第32話

「兄貴もこういう技を持ってたらヤバかったデスね。わたしも新技覚えたいデス」


 テッシちゃんは、小石を蹴り飛ばす。


 山なりに飛んだ小石は、岩にあたって落ちる。


「もう覚えてるナノ」


「え? そうなんデスか?」


「LV一〇にあがったときに覚えたナノ。ヤキソバも覚えてるナノ」


 ん?


「今みんなのLV何だ?」


「ヤキソバLV一一 テッシLV一一 カゲヤマLV一二 なの」


「もしかして、チンピラ倒したときに覚えてたんじゃないか?」


「実はいいそびれたナノ、ごめんナノ」


「まあいいよ、なに覚えたんだ?」


「テッシちゃんは

 ブレイブヒール キャンセルスキル

 BP+零 次の攻防の終了時

 (今回と次、合計二攻防の間)まで自分のBP+八〇〇 対象のHP回復


 ヤキソバは

 二枚おろし

 BP+一〇〇〇 結晶化効果 だってナノ」


「やったデス! ついにわたしもヒーラーデビューです」


 テッシちゃんはガッツポーズだ。


「俺の、技の結晶化効果ってなんですかね?」


「えーっと、それはじゃのう。結晶化効果の技で攻撃すると、相手の体の一部を結晶化できるんじゃ。


 敵を倒すと、バラバラの黒いほこりになるじゃろう?


 でも結晶化した部分は残るんじゃ、持ち帰ると売ったりできるぞ」


 フェリリが知ってるかもしれないので、カゲヤマさんに直接聞いたわけじゃないけど、カゲヤマさんが答えた。


「なるほど、カゲヤマさん先輩冒険者だけあって詳しいですね」


 カゲヤマさんは、テレて頬を触っている。


「ああそうじゃった。ほかにも言っておかないといけない、重要なことがあったんじゃった」


「なんですか?」


「ブランクキャンセルのことじゃ。本当は路地裏の時に、言おうと思ってたんじゃが」


「どんなことですか?」


「各クラスにはブランクベースというのを持ってるんじゃ。フェリリ殿、二人の『ブランクベース』を調べてくれんかのう」


「わかったナノ」


 フェリリは、巻物で調べ始めた。


「出たナノ、二人ともブランクベースは二つなの」


「ありがとうなのじゃ」


「ブランクベースって、なんなんですか?」


 カゲヤマは説明する。


「ブランクベースはスキルを入れられる空の入れ物のことじゃ。


 つまり、ヤキソバ殿とテッシ殿はブランクベースという、スキルを入れることの出来る入れ物を二つ持ってるんじゃ。


 この『ブランクベース』には『ブランクスキル』か『キャンセルスキル』を入れることができるんじゃ」


「ブランクスキルって何ですか?」


 俺は、聞き覚えのないことばに対して、質問をする。


「わしが路地裏で『連携中にアイテムを使ったり、武器を出し入れしたり換えたりするのも、技の一つとしてカウントされる』と言ったのを憶えてるかのう。


 スキルって感じじゃ無いんじゃけどあれじゃ。


 つまり『武器の出し入れ』『アイテムを使う』、他にも『通常攻撃』などの行動がブランクスキルって訳じゃ。


 このブランクベースに入るものは『必ず連携として繋がる』んじゃ。

 つまり二人の場合はブランクベースが二つ。なので。


 『通常攻撃』『キャンセルスキル』でも繋がるし。

 『アイテムを使う』『アイテムを使う』でも繋がる。

 『武器の出し入れ』『キャンセルスキル』でもオーケーじゃ。


 『キャンセルスキル』『一つ目とは別の名前のキャンセルスキル』が主に使うことになるかのう。


 しかし、一番最初に『ブランクスキル』や『キャンセルスキル』ではない技を使うと、ブランクベースで技を使わなかったことになって、この方法では繋げることは出来なくなるぞ。注意じゃな」



「なんだか難しいですね」


「その内になれると思うんじゃが、つまりブランクキャンセルとは、『ブランクベースを使ってキャンセル技を使いました』ってことじゃ」


「目的地が見えてきたナノ」


 先頭を飛んでいたフェリリが、声をかけた。


「みんな言われた通り、カンテラもってきたナノ?」


 そういえば、そんなこと言ってたな。


「ちゃんと持ってきてるぜ」


 俺は箱からカンテラを出す。


 路地裏の時は、持ってきて無かったんだよな。


 買い物のつもりだったしな。


「持ってきてますデス」


「持ってきとるぞ」


 それを見てフェリリはうなずく。


「あれが今回の目的地ナノ」


 フェリリが指差す先には、洞窟の入り口がある。


 平地に五メートルほど下に、クレーター状のくぼみがある。


 そこを降りたところの右横に、洞窟の入り口がある。


 いうなら、アリ地獄に引きずり込まれたら洞窟発見。


 みたいな構造だ。


「クレーターの中心に、敵いるじゃねーか」


「働きアリ地獄 LV一〇 BP九〇〇 HP二五〇〇

 バレバレのクレーターを作るモンスター。

 その上、アグレッシブすぎて姿が見えているので、モンスターも引っかからない。

 クレーターの中心で待ってるこのモンスターは、やがて餓死してしまう。

 しかし、このクレーターの中心と、働きアリ地獄の巣はつながっている。


 すぐに、後任の働きアリ地獄がやってくるのだ。

 当然、後任の働きアリ地獄も餓死する。

 不況はつらい。だってナノ」


「地獄かよ……」


「そっちの意味の地獄デスか?」


「こいつらって無限復活するんだっけか、延々と同じことやってんのか? まあBPも大したことないし、ちょっくら倒してくるか」


 俺は、クレーターに身を乗り出す。


「待つのじゃ」


 カゲヤマが俺の服をひっぱる。


 じゃっかん斜める俺。


「パーティ組んでないじゃろうが」


「おっとそうでした」


「パーティは戦闘に入ると組めなくなるぞ、戦闘中に外れることも出来ないんじゃ」


「そうなんですか?」


「周囲の魔源が変じるとかって話じゃな、しばらくはそこじゃ無理じゃな。場所を変えないと」


「へーデス」


 俺、テッシ、カゲヤマ、フェリリはパーティを組む。


「それと魔源クリスタルじゃ」


 カゲヤマ以外の三人は、クリスタルを受け取る。


「首にかけたら、服の中に入れておいて問題ないようじゃな。壊されるかもしれんしの」


「了解です」


 俺が言うと、うなずくカゲヤマさん。


 もうないか?


「よし、一番のりだ!」


 俺は、クレーターに飛び込む。


「ずっ、ずるいデス!」


 クレーターに足をつくと、思ったよりすべって尻餅をつく。


 そして、そのまま流される。


 眼前の働きアリ地獄は、上に向いていた顔をこちらに向ける。


「二枚おろし!」


 振りかぶった右手の剣が、左上から右下に振り下ろされる。


「BP+一〇〇〇 なの」


 一八二〇ダメージか。


「まってくださいデス」


 後ろから声が聞こえる。


「なで切りだ!」


 追撃する俺。


「BP+二〇〇 BPマイナス二〇〇 なの」


 一〇七五ダメージ。


 黒いほこりになって消滅する、働きアリ地獄。


「二枚おろしと、なで切り――。コンボで繋がるじゃねーか」

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