第4話 謎

 しぐれがでていった後、俺は飼いならされた闘犬のような従順さで風呂に直行、女子中学生の垢が浮かんでいる湯舟に浸かった。

 冷めている湯加減を追い焚きで調整してみる。湯沸し器がぼこぼこと音を立てて水の温度を上げていく。


「はあぁあぁぁぁぁぁぁぁ。いい湯加減だな~」


 糞どうでもいいじじ臭い一言が漏れた。んなこと考えてる場合じゃないっつーの。この現象を理解する必要がある。俺の身体が退行しているこの現象。あまりにも不可解すぎる。

 少なくとも元に戻る必要があるよな。じゃないと今後の生活に支障をきたす。例えば、ほら、同級生にたまたまファミレスで目撃された時とかさ、言い逃れしなきゃならないし。まあ、学校休んでっからそんなばれないとは思うけどな。

 まずは状況を整理してみよう。

 現象には必ず理由がある。俺の身体が退行した理由がかならずあるはずなんだ。思い出せ。今日一日の出来事を……。

 そうだ、今日は本を買いに行った。その後デパートの外にいる占い師に声を掛けて占ってもらった。家へ帰ってくると妹のしぐれが話しかけてきた。過去を思い出してベッドで横になっていると体毛がなくなっていた。そして気がついた。


「…………」


 こりゃもう確定的だ。近因は占いだな。あのロリババアが俺に何かしやがった。体毛を薄くするマジックみたいなものを掛けられたんだろう。

 あの占いの後、俺は身体の体毛が薄くなっていた――

 俺は試行錯誤を繰り返し、俺の身体になにが起きたのかを詳細に分析してみた。

 風呂場で考え事をしていたせいでのぼせて頭がくらくらする。

 気を取り直して、まとめると次のようになる。

 

・発生した現象……身体の退行(体毛の消失)

・現象が発生した理由……デパート前でロリババアに占われたから

・現象が発生した場所……自室のベッドの上

・現象に気がついた時間……夕食時

・現象に気がつく直前の行動……二年前のしぐれとの風呂を想像していた


 キーポイントを羅列してみたものの、決定打となるものが欠けている気がする。


「よし、やってみるか!」


 こんな時だけ無駄に前向き、俺らしく、俺は無謀な検証を始めることにした。

 ざばっと湯舟からあがり、体を拭いて自室へ舞い戻る。

 もちろん服は着てるぜ。できるだけ早いところ検証したいからってさすがに裸族にはなれないからな。そこはきちんと紳士らしく振る舞ってる。

 部屋に入り、まずはベッドの上に寝てみた。これで場所の条件は満たしたはずだ。次は時間帯。

 あ。忘れていた。夕食時ってもうすぎてんじゃねーかよ。うーん。でも大丈夫だろう、一応、夜としてひとくくりにすれば大丈夫。共通項だよな。

 強引に二つ目の条件を満たし、最後の条件へ。

 二年前のしぐれとの風呂を想像する……。

 いやまてよ。これを想像すると無毛股間になっちまったんだから、これとは逆を考えてみるか。

 逆となれば、二年後のしぐれとの風呂でもそうぞうしてみるか。むふふふふ。二年後、しぐれは高校二年だ。俺と一緒じゃねーかよ。同じクラスで一緒に授業受けてる妄想にするか。

…………

………

……

 授業中の教室。しぐれは俺の斜め後ろの席に座っている。

 数学の授業で教壇には担当教師に指名された生徒が一生懸命になって問題を解いている。

――俺はなんとしてでもしぐれのパンツが見たかった。

 ちょっと振り向けば透き通るほどの白い太ももがちらつく。

 妹とはいえ、高校二年の女子なら性の対象になってもおかしくない。

 よし、消しゴムを落として拾うふりをしてあそこを見よう。

 古典的だが、不可能じゃない。

――さり気なく、消しゴムを落としてみる。

 消しゴムは床に落ちた瞬間、弾力でコロコロところがり……。

 しぐれの股の間で止まった!!!

 これは千載一遇のチャンス!!!

 俺はしずしずと席を立ち、後ろを振り向きつつ中腰になる。

 身体を机に近づけていき、目線を消しゴムに向けたふりをする。

 手に、――消しゴムを握りしめる。

 こんなものはただの生贄じゃああああああああああああああ。

俺が見たいのは、その先にあるんじゃああああああああああ。

 俺は、顔をあげた。

 そこには、――

……

………

…………

 ありやがる。

 黒地のレースがあしらわれたパンティが、薄桃色の水玉模様が彩られ、秘部を隠すにはもってこいの……!


「キタキタキタキタAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 俺は恐る恐る指先を股間に当ててみた。陰部をまさぐってみた。

 ありやがる。

 黒で着色された縮れた毛がわしゃわしゃと生い茂ってやがる。


「戻ってる……!」


 俺は急いでベットから起き上がり、部屋の鏡で自分の姿を確かめてみた。


「戻って…………ねえ……。つーかこれ、……やばくね?」


 鏡に写った俺の身体は、目尻に皺がより、ほうれい線が浮き出た中年オヤジと化し

ていた。

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