第25話

 チンピラの兄貴分が出てきたか……。


 俺は巫女の女の子の、口にあるテープをはがし終えた。


 巫女の子は、自身の口のベトベトを気にして、手でさわっている。


 身長一四〇センチの、小柄な女の子だ。


 赤いカチューシャを付け、腰くらいまである黒髪のロングヘアは、先端でまとめられている。


 まつげがちょっと長い。


 テッシちゃん方も、巫女の手に巻かれた縄をほどいたようだ。


「巻物でステータスをみたナノ

ミチタカ アニキLV三〇 HP三〇〇〇 BP三〇〇〇


スキル 兄貴肌 パーティのチンピラの数×三〇〇ポイントBPが上昇

ってあるなの」


 俺は、兄貴とよばれる者の方をみた。


 俺からややはなれ、三メートルくらい上の段差にいる。


 BP三〇〇〇かやべえな。


 でもこれって、みんなで走れば逃げられるんじゃね。


 兄貴とよばれる男は、格好をつけているのか知らんが、すこし高い所にいるし。


「みんな、走って逃げよう。俺のかけ声と同時に走ってくれ」


 俺は小声で言う。


「わかったなの」


「わかりましたです」


「了承したのじゃ」


 チンピラが兄貴に黄色い声援をおくる中。


 俺たちはこっそりと、逃げるために最適な位置ににじりよる。


「今だ!」


 俺たちは、一目散に走りだす。


「兄貴いいいいいい、奴ら逃げ出しましたぜ!」


 くそっ!


 お前は兄貴だけをみてろよ――。


 俺たちは、しばらく走りつづけた。


「こっちなのじゃ」


 道を右にまがる、何回みちを曲がっただろう。


 これ本当にあってるのか?


 嫌な予感は的中し、行き止まりにぶちあたる。


 道を戻ろうとしたとき、まがり角から兄貴が顔をだす。


「すまん、もう走れないのじゃ」


 巫女もとい、カゲヤマはその場にへたりこむ。


 これじゃ、道を間違えなくてもおなじか。


「おーいお前ら! ここだ! ここにいるぞ!」


 兄貴は、声をはりあげる。


「兄貴のBPが二一〇〇まで下がってるなのね、チンピラが消えたからみたい。兄貴はよんでるけど来るわけないとおもうの、あいつらは、はってでしか動けないナノ」


 いや、あいつらは来る気がする。


 時間はかけられねえ。


「みんな、おたがいの名前は相手に聞かれないようにしてくれ、ここでアイツ――兄貴をたおす」


 兄貴がポケットに手を入れたまま、ゆっくりと歩いてくる。


「もう逃げられねーぞ、おい」


「君はどんなことが出来るクラスに就いているのか、教えてくれないか?」


 兄貴をスルーして、カゲヤマさんを見て小声でたずねる。


 テッシは薬草を食べている。


「得物がないので、援護しかできんのじゃ」


「分かりました、援護お願いします」


 うなだれるカゲヤマさんは、俺の小声での言葉をきくと、片足ずつあげて立ち上がり、俺を見上げてうなずいた。


 俺たちは三人で声をあげ、パーティを組んだ。


 装備がないってことは、攻撃力も守備力も低いってことか。


「兄貴をこっちに通さないようにお願いします、俺と彼女は援護しますから」


 テッシの方をみながら言うと、彼女はうなずく。


「魔卓の機能でステータスやダメージの可視化したなの、名前を声に出せないから、誰に何ダメージかこれで確認してよね、相手の情報は巻物から送ったなの」


「サンクス」


 俺は、視覚化したステータスを確認する。


 ヤキソバ ショウニン   LV一〇 HP二四〇〇 BP一一一〇

 テッシ  ダメプリースト LV一〇 HP二一〇〇 BP一七〇〇

 カゲヤマ オンミョウジ  LV一一 HP二五〇〇 BP一一〇〇


 ちゃんと見えるな。


 相手が視界に入ってないと見えないから。


 前で戦っている場合は、フェリリにまわりを確認してもらう方が、頼もしいがな。


 自分のステータスは、視覚の邪魔にならない範囲に見える。


 少し違和感があるが。


 人は自分の鼻が、常に視界に見え続けている。


 なぜそれが気にならないかというと、脳が気にならないように、補正してくれるそうだ。


 なので、普段からこの魔卓の機能をつかってる人は、脳が補正して気にならなくなるのだろうな。


 俺、テッシ、カゲヤマはうなずくとテッシは兄貴に向かっていく。


 ゆっくりと近づく兄貴。


 それに対し、テッシはヘビー棒をふり上げる。


「振り下ろしデス」


 兄貴はポケットから腕を出し、右パンチをはなつ。


「右ジャブだ!」


「振り下ろし BP+五〇〇

 右ジャブ  BP-五〇〇   なの」


 BP-五〇〇?


