早く配達を終え、
ふう、と一ツ息を吐き、がこんがこんと
「ねえ」
いきなり後ろから声を掛けられ、声に出さずに驚いた。いや、声も出ないほどと言うべきだった。
「ごめんごめん」
振り向いた先の女子高生は、そう謝って、にゃははと笑う。
小柄な身体に、ポニーテールが
「どしたっすか」
薄暗い地下が明るくなって、眩しさに少し眉が寄る。
「郵便屋さんは、
ススムが着ている防寒服は、黒地に黄色のラインが走る。
贈り物をする御爺さんより、消防士と言った風貌だ。見た目に限ればの話だが。
「……そりゃ、ピザ屋じゃねえすか」
呆れを隠せず言ってしまうが、相手は気にする様子も無かった。
「そうそう! 折角なのに勿体無くない?」
「折角?」
「いやだって、バイクの色」
赤と白。言われてみれば、イメージカラーは
「そんな遊び心、あるとこじゃねえすよ」
そっかあ。残念だね。と言う
「御互い
何のこっちゃと心臓が跳ね、年賀のことかと思い至った。
思考能力を使い果たして、「うん」と返すのが精一杯。
「忙しいとこ、ごめんね。気を付けて、行ってらっしゃい」
「ありがとう。そんじゃ」
左手を上げて応えると、
幾度もレバーを踏み込んで、漸くエンジンの機嫌が直る。羞恥と
同期は笑わず見守って、にゃははと笑って見送ってくれた。
出発後、すぐに北風が熱を奪った。
指先は何故か暖かくって、悪くないなと頬が緩んだ。
恐竜の 歯磨き係と 配達員
ここに灯るは 温度の理由 〈番外〉
人人人
<おわり>
YYY
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます