第47話

 俺たちは、門の階段を上がる。


「やあ、戦ってたのは君たちかい? どうやら、勝てたようでよかったね」


 イスにすわった、ほほがコケてるお兄さんはいう。


 お兄さんは俺たちにテーブルの上にある、お茶をすすめてくれた。


 俺たちは、うながされてイスにすわる。


「見てたのじゃな。ありがとうなのじゃ」


「ありがとうございました」


「ここまでくれば、ガーゴイルは来ないよ。あいつらは壁は越えられないし、それほど高くは飛べないしね」


「それはよかったデス]


「赤く光ってるのを見つけたからね。おや? 救世主様かな――、ってね」


「救世主伝説デスかー。信じてる人多いですよね」


「ほうほう。そんな伝説があるのかのう、知らなんだ」


「俺も知らなかったです」


「世界が危機におちいったとき。この世界に、光をまとった人物がおり立つです。それが救世主です。世界のカギをにぎるその人は、世界をみちびき、やがて救うのデス」


 この世界に、そんな伝説があったのか。


「わたしは救世主だったのか……。えらいことになったね」


「いいえ。マヤさん違います。わたしは救世主に会ったことがあるんデスよ」


 え?


 マジ?


「ヤキソバさんこそが、光をまとった救世主なんデスよ!」


 ちょっ!


 とんでもないこと言うね。この子は。


 お茶ふきそうになったわ。あぶねえ。


「えー、違うよわたしだよ。わたしが救世主なんだよ。ヤキソバさん光ってないし」


 そういえば、マヤさんには見せたことなかったな。技覚醒。


 俺はテッシを呼びよせて、小声で話す。


「ちょっとちょっと。テッシちゃん。俺がセレクターであることや、あのスキルは秘密なんだから。秘密にしといてよ」


「あれ、セレクターのスキルだったんデスか。すいません」


 おいおい。気がついてなかったのかよ。


「誰が救世主でもいいけど。危険だから、夜は出歩かないようにね」


「わかりました。すいません。本当はもっと早くかえるつもりだったんですけれど。予想よりも長びいてしまって」


「それにしても、あんなに遠いところまで届くんじゃのう」


「魔道砲は町の中心地まで、とどくんだよ」


「そんなに届くナノ?」


「そうだね、町の中心地まで届くからね。この壁の下にはとどきにくいから、町の人は高い建物でも、窓にカバーつければ大丈夫だけどね」


 俺は、疑問をぶつけてみた。


「東西南北にある壁の上で、魔道砲を使っている別の人たちは、当たらないんですか?」


「特殊な方法で、パーティを組んでいるから平気だよ。そして『敵をさがす人』からの指示をうけて、あるていど広範囲に電撃をまくんだよ。電撃は敵をみつけ、ある程度自動でおって攻撃をする」


「その『さがす人』が私たちをみつけたデスか?」


「そうだね、君たちを見つけたのもその人たちだよ。休憩で今はいないけどね」


「ありがとうございました。よろしく言っといてくださいデス」


「もう僕の休憩も終わりだね。よろしく言っておくよ。君たちも早く帰るようにね」


 俺はお辞儀をして、カゲヤマさんをせおい。門をあとにした。


 宿に帰るとちゅうで、俺は『救世主』という言葉を、この異世界ではじめて聞いた時のことを、おもいだしていた。


 講習をうけて、テッシちゃんをパーティにさそったときの、テッシちゃんのセリフだった。


 〝――ヤキソバさんはわたしの救世主ですね――〟


 あの時に、テッシちゃんがした満面の笑顔を、俺はいちどみたことがある。


 それはこの世界にくる前に、一香ちゃんにメッセージカードを送った時だった。


 なぜ妹と一香ちゃんは、記憶を受けつがなかったのだろう。


 単に三枚目のリストを、見なかっただけなのかもしれない。


 生き残れればそれでいいと、スキルを優先させただけなのかもしれない。


 俺は、一香ちゃんがされていたイジメのことはよく知らない。


 でも、一緒にゲームをしていたときの一香ちゃんは、何もかも忘れてすごく楽しそうにみえた。


 その時のことや、家族のこと。


 色々な大事なこと。


 それを忘れても、構わないと思ったのだろうか。


 きっと世界が救われたのなら、記憶は戻るのだろう。


 でなければ、ねがいが叶うという約束は、反故にされたも同然だからだ。


 でも――。


 俺は妹といっしょに書いたメッセージカードで『なにかを救えてた気になってただけ』なんじゃないだろうか。


 〝――ヤキソバさんこそが、光をまとった救世主なんデスよ――〟


 違う。


 俺は救世主なんかじゃない――。

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