第56話

「わたしからにしてよー」


「そうですね、マヤさんからにしましょう」


 ライトは鑑定書をめくる。


「これだぁぁああッ」


 ライトが叫ぶと壁に映し出される。


 わざわざ用意したのか。


 マヤ

 筋力   B  七五 (B 一五)

 敏捷力  B  七五 (B 一五)

 知力   S 一一五 (S 二五)

 技術力  B  七五 (B 一五)

 魔力   S 一一五 (S 二五)

 抵抗力  B  七五 (B 一五)

 潜在能力 B  五


「これは最初から高スコアですね」


 冒険者協会内は、どよめき立つ。


 高スコアってなんだよ。


「Sは五十人にひとりとも。百人にひとりとも、言われているそうですね。二個あるなんて、いやーすごい」


「嫉妬で気が狂いそう……」


「すげええええええ。異神帝王をたおしてくれええええ」


 誰だよそれ……。


「ヤキソバさん……、わたしたちは、なんて無力なんでしょう……」


 元三つ編みさんが下をむき、自身の髪を弄りながらつぶやく。


「ですね……」


「お次は暴食の女王。テスラ‐シリンダーさんだああああああ」


 なんだ。そのあだ名は……。


 テッシちゃんの方をみると顔が真っ赤だ。


 いいぞライト。もっとやれ。


 テッシ

 筋力   SS 一三五 (SS 三〇)

 敏捷力  A   九五 (A 二〇)

 知力   B   七五 (B 一五)

 技術力  B   七五 (B 一五)

 魔力   B   七五 (B 一五)

 抵抗力  B   七五 (B 一五)

 潜在能力 B 五


「おーっと。これも高得点だー。さすが暴食の女王だ。いやー皆さんすごいですねー」


 テッシちゃんは、筋力と敏捷力にふったのかな。


 きっと記憶を失う前は、前線でバリバリ戦うクラスに付きたかったんだろう。


 でも記憶を失ったら、なぜかヒーラーに目覚めて……。


 って感じなんだろうか。


「悔しくて、涙でてきた……」


「おれの知り合い、食い殺してくれえええええ」


 なんか会場はヒートアップしてるな……。


 俺の発表がこええ。


「お次はウェイブさんですね」


 ウェイブ

 筋力   B  七九 (B 一六)

 敏捷力  B  七九 (B 一六)

 知力   B  七九 (B 一六)

 技術力  B  七九 (B 一六)

 魔力   B  七九 (B 一六)

 抵抗力  SS  一三五 (SS 三〇)

 潜在能力 B  五


「抵抗力が高いって、あんま羨ましくねえな」


「これはあんま嫉妬しない」


「なんだか、このギルドは軒並み高いですね。なんなんでしょうか」


 ウェイブはうちのギルドに、まだ入ってないけどな。


「なんかSとかSSとか多くね?」


「最初からそういうメンバーを集めてんじゃないのか?」


「みんなC以下が一個もないな……」


 なんか不穏なふんいきになってきたな……。


「お次はこのギルドのギルドマスター。ヤキソバだーっ」


 ヤキソバ

 筋力   A 九五 (B 一五)

 敏捷力  A 九五 (B 一五)

 知力   A 九五 (B 一五)

 技術力  A 九五 (B 一五)

 魔力   A 九五 (B 一五)

 抵抗力  A 九五 (B 一五)

 潜在能力 SSS 二五


「流石ギルマス! って感じですね。人生は何ごともバランスですよね」


 潜在能力はSSSか。


 これってあと潜在能力が五あれば、全部一〇〇でそろったんじゃねえの?


「数字がそろってて気持ち悪いな!」


「SSSってなんだよ……、感じ悪いな……」


 この流れはまずい。


 あと残ってるのは、カゲヤマさんだ。


「ヤキソバさん。ヤキソバさん」


 お姉さんが、小声で話しかけてくる。


「カゲヤマさんは潜在能力が+二五なんです……。だから――」


「知ってますよ。カゲヤマさんは俺のステの上位互換なんです。ゆるさねえ……」


「ステータスは、上位互換どころじゃないですよ」


「どういう意味ですか? それ」


「ヤキソバさんはステータスふって、潜在能力+二〇。カゲヤマさんはふらずに、セレクトスキルで、潜在能力+二五なんですよ。つまり自分でふった分を合わせると、『+四五』されてるんですよ」


