第24話

「どうすんだよこれ」


 夕暮れの中、俺は隠れてテッシを見守る。


 加勢した方がいいか?


 しかし、俺が加勢にいって二人とも捕まると、かえって危険な気がするしな。


 どうしたもんか。


 フェリリだけで周囲に人を呼ばせるのも、やつらがこのあとすぐに移動した場合に困る。


 俺がこの辺で周囲の人をさがして、助けを呼びにいくというのも、テッシがこのあと危機におちいった時に、加勢できなくなる。


 悩ましいな。


「テッシ LV九 HP一七二〇 BP一六一〇 SP八五五 MP九九〇 ナノ」


「BPが一六一〇? 凄く高いな」


 俺は小声でいう。


「あの重そうな銀色の棒は


 ヘビー棒 BP+八〇〇 

 相手が自分のBPの一・四倍じゃないと弾かれない


 装備スキル ぶっ叩き、キャンセルスキル

 BP+四〇〇 KBノックバック、技の使用者から対象者方向に一レンジ、だってなの」


「なるほど、だから上がってるのか」


 ん?


「どっちかっていうと、テッシよりも敵のデータを見てくれよ」


「そうなのね」


 フェリリは魔卓を操作している。


「なんか魔卓じゃ、敵のステータスを見れないから、巻物で調べてみるナノ」


「頼むわ」


 テッシの方をみやると、拉致魔と話している。


「大の大人が女の子に乱暴するなんて、恥ずかしくないデスか! 即刻やめるデス!」


「お前こそ、そんな変なしゃべり方して、恥ずかしくないのかよ、消えな」


「んんー」


 少女は口を塞がれて、喋れないようだ。


 テッシは口げんかを続ける。


 いいぞ、テッシちゃん。


 もっと時間を稼いでくれ。


「トシ チンピラ LV二〇 HP九〇〇 BP七〇〇

マサキ チンピラ LV二二 HP九八〇 BP七六〇

タカ  チンピラ LV一三 HP六二〇 BP四九〇 って出たナノ」


「なんか弱くね?」


「違法クラスっぽいナノね」


「おまえ武器堂でのトークきいてたのか」


「わたしは聞いてたナノよ」


 そういえば、違法クラスは弱いとか言ってたな。


 こいつら元々のクラスを、剥奪されてたのか。


「あの女の子は

カゲヤマ オンミョウジLV一一 ニンジャLV一一 HP二五〇〇 BP一一〇〇

何か見えないデータがあるナノね、解析してみるナノ?」


「頼む」


 俺はテッシちゃんの様子を、うかがいながら言う。


 巫女と陰陽師って、けっこう差異があったような。


 なぜ巫女服を着ているんだろう。


 まあ、俺の前の世界の文化とかもはや関係ないか。


 たぶん俺みたいに、記憶持ったまま来たやつが、伝えたんだろうな。


 俺や妹、一香ちゃんがいるんだから。


 俺とおなじ世界から、記憶を持ったまま来たやつが、他にもいるのだろう。


「この子に興味もったの? パーティにいれたいなの?」


「いや、いれない」


「わたしの和服友達が増えるとおもったのに残念なのね。見えないデータの解析がでたよ、結構生命力使っちゃった。セレクトスキル、見えない成長力、サブクラスの成長率が二倍だってなの」


「気が変わった、こいつは助けた後でパーティにさそおう。しかし、相手のステータスをみるに、テッシちゃんに加勢は必要ないのかもな」


 助けにいかない俺は、フェリリを意識していい訳じみたことをいう。


 奴らがどんな団体なのかしらないが、万が一、テッシの身元がバレたとしても、俺の身元がわれていなければ、かくまい易いはずだ。


「あいつら、テッシちゃんのステータスの確認をしないナノね」


「俺たちが魔卓で、あいつらのステータスを見れなかったように、人間同士は確認できないんじゃないか?」


「そうね、そんな感じするナノ」


 しかし、通行人が誰も通らねえな……。


 目撃者がテッシちゃん一人だけだと、テッシちゃんの居場所をさがされて、狙われる可能性があるけれど。


 目撃者が複数だと、一々そんなことしない可能性も高いとおもうから、誰か通ってほしいのだが。


「てめえやんのか!」


「少女を解放するデス!」


「こいつ、やっちまおうぜ」


 男三人はテッシの周囲を取りかこむ。


 男たちは小刀を抜いてにじるよる。


 周りはすっかり薄暗くなっていて、周囲の魔灯が明滅をくりかえし、かるい音とともにやがて光をはなつ。


 おっ、はじまりそうだ。


「ふり下ろしデス」


 テッシの一撃が、チンピラの一人にヒットする。


「タカに一四五五ダメージなの! タカを倒したナノ!」


「おいおい、ワンパンかよ」


 男はその場に、膝からくずれ落ちる。


「この女っ」


 チンピラは、小刀でテッシに切りにかかる。


 テッシはいともたやすくよける。


 もう一人のチンピラがテッシの背後からつく。


 テッシはさけるが、肩に小刀がかする。


「おいおい、テッシちゃんの肌が」


「傷ならHP回復させると、消えるナノ」


「そうか、ほとんど鍔ぜり合いとかのダメージだったからな」


 俺は安心する。


 びみょうに緊張感がないのは自覚はしてるが。


 気になるものは気になる。


「テッシちゃんに、四五ダメージなの」


 テッシは自分を切りつけた相手に向かってふり返り、ヘビー棒をふり上げた。


「ふり下ろし!」


 相手の顔面にむかって叩きつける。


 これはいてえ。


「トシに、一〇二〇ダメージなの。たおしたなの」


「あとは、あなただけデスよ」


 テッシは挑発する。


 男は冷や汗をひとすじ。


 どちら側からも、しかけずに硬直する。


 硬直をやぶったのは、チンピラの方だった。


「うおおおおぉぉぉ」


 突進して、小刀を振り下ろすチンピラ。


 そのチンピラの、ふり下ろしの動作をみてから、さけるテッシ。


 次の瞬間、チンピラは腹部にヘビー棒をかかえ込んでいた。


 うずくまるチンピラ。


 チンピラが見あげると、見おろすテッシ。


 テッシはヘビー棒で、かるく肩をたたいた。


「五三〇、四九六ダメージなの、チンピラCをたおしたなの」


 このフェリリのセリフはテッシには聞こえないのだが、まあ関係ないか。


「もう安心デスよ」


 巫女少女にかけより、脚にくくり付けてある縄をほどくテッシ。


 ん?


 チンピラたちの身体から、黒いほこりが巻きあがってる。


 チンピラはロストした訳じゃないようだが、人間同士でも経験値がはいるのか?


 黒いほこりは上に巻きあがり。


 その後、俺とテッシにわかれて分配される。


 しまった!


「おい! そこにいる奴でてきな!」


 何者かの声がきこえる、チンピラたちの関係者か?


 経験値の分配で、隠れているのがバレちまったか。


 俺とフェリリは、テッシのところにかけよる。


 フェリリは残していこうかとも、おもったのだが。


 戦いとなると、フェリリがいないと少々厳しいかもしれない。


「兄貴!」


「あにきいいいいいいいいいいい!」


「あにきいいいいいい、うおおおおおおおおお」


「すまんが、もっとゆっくりはがしとくれ」


 はいつくばってる男たちが絶叫する中。


 俺は巫女少女の、口のテープを淡々とはがしていた。

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