 なんだ?


 兄貴の技、BP減ってるじゃないか。


 二人の攻撃は雷光をはなち、鍔ぜり合いになる。


 よし!


 援護だ!


 二人が火花を散らす中。


 俺はテッシの背後から、右横に身体を出し、なで切りをはなつ。


 兄貴に、俺の斬撃がヒットする。


 同じパーティ内なら技があたらない。


 隠れてつかうには、便利なルールだ。


 ちょっと格好がつかないがな。


 テッシちゃんにあたると、技が失敗するかもしれないし、鍔ぜり合いが終了したら俺が狙われるかもしれない。


 そこは注意が必要だな。


「ブランクキャンセル! 減退の呪符じゃ!」


 カゲヤマが札をはなつ。


 軽いようにみえる札は、不思議にも勢いをうしなわず、上下をバタバタとはためかせ、黒いオーラをまとって真っすぐに向かっていく。


「減退の呪符 キャンセルスキル

レンジ四 BP-五〇〇 攻防中、対象のBP-五〇〇

下降限界七十%(相手のさげられるBPは、相手の初期BPの七十%になるまで)なの」


 フェリリは俺の耳元でささやく。


 おそらく、この距離でも相手には、聴かれてないはずだ。


 攻防中ってのは鍔ぜり合いが終了するまで、もしくは次の自分の技が発動するくらいまでか?


 相手BP一四七〇。


 いける!


 小さな電とともに、鍔ぜり合い状態が解除される。


 テッシが、相手の攻撃を弾く。


 上半身をよろめかせる兄貴。


 そして、兄貴に五一〇ダメージ。


 兄貴の残りはHP二四九〇。


 全然いける。


 しかし、兄貴は叫ぶ。


「左ジョブ!」


 上半身を戻すと、兄貴は技を繰り出す。


「左ジャブ BP-五〇〇 なの!」


 兄貴の声に反応してか、フェリリの声に反応してか。


 テッシは技名を叫ぶ。


「振り下ろしデス!」


 しかし技は発動しない。


 兄貴がテッシを殴りつける。


 テッシちゃんに、二九〇ダメージ。


「右ストレートだああああああ」


 兄貴が振りかぶる。


「右ストレート BP+五〇〇なの!」


「ふり下ろしデス!」


 テッシがいうが、なおも技は発動を開始しない。


 ヘビー棒を振るが、動きがにぶい。


 半身になったテッシちゃんは、左手を盾にする。


 そこに、兄貴の右手がヒットした。


 テッシちゃんに、五〇五ダメージ。


 テッシ HP一三〇五/二一〇〇 と表示されている。


「ブランクキャンセル! 治癒の呪符じゃ!」


 黄色のオーラを持つ札が、テッシのもとへ飛ぶ。


「治癒の護符 キャンセルスキル レンジ四 

 BP+〇 対象のHPを回復

 効果終了後、この攻防の間は、自身のBP-五〇〇 なの」


 テッシはHP一〇五回復する。


 テッシ HP一四一〇/二一〇〇 と表示されている。


「装備がないから、効果が減じておる……」


 カゲヤマは、か細い声でいう。


 兄貴は攻撃を終えると、軽快なステップで広めに一歩バックする。


 兄貴の攻撃は、三連携攻撃か。


 だからテッシちゃんが、対応できなかったんだな。


「フェリリ、呪符にあるレンジって、どのくらいの距離だ?」


「一レンジは約一・五メートルなの!」


「そなた、そなた」


 カゲヤマが話しかけている。


 俺にか。


「わしはいま得物をもっとらん。呪符は袖に入れてたから使えるんじゃが、相手の連続攻撃をうけたらひとたまりもない。畢竟ひっきょうするに、銀髪の子にわしを守らせておくれ」


 カゲヤマは俺の左腕を、自身の両手で握っていう。


 震えがつたわってくる。


 だいぶ怖がってるなこの子。


 だけどBPが低いのは俺もおなじだ。


 テッシちゃんがやられたら、俺たちは負ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る