第26話
「カゲヤマさん」
俺は声をかける。
「なんじゃ?」
「さっきから二度も、『ブランクキャンセル』って言ってますけど、なんなんですか?」
「キャンセルスキルの使い方の一つじゃ、これをいわないと、キャンセルスキルは使えないんじゃ」
兄貴がステップを踏んでリズムを取っている。
「わたしも――」
兄貴が来る!
「わたしもキャンセルスキル持ってますデス! ブランクキャンセル! ぶっ叩きデス!」
テッシちゃんは、ヘビー棒を振りかぶる。
「右ジャブだ!」
兄貴とテッシちゃんの攻撃が、同時に相手の身体に吸い込まれていく。
二人の身体が、雷光に包まれる。
「取り合えず、一つだけでも弾かないと!」
俺は声をあげる。
「わかっとる、ブランクキャンセル! 減退の呪符じゃ!」
札が相手に向かっていく、俺もなで切りを使う。
しかし、ここであることに気がつく。
しまった!
兄貴の元々のBPが二一〇〇、兄貴の技が自分のBP-五〇〇、カゲヤマの技がBP-五〇〇。
カゲヤマの技の下降限界が、七十%なんだから、俺のなで切りは使う必要がねえ。
さっきの兄貴のBP一四七〇って、そのことだったんだ。
カゲヤマの呪符と、俺のなで切りが兄貴へ向かっていき。
やがて順番にヒットする。
あれ?
兄貴のBPが一二七〇になっている。
なんだ?
そうか。
カゲヤマの減退の呪符は下降限界は七十%。
だけど俺のなで切りには、とくに下降限界がない。
だから、七十%を超えて減ったのか。
鍔ぜり合い状態が終わる。
兄貴の右ジャブは弾かれ、兄貴に五五〇ダメージ。
俺に視覚に、アニキ HP一九四〇/三〇〇〇 と写っている。
しかしなぜ、フェリリはアニキという名前で、巻物の情報を魔卓に送ったのだろうか。
それはさておき、問題はここからだ!
兄貴の三連続連携が――あれ?
兄貴は一歩分ほど後方に吹っ飛んで、追撃してこない。
「ふっふっふ、これがヘビー棒のスキル、ぶっ叩きのKBノックバックデス、兄貴の追撃はわたしには届きませんデス!」
KBノックバックは確か、びっくりさせるなどの意味だったか。
俗に『のけぞり』などでも使用される。
KBは移動させる効果だったのか。
そうか、連携中は移動ができない。
リーチの無い攻撃や技しかない奴は、移動させられると攻撃が届かないんだ。
兄貴は連携が終わると、再度テッシに向かっていく。
「右ジャブだ!」
「ブランクキャンセル! もう一度ぶっ叩きデス!」
再度ぶっ叩きを使用するテッシ、俺とカゲヤマも援護する。
兄貴の攻撃は弾かれ、吹っ飛ばされダメージを受ける兄貴。
四九〇ダメージ。
アニキ HP一四五〇/三〇〇〇
「なんどやっても無駄デスよ、兄貴さん!」
「くそがあああああああああああ」
兄貴の咆哮がひびきわたる。
これはイケるか……?
「カゲさん、カゲさん」
「ん? なんじゃ?」
兄貴が唸ってるなか、横のカゲヤマの肩をそっとたたいてきく。
「さっき、キャンセルスキルの使用法のひとつって、そういう言い方をしてませんでしたっけ? 他にも使い方があるんですか?」
「別の使い方は『技の差し換え』じゃな、どっちかっていうとこっちがメインじゃ」
俺を見上げていう。
「どういうことですか?」
「例えば技A、技B、技Cの順番で連携を、おぬしが使えるとする」
「はい」
「おぬしは連携中に技Aをつかう、使った段階で仲間がピンチになったとする。しかし、おぬしはもう技B、技Cと順番に使うしかない」
「そうですね」
「本当はおぬしは技Dという。状況を打開できる技があるのに使用することができんのじゃ、困るじゃろう?」
「困っちゃいますね」
「そこで、キャンセルスキルじゃ」
カゲヤマさんの瞳が、らんらんと輝いている。
「技Aの次の技であるBをキャンセルして、技Dに変更することが出来るんじゃ」
「すごいですね」
「技Bをキャンセルするこの場合、『技A、技D、技C』と順番に使うことが出来るぞ。
技Bは効果はでないが一応発動したとみなされ、技Dも一回の連携中に二度は発動できん。
使い方は『技Bの発動後、キャンセルと言ってから技Dの名前を言えばOK』じゃ。
もちろん技のABCどれをキャンセルしても、同じように技Dが使えるんじゃ」
「すごい便利ですね」
「もちろん、キャンセルスキルじゃないと差し換えはできんぞ」
「カゲヤマさん物知りですね」
カゲヤマは恥ずかしそうに、頬を掻いている。
なんとなくこの人は口調からして、教えたがりの気性がありそうにみえる。
「忘れておった、鍔ぜり合い状態になったらキャンセルできんぞ、一応いっておくと」
カゲヤマは腕をくみ、得意顔でいう。
ふと見ると、さっきまで唸ってた兄貴は、汗を垂らしながら下をむいて、なにやら考えこんでいる様子だ。
今のうちに逃げられないか?
