第27話

 兄貴はうしろに倒れこみ、身体を起こそうとする。


 だが身体をふるわせるだけで、力が入らないのか。


 上半身を斜めにするだけで、起き上がれないようだ。


「ヤキソバさんずるいデス。おいしいところを持っていって」


 テッシちゃんが頬を膨らませている。


 わりと余裕なかったから。


 と、いったらテッシちゃんのプライドが、傷つきそうなのでやめた。


 俺たちは、うらめしそうにみつめる兄貴を左右に避けて、行き止まりを抜け出た。


「フェリリ、案内たのむ」


「分かったナノ」


 巫女の子はどうやら、方向音痴っぽいからな。


 フェリリに頼んだのだ。


 フェリリは、俺のほほに風をふりまいて飛ぶと、闇夜にきえた。


 しばらくすると声がきこえてくる。


 そう遠くはないのだろうが、町はかなり暗くなっているので、姿はみえない。


 俺たちは、宵闇のなかをひたはしる。


「兄貴とチンピラはかなり強さが、ちがったデスね」


「なんとなく、あれはわざとな気がするんだ、わざと下っぱのクラスを弱くして、カリスマ性を高めてるんじゃないかな」


「見栄っぱりデスね」


 兄貴も、ただの下っ端にすぎない可能性も高いし。


 この巫女も災難だな。


 変な奴らに狙われて――。


 しかし、この子を攫って、何をしようとしてたんだ。


「ハァハァ――すまんの――ハァハァ、後半、はぁはぁ――緊張して、はぁはぁ、治癒の護符を――、使うのを――、忘れて――」


「カゲヤマさん、話は後で良いですよ。取りあえずどうします?」


「ここから近いのは、ヤキソバさんの宿ですね、今晩はそこで泊まりましょうデス」


「えっ……、俺の部屋ですか? 困りますよ」


「きょう来たときに隣の部屋に空きがあったから、そこを借りますですよ。それより夜に徘徊するほうが危険です。夜特有のモンスターが空から町にしんにゅうするデスから」


「そうなの?」


「そうデスよ、しらないデスか?」


「そうじゃな、わしもそうするしかあるまい。チンピラはわしが、家に帰るときに襲ってきたんじゃ。しばらく帰れん。装備も取られてしまった」


 今日は、武器堂に人が沢山くる日だったから、そこを狙われたのだろうか。


「じゃあカゲヤマさん、しばらくは俺の部屋の隣に住むってのはどうです?」


「あんなハァハァ――奴らに家の周りを――嗅ぎまわられてちゃ、ハァハァ――、帰宅できないのは確かじゃな――、はぁはぁ」


「無理しなくて良いですよカゲヤマさん」


「話は宿に行ってからにしましょう、わたしももう疲れたデス」


「すまぬ、ちょっと休憩させておくれ」


 そういうと、カゲヤマは腰を下ろして両膝を抱えた。


 キキーッ。


 かん高い音が聞こえる。


 周りを見ると、魔灯に幅一メートルほどの巨大なこうもりがいる。


「悪バットじゃ!」


 おいおい、もうテッシちゃんのHPがねえよ。そのとき。


 どこからともなく、悪バットと同じくらいの大きさの雷撃の球が、周りに静電気のような細い稲妻を飛ばしながら浮遊してきて、吸いよせられるように悪バットに向かっていく。


 悪バットはそれ当たると、かなきり声の断末魔をみなに浴びせながら、炸裂四散し同時に雷撃球も消失する。


「夜間用魔道砲による索然は、初めてみたのう」


「魔道砲?」


「町の四方、計四箇所にある夜間モンスターの撃退装置じゃよ、高BPによる追尾する雷撃マジックなどを撒布するのじゃ。


 装置とはいうが平たくいえば、威力や射程などが強化される、固定砲台の魔法使い用装備なんじゃよ。使っておるのは、夜間の仕事に従事する人間じゃ」


「空を飛んでなければ、魔道砲は安心デスよ」

「わたしは、衝撃吸収魔法を適用してるから大丈夫ナノ、魔道砲対策の効果もあるナノ」


 そういいながら、フェリリは降りてくる。


「大丈夫なんじゃないのかよ」


「悪バットに襲われるナノ、宿はもうすぐナノ」


「魔道砲だって悪バットを、すべて倒しきれる訳じゃありません。襲われるとまずいデス……、一刻もはやく戻りましょうデス。カゲヤマさんは、ヤキソバさんにおぶさってくださいデス」


 いや、俺も疲れてるんですけど……。


 でも体力ない男だと、おもわれたくない。


「大丈夫ですよ、わたしが押しますから」


「いや、俺だけで平気だよ。気持ちだけで十分っす」


 正直、押されて派手にころぶ未来しかみえない。


「すまんのう、すまんのう」


 カゲヤマがおぶさる。軽いな。


「いっとくけど。『重い』と『思ったより軽い』は禁句じゃからな特に後者」


 言いませんよそんなこと。


 それにしても、カゲヤマの髪の毛が首筋に当たってこそばゆい。


「あー、あー、あー、あー、あー、あー、あー、あー」


 カゲヤマが俺の右肩に、アゴを乗せてガクガクさせて遊んでる。


「すまんのう、すまんのう」


 絶対すまんって思ってねーだろこれ。


 普段ならまだしも、今はマジで疲れてるんすよ俺。


 そんなことをしつつも、俺たち三人は俺の宿に戻った。


 宿は夜間モンスターたいさくで、窓などに金属板がおろされている。


 宿の正面の入り口は閉まってたので、裏口からはいる。


 二人はとりあえずロビーへ行った。


 そして、俺の部屋のとなりの部屋を、一日分の料金を支払ってかりた。


「おやすみなさいデス」


「おやすみじゃ」


 今後のことは明日の朝に話すことにして、今日は寝床につくのだった。

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