第7話 幻想空間
最初の一歩はなんともない。
調子をこいて二歩三歩と歩みを進めていく。
視界には何も見えず、暗闇が広がるばかりだ。
そこらへんの角で適当に腰をおろし、寝たふりをしながら一夜を過ごすってのもありかもな。
何がいるわけでもないようだし、邪悪な奇怪生物の姿も今のところ見当たらない。
これなら楽勝だな。一日くらいの野宿なんざ、むしろ人生経験摘むにはもってこいだろ。
人知れず息巻く俺は、足取り軽やかに、ミュータントパークの奥地へといざなわれていく。
右には闇、左には闇、振り返って後ろを見ると、入口の街灯が見えなくなるくらいにまで小さくなっていた。どうやら、相当奥地にまで侵入しているらしい。
「――――まのうちです――――。もどるなら―――――」
「余裕のよッちゃん♪ 余裕のよッちゃん♪」
馬鹿げたリズムで音頭をとりながら、後ろを見たまま歩いてゆく。
何か聞こえたようだったが、気のせいだろう。この闇で人がいるとも思えない。
耳は相当いい方だ。聴力検査で引っ掛かったこともないし。ていうか、あの検査で引っ掛かるとか相当耳悪いだろ。日常生活に支障ないならまず引っかからないよね、あれ。
「楽勝だね。野宿ってやつも――――」
決めセリフを吐き、前を向いた。
俺は、世にも奇妙な現象に出くわした。
「…………」
そこには、光があった。
ただの光ではない。まるでアミューズメントパークの一角を切り取ったかのような、きらびやかで幻想的な世界が映し出されていた。
ただ、暗がりで慣れ始めていた目がびっくりしているようで、眩しさを隠しきれない。
腕で光を遮りながら、少しずつ目を慣れさせていく。
「メリーゴーランド?」
まず、最初に目に入ったのは、巨大なアトラクションだった。目の前にあるそれと俺の記憶にある似ているものを比較すると、ちょうど遊園地にあるあの遊具にたとえられる。
その、メリーゴーランドもどきは、確かに見た目は遊具であるものの、明らかにおかしいところがあった。
速かったのだ。その回転速度が恐ろしく速かったのだ。もはや、これで発電してるんじゃないですかねってくらい高速スピンんを決め込んでやがる。意味がわからない。
「誰もいねえな」
乗り手もいないまま回転しているその物体をしり目に、あたりを見渡す。
目も光に慣れてきた。眩しさとは無縁となった俺が次に見たのは、噴水だった。
右側の少し離れたところに、地上から吹き出す水柱が見て取れる。
しかも、超巨大。
一定間隔で吹き上げる水の柱が、周囲のスポットライトを反射して美しく輝いている。
目を凝らすとありのように小さな、動く物体が見えた。
「なんだあれ?」
俺は好奇心を抑えきれず、ただ本能の赴くままに噴水の近くに歩み寄っていく。
歩調は速くなり、いつの間にか走っていた。
「遠すぎねえかあれ」
その噴水はめちゃくちゃ遠くにあるようで、五百メートルくらい走って行って何とかたどりつけるくらいに離れている。
息をはあはあしつつ、俺はその噴水に近づいていく。
残念なことに、ライトアップされた対象物以外は全くの闇。あたりを見渡してもめぼしいものはない。
あと少しのところまで近づいて、異変に気がついた。
「グアンテボッカツグンザゲダグリスラクマゴニチシルゲンザチルガスア」
周囲にいたアリのような物体はヒトのようではあったが、見慣れない服をまとっていた。
アフリカでいまだ発見されることのない原住民のような衣装をまとい、どこぞの言語ともわからないような言葉を延々と唱和している。
数百人単位の変な奴らがうじゃうじゃとしていた。
こんなの近づけるわけがない。
映画とかじゃこういうとき、まず発見されてつかまって縄で縛られるんだよな。
そして、どこから来たか問いただされて命乞いしていると、ヒーローがやってくるって展開だ。
だけど、一人で突入してきた俺にそんな仲間がいるわけなく、とりあえず後ずさりする。
気がつかれないようにじりじりと後退していく。
ばたっ。
何かにぶつかった。
後ろに何かがあるはずない。今来た道だぞ。
ってことは、
「きみ、どこから来たの?」
右肩に手をのせられて、俺はびくり跳ね上がる。
後ろを向けない。振り返ると嫌な予感しかしない。
すると、その女の子は俺の前に回り込んで正面に立った。
「こんばんは、はじめまして。わたしは七海。よろしくね」
屈託のない笑顔でにこりと口角を上げるその女の子は、高校生ぐらいに見えた。
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