うーん、ちょっと無理そうか。
「カゲヤマさん、教えてくれてありがとうデス」
さっきまで考えていた兄貴は、なにかを思いついたように素早く顔を上げる。
それに反応して、俺たち四人はびくりと身体を震わせる。
アニキ HP一四五〇/三〇〇〇 BP二一〇〇
テッシ HP一三〇五/二一〇〇 BP一七〇〇
ヤキソバ HP二四〇〇/二四〇〇 BP一一一〇
カゲヤマ HP二五〇〇/二五〇〇 BP一一〇〇
兄貴に手がないなら、このまま勝てるはず。
兄貴のこちらに向かう足は、だんだんと速度を増し、やがてコブシを構えたまま前のめりに走りだす。
「ぶっ叩きデス!」
「アッパーだ!」
「アッパー BP+一〇〇〇なの!」
俺とカゲヤマは、なで切りと減退の呪符で援護する。
だが、テッシのダメージは大きい。
テッシに四〇七ダメージ。 テッシ HP 八九八
兄貴に二九〇ダメージ。 アニキ HP一一六〇
吹っ飛ばされる兄貴。
まずい。
どのみち、ノックバックで連携攻撃ができないとふんだ兄貴は、一撃の威力でたたかう方針にしたのか。
あんな威力の攻撃があるんじゃ、もしテッシちゃんがやられて俺が直接戦うことになったら……。
俺のBPじゃ鍔ぜり合いが発生すると、攻撃がはじかれまくるし、勝負にならねえ。
ヤバいなこれは。
「ピンチですねヤキソバさん……」
テッシが背中で語る。
「ヤキソバさんすいません。わたしちょっと冒険します……」
こちら側に首だけむけて、抑えめの声でいうテッシ。
そして、フェリリに話しかけている。
兄貴が向かってくる――。
「振り下ろし!」
「BP+五〇〇なの!」
それって、ノックバックがないやつじゃねーか。
テッシちゃんは敵の一撃重視を見て、よりBPの高い技にしたのか。
それをみて、兄貴はニヤリと片方の口角を曲げる。
「右ジャブだ!」
しまった。
兄貴はテッシちゃんが使った技が、ノックバックじゃないのを見て、三連携技に切り替えてきたのか。
「キャンセル! ぶっ叩きデス!」
兄貴とテッシは相うつ。
「減退の呪符じゃ!」
「なで切り!」
雷光がはじけ飛ぶと、兄貴はノックバック効果で一歩ぶん後退する。
これで、兄貴は一方的にダメージを受けた。
テッシちゃんのふり下ろしはフェイントで、これを狙ってたのか。
しかし、キャンセルを言うタイミングだって。
キャンセルを含めた時間こみでの技のタイミングだって初めてなのに、ぶっつけ本番でよく成功できたよ。
兄貴の攻撃は弾かれた。
そして一方的に 五五五ダメージを兄貴にあたえた。
アニキ HP 六〇五/三〇〇〇 BP二一〇〇
テッシ HP 八九八/二一〇〇 BP一七〇〇
「わたしだって兄貴さんが、アッパーの後に繋がる、別の組み合わせの連携コンボを隠してた可能性は考慮してますデス。BP+一〇〇のために、KBノックバック効果を擲なげうったりしませんデス」
まあ、それもそうかもな。
兄貴の方をみると、まだやる気のようだ。
ダメージは見えてるのかもしれんが、兄貴はこっちのステータスが分からないはずだからな。
おし切れると、おもっているのか。
ん?
ふとみると俺の右手が光っている。
よし! こいつで決めるか!
俺は剣を鞘におさめる。
兄貴が飛び込んでくる。
「アッパーだあああああああ」
「ブランクキャンセル! ぶっ叩きデス!」
「減退の呪符じゃ!」
俺は、なで切りを使わない。
「おぬし何やっとるんじゃ。加勢せい」
「加勢はします、大丈夫です」
「武器を閉まっておるじゃないか。連携中にアイテムを使ったり、武器を出し入れしたり換えたりするのも、技の一つとしてカウントされるんじゃぞ、コンボがないと繋がらん」
鍔ぜり合いがおわる。
テッシに四四〇ダメージ。
兄貴に二七一ダメージ。
一レンジふっとぶ兄貴。
アニキ HP 三三四/三〇〇〇 BP二一〇〇
テッシ HP 四五八/二一〇〇 BP一七〇〇
俺は、兄貴のところへすばやく走りよる。
今回、まだ連携に参加していないから、移動できるからな。
このタイミングならまだ連携中だ。
兄貴にアッパーから繋がる技がないなら――。
「左フックだ!」
「左フック BP+〇なの!」
俺は、鞘におさめたままの剣に手をかけ――。
「居合い抜き!」
抜き払った。
「居合い抜き! BP+一五〇〇! 五一二ダメージなの! 兄貴のHPは〇ナノ!」
よし、兄貴を倒したな。
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