第22話

「レアクラスって副産物なんですか? 正直、レアクラスの意味すら知らないんですけれど」


「うん、ところで君は、どうすればクラスの評判の低下を、おさえられるとおもう?」


 俺はしばし考える。


「魔法をかけて冒険者の考えをあやつったり、魔法で冒険者の会話を監視するとかですかね」


「君は結構怖いことをいうね……」


「そうですかね」


 おじさんに呆れられてしまった。


 思いつかないんだから、仕方ねーじゃねーか。


「君はステータスって知ってるかい?」


 腕を組んでおじさんはたずねる。


「筋力とかってやつですよね?」


「そうそう、でもアレ以外にもステータスって種類があるんだよ」


 知らなかった。


 ブラインドステータスってやつか?


「どういうものなんですか?」


 おじさんは困り顔でいう。


「正確な項目はいえないんだけど、性格や感情などの項目だね。


 つまりは、クラスに向いていない気質だと判断されたら、クラスチェンジをはじかれるんだよ」


「人間の心を数値化するなんて大それてますね。それに人間の性格って、なんらかの原因で変わることもあると思うんですけれど……」


 俺に内緒でそんなことしてたのか。


 他の冒険者はこのことを知っているんだろうか?


 おじさんが普通に話してるところをみると、この事はわりと一般認識なのか?


「確かに大それたことだ。でも、この試みはあるていど成功する。

 怠け者の人。

 パーティを乱す人。


 他の冒険者などをおそう人。

 悪意をもってこっそりと、嫌いなパーティメンバーに嫌がらせをする人。

 犯罪にはしりそうな者。色々な人が弾かれた」


「なんか、すごいことになりましたね」


「そうだね、それに数値化したことが、こうをそうした。


 あるていど明確な相関関係をもって、はじくことができたんだ。


 二種類、三種類、あるいはもっと複数の、性格や感情のステータス項目の組みあわせで、相関関係が分析された。


 今でも項目の細分化で、新しい項目がうまれているし、分析もすすめているよ。


 各クラスによって、ステータス項目の危険度のランクづけもされ、さらには、パーティメンバーの、性格ステータスとの相性まで分析された。


 もちろん、その人のクラスとの関係もおりこみ済みでね」


「なんだか画一化された社会みたいで怖いですね」


「大手はクラス取得者一人の事件で、収益がいちじるしく減る。

 保守的になるのも、しかたないのかもしれないね。

 でも、このことを好機ととらえてた人たちもいたんだ」


「好機ととらえた所って、インディーズのクラス配給団体とかですかね?」


 テッシちゃん長椅子で完全に横になってる、本当にゴメン。


「まあ、そんなところだけど。インディーズとまでいかなくても、準大手とか普通のところとか、大手に弾かれた人を積極的に勧誘していったよ。『うちの配給してるクラスなら貴方たちを受けいれます』ってね」


 なんかセリフが、怪しい勧誘っぽく聞こえるな。


「でも少しおかしくないですか?

 収益のためにやってることなのに、人を弾くなんて。

 結局収益が下がりそうな気がしますけど。

 そのことで文句をいう人が出て、肝心の評判の方もあやしいですし」


 少々横暴な気がする、大きな反発がありそうだ。


「大手は安定性のほうを重要視してるんだよ。一時期の大もうけよりも、安定したそこそこの収益ってことだね。


 結局、何で弾かれたかはブラックボックス化してるし、文句もいいにくい。


 文句をいったらいったで、『ホラホラそんな性格だから弾かれたんだよ』っていわれそうな雰囲気あるしね。


 でも、一度そのクラスになりさえすれば、簡単には弾かれないと思うよ。


 一度なってからはじかれて、ノークラスになった人も、身におぼえがあるのか、あまりクレームの話は聞かないしね」


「えっ、一度そのクラスになっても、はじかれる場合があるんですか?」


「あるんだよねそれが。クラス配給団体はクラスの解除ができるんだ。

 魔源の徴収をおこなう魔具がおかれているポイントで、クラス配給団体が個人にたいし、クラス解除申請をしていると解除ができる」


「ちょっとそれは酷くないですか? いきなりノークラスになったら、お先真っ暗ですよ」


「いやいや、ちょっとした理由では、既についているクラスを剥奪したりはしないよ」


 おじさんは首をふりながらいう。


「剥奪されるのは、主に法をやぶった犯罪者ってことですか? ノークラスならまともに戦えませんし、HPがゼロになれば逃げられませんしね」


「そうだね。でも奴らも簡単には捕まらないよ。もし仮に君が犯罪者になったら、クラスを剥奪される場合にどうする?」


 とんでもないことを聞くな。このおじさんは……。


「なんらかの方法で、クラス配給団体の主要施設を手中におさめ。クラスの返還を求めてたてこもる、とかでしょうか?」


「君の場合はそうなんだね……。

 君が犯罪に手を染めないことを祈るよ……。

 正解は『魔源徴収ポイントを避ける』もしくは、『違法クラスにつく』が主だね」


 なんじゃそりゃ。俺は質問されたから、答えただけなのによ。


 しかも質問が、いつの間にか問題になってんじゃねーか。


「魔源徴収ポイントって、避けられるんですか?」


「魔源徴収ポイントは公にあるものと、隠されてるものがあって、簡単には避けられないね。


 町に入るところにもポイントがあるから、町に入るのも大変だし、もし反応したら、発行色の光がつく魔法をかけられて、えんえんと追跡されるよ」


「そんなことになったら夜も眠れませんね、まあ、『ちょ、お前の発光色ってブルーじゃん? それ今年のニューカラーじゃね?』『俺のはシルバーグリーン、レア色なんだぜ?』こういう会話してるかもしれないですけど」