 うげえ。


 カゲヤマさんの最強伝説が始まったな。


 目立ちすぎる。


 止めるしかねえ。俺は立ち上がった。


「すいません。みなさん最後のひとりのステータスは、秘密ということで」


 俺はしゃべりながら、ライトの元へ歩み寄る。


「ブーブー」


「おれたちはこのために、入り浸ってるんだぞー」


「ひとりよこせよ! お前のギルドでひとり占めしてるんじゃねーよ!」


「おれだって、筋力A以上が欲しかったわ!」


 ひとりが、俺のところに駆け寄る。


 はがい締めにされる俺。


 なんだよこれやべえよ……。


「ヤキソバさんすいません……。これ以上、引き延ばすと暴動になるかもしれませんから。だから発表します……」


「いっけーライトおおおおおおおおお」


 おいこら! ライト! マヤ!


「おれだって筋力Aが欲しかった……」


 泣きながら、俺にしがみつくおっさん。


「お前ぜったい筋力Aあるだろ! 俺より力あるじゃねーか!」


 力いっぱい動くが、ひきはがせない。


 それをみて、三人くらい追加でまとわりついてくる。


 必死だな。


「ステータスは『もともとの体に加算するもの』っていうのもあるけれど。

 ヤキソバは潜在能力で上がっていて『基本ステータス』の筋力はB。

 つまり、『最終スキルステータス』はAでも、体力的にはB相当なんだよな」


「そうそう。潜在能力はあくまで潜在」


 ギャラリーだ。


 ギャラリーは冷静に見てないで、何とかしてくれよ……。


 なんとかする気ねーか。


 こいつらカゲヤマさんのステを、見る気まんまんだ。


 完全にアウェーだぜ。


「どれどれ」


 ライトは紙をめくる。


 ステ鑑定書を見たとたん、顔面蒼白になり固まるライト。


「早くしろよー。もったいぶるな!」


「どうしたライト? これ以上、引き延ばすとヤバいぜ……?」


 アークが、ライトに近よる。


 ライトの手元の、ステ鑑定書を抜きとった。


 そしてアークは、壁に投射する器具にセット。


「みなさん! 落ち着いてください。長らくお待たせしました。今からカゲヤマさんのステータスを公開します」


 アークは、なだめるように両手を上げ動かす。


 カゲヤマさんは、それをポカーンとした表情で見ている。


 アークは、投射器のスイッチをオンにした。


 カゲヤマ

 筋力   S-  一〇〇 (B 一五)

 敏捷力  S+  一二〇 (A 二〇)

 知力   S+  一二〇 (A 二〇)

 技術力  SS+ 一四〇 (S 二五)

 魔力   S-  一〇〇 (B 一五)

 抵抗力  S-  一〇〇 (B 一五)

 潜在能力 SSSS 三〇


 みんなが画面をみつめたまま、時が凍った。


 俺にまとわりついてた力が、抜けていくのを感じる。


 俺はゆっくりと抜け出すと、メンバーひとりひとりに近寄り、肩をたたき。


 静かにドアを開け、みんな忍び足で冒険者協会を抜け出した――。


 ―――


 後日。ある噂が耳にはいる。


 この事件は『ヤキソバ、ステ発表会事件』といわれ。


 何度注意されても止めなかった、ステータス発表会をつぶすために


 冒険者協会が仕組んだ、『制裁』ヤラセだというのだ。


「あーそんなこともあったよねー、お兄ちゃん」


 俺は、妹たちと食堂にいた。


 食堂の壁に、映像が投射されている。


 映ってる人が、語りだす。


「では、『事件の真相を知る』とされている、謎の人物がきています。どうぞー」


 顔を隠した二人組を映す。


「AさんとRさんに来てもらっています。やっぱりあれは冒険者協会のヤラセなんですか?」


「そうですねー。その話の信ぴょう性は高いですね。Yさんは『冒険者協会の受付嬢と懇意にしてた』という噂もあります。目撃者もいるんです」


「彼らは、最初はのり気だったんです。しかし、途中から止めろと考えを翻した。これは怪しいですよね」


「自分たちはただのギャラリーでした。あのときの熱気は、思い出すだけでも恐ろしいですよ……」


 俺は、映像を横目でみながらつぶやく。


「何がYさんだよ。『ヤキソバ、ステ発表会事件』ってタイトルでバレバレじゃねーか……」


 この事件以降、ステータス発表会は鳴りをひそめる。


 極まれに行う場合でも、ステータスをあらかじめ、チェックするようになったという。

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