洞窟探検編

第31話

 八月二日、一陽十六時。


 俺は郊外に来ている。


 熱い日差し。


 周りは一面ふわふわの草におおわれ、数百メートル左にはボイコット町の外壁が、そびえたっている。


 そんな場所に置いてある、腰くらいの手頃な高さの石。


 俺はそれに腰掛けている。


 座標付きの地図をみるに、ここで良いはずだ。


 そろそろ、テッシとカゲヤマも来るだろう。


「待ったかのう」


 カゲヤマとテッシが並んで歩いてくる。


「今きたところです。今の時間は約束より少し前ですね」


 テッシちゃんは、頭をフラフラさせている。


「移動するナノ」


 三人は歩き一人は飛びだす。


「今回はフェリリが、どこでモンスター狩りをするか決めたんだよな? どこにしたんだ?」


「そうナノ。みんなには詳しいことは、まだナイショなの」


 先頭を飛ぶフェリリは言う。


 少々不安だな。


「ヤキソバ殿」


 カゲヤマが、俺の背中を二度つつく。


 俺は上半身を、斜め下うしろへまげる。


「頼まれていた、間に合わせの武器を探してきたんじゃが」


「ありがとうございます」


 俺は会釈する。


 カゲヤマは俺に剣を手渡す。


「ちゃんと変装して買ったデス」


「わしのせいなんだし、奢りでよいぞ」


「いや、それはまずいっすよ……」


 俺はサイフから、お金を取り出す。


「別に良いんじゃがな」


 値札を見る、十万クリスタル?


 マジで?


 これ奢るとか言ってたのか?


 テッシちゃんといい、金銭感覚どうなってるんだ。


 俺はサイフから、一万クリスタル紙幣を十枚取り出して渡した。


「あと、これを渡しておくのじゃ」


 カゲヤマはチェーンの先に、ひし形の透明な宝石のついた首飾りを取り出した。


 宝石は青く、きれいに光っている。


「これなんですか?」


「魔源クリスタルじゃ知らんのか?」


 なんだそれ。


「これを付けて敵を倒すと、このクリスタルに経験値の魔源の一部が吸収される。


これを満タンにすると、お金と交換できるんじゃ」


「それマジですか!」


 俺は両手で、カゲヤマさんの両肩をつかむ。


 カゲヤマさんの顔に、俺の影がかかる。


「ほ、本当じゃ。これは五万クリスタルのものじゃから、満タンになると五万で売れるぞ。貨幣の単位がクリスタルなのは、もともとは、これがいわれなんじゃ」


 俺はカゲヤマさんが驚いてるのをみて、我にかえる。


 カゲヤマの肩から手をはなして、深呼吸をする。


 金にガツガツしてると、思われてはいけない。


「ふう。びっくりしたのう……」


 やった。


 これで貧乏生活ともおさらばだぜ!


 俺たちは、歩きながら話し続ける。


「その魔源クリスタルって、なんこまで装備できるんですか?

 カゲヤマ様はクリスタルを、何こ持ってきてるんですか?

 一個いくらで、どこで売ってるんですか?

 満タンになったときの、引きかえ所はどこですか?」


 俺は、カゲヤマ様にたずねる。


「ちょっとまっとくれ、一度にそんなに聞かれても、こまるのう」


 俺を見上げ、あせるカゲヤマさんを見て、われにかえる。


 カゲヤマさんは頭をポリポリと掻き、カチューシャがズレている。


「それに、今説明する必要はないデスね……」


 テッシちゃんは、手のひらで口元をおさえアクビをする。


 俺はまた、我をうしなっていたのか。


 前世の貧乏生活が長かったからな。


 食べられる花を図鑑を立ちよみして覚えたり。


 野草を茹でて、食べてビタミンを摂取したり。


「で、でも、何こ装備できるかは重要なんじゃないか?」


 俺の口が、べつの生き物になっている。


「なんこでも装備できるけれど、クリスタルが魔源を吸収する量が等分されるんじゃ、つまり一人で二個装備したら、一個装備のときの半分しかクリスタルに補充されないんじゃ」


「じゃあ、フェリリが装備したらいいな」


「ヤキソバ……、みんなの経験値がへっちゃうよ……。それにそんなことやって、一人だけ十万クリスタル貰いたいナノ?」


 フェリリが白い目を向ける。


「いや、フェリリのクリスタルのお金は当然三等分するぞ」


「でも、みんなの経験値がへっちゃうナノ」


 フェリリはまわりの顔をみて、反応をみている。


「わたしは構いませんデスよー。フェリリさんもパーティの一員デスからね」


「わしもいいぞ。仲間外れみたいでかわいそうだしの」


「みんなが良いならいいナノけど……。巻物つかう生命力が増えるくらいしか、パーティにメリットないから、いいのかなー? ナノ」


 まだフェリリは納得できていないようすだ。


 そこで俺は話題をかえる。


「俺の装備ってどんなのですか?」


 それを聞くと、カゲヤマはメモをとりだす。


「白銀のシルバーソード

 BP+六〇〇 相手を切りつけた時のダメージ三〇%アップ。


 装備スキル 飛び込み切り

 BP+五〇〇 ダッシュ一回、一レンジ じゃな


 商人も装備できる、剣系クラスとの兼用装備じゃ。中古じゃな。

 来月までこれで間に合わせてくれ」


「わたし、中古は苦手です。ぜったいおニューがいいデス」


「わしも苦手じゃな。でもこれは良い中古じゃぞ。上がるBPの下二桁がゼロじゃからな。ここが減ってると相当使われた証拠だし、なんだか自分のステータス表示が、気持ち悪いって人もおる」


「なんとなく分かります、ところでダッシュって何ですか?」


 カゲヤマさんは、身ぶり手ぶりで説明を始める。


「技を発動した後、『ダッシュ』というと、むいている方向に移動できるスキルじゃ。


 攻撃技だとその後に『スラッシュ』というと、きりつけるぞ。まあ、便利な技じゃよ。


 技の発動後、ダッシュやスラッシュに、時間制限があるから注意じゃな。

 逡巡しておると効果をのがすからのう、果敢さが必要じゃな」


「なかなか良さそうですね、ありがとうございます」


「そう言われると、悩んだ甲斐があったのう」


 なるほど、テッシちゃんの使ってた、ノックバックの対抗技か。

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