第30話
俺とフェリリの二人は、俺の部屋に戻ってきていた。
イスに座って向かいあう。
「テッシちゃんが立ち直るのには、まだまだ時間が必要な気がするなの」
ついさっきの問題である『カゲヤマさんがパーティに加わるか』に比べると心配はしてない。
時間はあるし、テッシちゃんは結構タフなところが、あるようにみえるからな。
「カゲヤマさん、パーティに入ってくれたって、言ってたナノね」
「他のパーティにも付き合いあったみたいだけど、うちだけにしてくれるってよ」
「すごいね、どうやったナノ?」
「カゲヤマさんがセレクターであることを指摘し、俺がセレクターであることを明かしたんだ。
そして、カゲヤマさんがセレクターであることに因って、襲われた可能性もあると。
バレるリスクを勘案し、他パーティの関係を絶ってくれといった」
「脅しみたいになったナノね」
「そうだな、ちょっと落ち込んでた。でもカゲヤマさんの安全を考えてのことだ。
無理して、うちだけ来いなんて強制するほど、俺は強引じゃない」
フェリリは考え込んでいる。
「そういえば、訊いてなかったの」
「何がだ?」
「最初に路地裏でカゲヤマさんを見たとき。
パーティに誘うか訊いたら、入れないって言ったなの。
だけどセレクトスキルのことを言ったら、ヤキソバってば気が変わったなの。
それはなんでなの?」
「それは今フェリリがいった通り、カゲヤマがセレクターだからだ」
「セレクトスキルが目当てなの?」
「無いより有った方がいいとはおもってる、けどそれは理由の一部だな」
「他の理由を訊いていいなの?」
「理由の一つは、俺のセレクトスキルがバレやすいことにある。
未だに不明なテッシちゃんや、ある程度は隠せそうなカゲヤマはまだしも、俺のような、毎度、手が輝いて通常使わない技を使用する。
こんな不自然なことはない、実際カゲヤマにはバレていたようだ」
「カゲヤマさんには、バレていたナノか」
「バレたのが戦闘中なのか、俺がカゲヤマをセレクターだと指摘したからなのか。
そこらへんは判然としないけどな。
どうせメンバーにバレるなら、お互いセレクターのが自然と口止めになるだろ」
フェリリは、ふむふむと考え込んでいる。
「理由のもう一つはレベル格差だ」
「レベル格差ナノ? みんな同じくらいのLVよ?」
「それはみんなセレクターだからだろう。
セレクターはLVが上がりやすいの忘れたのか?
パーティなんだから、同じくらいのLV帯の人間が組むのが自然だ。
それで毎回固定メンバーで組んでいたとして、どんどんLVが離されてみろ。
不和の原因になるし、セレクターであることを秘密にしてた場合、バレる可能性もある」
「大体分かったなの、ヤキソバはパーティ枠をセレクターだけで埋めたいなのね」
「まあ、そういうことになるな」
「これからどうするなの? セレクターと妹を捜すなの?」
「そうだな。でもその前にテッシにセレクターであることを指摘し、俺もセレクターであることを言う」
「なんでなの? テッシちゃんはカゲヤマさんと違って、パーティから出て行ったりはしないと思うなの。
ヤキソバのスキルを気にしていないようなら、わざわざ言う必要は無いとおもうなの」
「お前はテッシちゃんに、気に入られてるからそう思うんだろう」
「えっ」
「俺は前世でテッシちゃん――いや、一香ちゃんと妹を交通事故から助けようとした。
だが助けきれず、俺を含めた三人は死んだ。
その妹と一香ちゃんを追って、俺はこの世界に転生してきた。
俺にとって、一香ちゃんの転生であるテッシちゃんは特別な存在だ。
でも、テッシちゃんは違う。
テッシちゃんにとって俺は、たまたま同じ講義を受け、たまたまパーティに誘ってくれた一人の人間に過ぎない。
テッシちゃんが、絶対に俺たちを見捨てないとは思えない」
「それ本当デスか?」
俺とフェリリは、声のする横方向を見る。
ゆっくりとドアが開き、そこにはテッシちゃんが立っていた。
「前世でわたしを助けるために事故で亡くなって、転生してきたってそれ本当なんデスか?」
テッシちゃんいたのか。
嘘つくようなことじゃないし、言うしかないよな。
「本当だよ。証拠は見せられないと思うけど」
俺は、テッシから目を逸らして言った。
「わたし信じますデス」
その声は明るい――えっ。
「――本当に?」
俺は、テッシちゃんの方を向いて言った。
「わたし冒険者としては短い間ですけど。
ヤキソバさんと何度か一緒にたたかってきて、それで何ていうか信じたいと思えます。
それにパーティメンバーとして、これからも一緒に戦いたいデス」
それだけ?
それだけなのか?
こんな簡単なことだったのか?
いままで、ずっと言えなかったことだし
内心どうすれば、信じて貰えるかっておもってたのに、こんな、こんな簡単に。
「ヤキソバちょっと泣きそうなの」
なんだよ、別にいいだろ。
「わしは前世だと、どうだったんじゃ?」
部屋の外にいたらしい、カゲヤマが参加してくる。
「すいません分かりません。でも運がよければ、知ってる人に会えるかもしれませんよ」
カゲヤマは心なしか、明るい表情になった。
「でもこれで妹さん見つけたら、ヤキソバの冒険は終わりナノね」
え?
「よく分からないって顔をしてるね。だって妹とその友達を見つけるのがここに来た理由だから、見つけたら、後は他の冒険者が世界を救うのを、待ってるだけのお仕事なの」
確かに、そういうもんなのかもしれんが――。
「俺の妹って、危険なことに首突っ込むタイプだからな、冒険したいって言いそうだけどな」
「そういう人なんデスか?」
「大体ね」
「わしはパーティに参加するのも、ここにいる理由のひとつじゃから。何もしないっても困るんじゃがな。それに、わしを狙ってるやつらもいるし、鍛えとかんとな」
「そうですね」
俺も、自分のレアクラスの装備が買える、月に一度の好機を逃したしな。
もし、次があったら鍛えとかないとヤバい。
「それじゃあ、これからは冒険者として活動しながら、妹捜しかのう」
「カゲヤマさんも、妹捜しを手伝ってくれるんですか?」
「パーティメンバーとして当然じゃろう。それにそなた達が捜してる途中、わしは何をしてれば良いんじゃ」
「外に出ると、見つかる可能性が上がるかもしれませんし」
「でも一人で宿にいて、襲われたら怖いからのう、襲われる時は一蓮托生じゃ」
カゲヤマさんはそういうと笑った。
それに釣られて、テッシちゃんも笑顔をみせていた。
なんだか寄せ集めだったメンバーが、今この瞬間にパーティになったような気がした。
自分は誰にも頼まれてないのに、勝手に助けようとして事故に巻き込まれて。
誰にも頼まれてないのに、妹とその友達を捜し始めた。
全部、独りよがりで始めたことだ。
でも、この二人の笑顔を見ていたら、これでよかったと心からおもえた気がする。
すくなくとも、今はそう思えた。
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