「随分きらくな犯罪者だね……。もう一つの方法は違法なクラスにつくことだね」


「違法なクラスって、冒険者協会支部の人もいってましたね。なんなんですか?」


「違法なクラスってのはクラスを剥奪されて、しめだされた、犯罪者などがつくクラスだよ。おおくは犯罪者の組織などが独自に開発してるんだ」


 そんな組織があるのか。


「公式で認可されてる団体ほどに、経済力もなかったりして、開発力がなくて大抵は弱いんだけど。


 法に触れる技などを使ってきたりするから、できれば関わりたくないものだよね。

 因みに冒険者協会では、クラスチェンジ枠として一切扱ってないよ」


 おじさんは腕をくみ、人差し指で腕をたたきながらいう。


「どんな技があるんですか?」


 そういう連中に出くわすことも、あるかもしれない。


 それに、違法な技というものに興味もある。


「色々あるけど、最大の特徴はLPに直接ダメージをあたえるものだね」


「そんな技があるんですか?」


「そう考えるのも無理からぬことだよね。なぜならモンスターにLPダメージの技は必要ないからね。つまり、『対人を考慮した技』ということになる。これを使えるやつは、ほぼ間違いなく違法なクラスだと思うよ」


「ほぼ、といういい方なのは?」


「対人用ってことは町の警備隊とか。冒険者協会の助っ人とか。そういう、なんらかの事情で対人を想定している、特殊なクラスに就いている人。たぶん、そういう人は持ってるんじゃないかな?」


「それがレアクラスですか?」


 やっとレアクラスの話が聞けた。


 俺の商人がレアクラスらしいし、ちょっと気になってたんだよな。


「そうだね、そういう特殊な立場で必要なものも、レアクラスの一つだと思うよ。レアクラスは非常に弾かれやすいクラスなんだよ。どれくらい弾かれやすいとかって、明確な基準はなくて、まあ俗称だよね。レアクラスは大手に多いんだけど、一説によると実験だとか」


「実験?」


「そう、大手はクレームが怖いって言ったよね。いわゆる試作段階で新型を投入して、使用者の反応をみようってことだよ。もちろん、一定のクオリティは保たれてるだろうし、使用者の反応を見たいってことは、普通のクラスにはない特殊なスキルがあると思うよ。


 ステータスの性格などの項目も、クレームしないタイプの人が選ばれてるんじゃないかな? 君って泣き寝いりとかしちゃうタイプかい?」


 ふいをうたれて、言葉につまった。


 おじさんは小声でつづける。


「君のクラスである商人は、レアクラスみたいだしね」


「どうしてレアだって分かったんですか?」


 俺は当然の疑問をぶつける。


「店にある魔具で、クラスの承認率がわかるんだよ。冒険者がクラスチェンジするときに、多少お金がかかるんだけど、その時に冒険者が知ることができる承認率と同じだね。


 クラス配給団体は冒険者がやみくもに申請して、ひんぱんにクラスチェンジをしてほしくない。

 それを防止するためにお金を取っているんだ。


 性格や感情のステータスをチェックをして、承認の判断をくだすのにも、手間も費用もかかるしね。


 しかし、冒険者側からしてみれば、承認されなかったばあい、お金だけ取られる。

 ならせめて、どれくらいの人が、承認されてるのか知りたいよね。


 レアクラスみたいに承認率がひくいなら、駄目もとで申請してみようってことになる。

 君は承認率をチェックしないで、申請したのかな?」


「自分の場合、友達にすすめられてですね。知らなかったです」


 アイドルの、オーディションみたいなことを言ってしまった。


 最初に適正クラスになってるってのは、特殊転生をした人だけのケースかもしれないからだ。


 セレクターであることは隠したい。


 なので、嘘はしかたないとおもった。


「承認率以外でも武器店でよく使用されている魔具では、地域にどのくらいの冒険者がいるか、メイン、サブのクラスがどのくらいの人数でいるか、そういう色々なデータがみれる。


 それを使って入荷数の調整をしたりして、商売に役立てることができるんだ。


 店がクラスに対して売れる武器、冒険者が買える武器が決まってるってのは、需要の予想がしやすいって点ではたすかるね。


 武器を製作する業者も、商品を無駄に作りすぎてしまうってことが少なくなるしね。


 君は運が良いよ。


 レアクラスを主に扱ってる武器店は、毎月一日にしか開かない場合が多いんだ。

 人数の関係で、あまり需要がないからね」


「だから今日は、こんなに人が多いんですね」


 合点がいった。


「それだけじゃないんだけどね。

 そこのお嬢さんは大手のクラスだからこの武器堂で買っていって、君はレアクラスだから、レアクラスの区画にある店で買っていくと良いよ。


 この武器堂の外だけど、そこまで遠いところじゃないし」


 テッシちゃんのクラスは大手配給だったのか。


「色々教えてくれて、ありがとうございます」


「今後、この店で必要な装備があったら、よろしくね」


 おじさんは会釈をする。


 俺は会釈をかえすと、フェリリをつついて起こした。


 起きたフェリリは、テッシの肩をゆすぶって起こす。


「待たせて悪かったね。今後パーティに必要な情報かもしれなかったし、でも武器のこともわかったよ。テッシちゃんの装備はこのへんだってよ」


「すいません。眠くなってしまったデス」


 テッシちゃんは、右目をこすりながらいう。


 テッシちゃんが長イスから立ちあがると、俺たちはふたたび、装備を探しに歩きだした。

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