第21話
フェリリが暴れるので、結局、きょうは町で買い物することとなった。
八月一日、三陽の十二時半。
町の市街地、いきかう人々の雑踏は、俺たちをおし流そうとしていた。
ふらつくテッシが通行人におされて、目をぎゅっとつむって、後ろから俺に密着してくる。
緊張するからそういうのやめてくれ、俺はどぎまぎしながら願う。
「大型武器堂はどっちだ?」
俺はまわりを見まわしながら、声をだすが。
周りは、人であふれてよく見えない。
「武器堂はこっちナノ、こっちこっち」
声のする方向にふりむく。
「こっちーこっちーナノ」
いた、フェリリは人の頭上の一メートルちょっとくらいの位置で、声をはりあげている。
「今いくから、ちょっとまってろー」
「はーいナノ」
フェリリは両手を口の左右両側にそえ。
両足をひらき前にあげて。
くの字の体勢でさけぶ。
「ヤキソバさんへるぷー」
ゲッ。テッシが人ごみに流されてる。
俺は通行人に謝罪しながら、半身で人をかきわける。
「テッシさん。おーい」
――数十分後。
大型武器堂の一階に、据え付けられたイスにすわっていた。
「テッシちゃんいい動きするんだから、無理矢理に通れたんじゃないか?」
ばかぢからで――。とはなんとなく言いにくかったので、ひかえめな表現でいった。
「人の頭とかを踏みつけていくのは失礼かとおもったデス」
たしかに礼を欠きすぎている。
しかし、テッシちゃんはこうやって喋っていても、ふらふらと落ちつかないな。
「テッシちゃんって、さ」
「なんですかー?」
「結構ふらふらしてる時あるよね? 低血圧とかなの?」
「あー、これですか――そうですね、一日の間で何回か数時間くらい――」
へー、けっこう何回も――。
「わりと意識がはっきりしてる時間があるんデス」
意識がはっきりしてる時間のが、短いのかよ!
「そろそろ武器を見にいこうナノ」
フェリリさん飛んでるからか、ぜんぜん疲れてねえな。
俺たちは大型武器堂のなかに群雄割拠する、武器店のなかのひとつの店をのぞいた。
「これかっけーな、BP+五〇〇だってよ。つえーな。しかも鎧装備のモンスターにBP+五〇〇だってよ。フェリリ、BP上がってるか?」
「上がってるナノ」
「君たち、武器店に来るの初めてかい?」
みせの髪の毛のうすい中年のおじさんが、はなしかけてくる。
「はい、そうデス」
「そうか、冒険者証をみせてくれるかい?」
「いいっすよ、この剣をかっちゃおうかなー」
俺は冒険者証をみせる。
「ちょっと調べるからね」
おじさんは何やら魔器でチェックしている。
「すまないねぇ」
おじさんはにこやかにいう。
ん?
「君のクラスだと、この剣は装備できないみたいだよ」
「装備できないって言っても、BP上がってるじゃないですか」
どういうことなんだ?
「装備っていうのはね、クラス配給団体の指定、つまり許可がないと売れないんだよ」
おじさんは、申し訳なさそうに頭をさげ、頭頂部をさわりながらいう。
「それはなぜですか?」
「失敗する可能性があるからだよ、技がね」
「技が失敗する?」
「なーに難しい話じゃない。
武器によって射程が違うだろう?
一メートル五〇センチの武器を想定して設定されている技の発動。
それを、一メートルの武器を装備しておこなったら、どうなるかなんて目に見えているだろう?
敵は射程内で技の発動はするが当たらない、ということになる」
「それはそうですけど……」
「それに意外とどんな部分で失敗するか、分からないもんだよ?
技のモーションは、毎回ほぼ同じに設定されてるしね。
鍔が大きくてひっかかる。
剣がおもったより湾曲してる。
ふりかぶったら装備などにあたる。
技の威力や性能で劣化が酷い。
剣が片刃でみね打ちになって、技によっては効果が出なかった。
なんてのもあるそうだよ。
この制度はそういうことで起きるクレームから、身を守るためでもあるんだ。」
おじさんは悲しげにいう。
「でもそれは購入に失敗した冒険者のせいであって。武器のせいなんて、ひどい話じゃないですか?」
「たぶん君は少し勘違いをしているよ。クレームが来るのは、うちのような武器店じゃない。クラス配給団体の方だよ」
おじさんは、口に握りこぶしをあてて、咳ばらいをしていう。
「クラス配給団体の方にクレームが?」
「考えてみてごらん。技を散々失敗してパーティの足を引っぱっている、お荷物冒険者がいる。その冒険者に対して武器が悪いなんて、理解ある見方をしてくれるかな?」
そういうものかもしれない。
学校のテストで点数の悪い生徒がいたとして、この生徒は風邪をひいていたのだろうとか。
腹痛だったのかもしれないとか。
解答欄を、ずらして書いてしまったのかなとか。
真っ先にそういう前提で、考える人は少ないだろうな。
「冒険者が今回は武器が悪かったなんていっても、たいていの場合はいいわけにしか聞こえないだろう。結局その冒険者が悪いもしくはそう――、クラスが悪いということになる」
「悲しいことですね」
「人っていうのは、悪ものを作りたい生き物なのかもね。
でも足をひっぱられた冒険者だって、大変な目にあったんだ。
だから文句の一つもいいたくなるのは、自然な感情なのかもしれない。
そして、クレームが発生するわけだが。
クラス配給団体というものは、クレームというものを、ものすごく怖がるものなんだよ」
「クレームが嫌なのは分かりますけど、装備を固定させてしまうほどなんですか?」
横をいちべつすると、テッシが長イスでフェリリを抱きしめたまま、こくりこくりと、こうべをたれている。眠いのかな。
パーティでの初日の初買い物なのに退屈させてすまん……。
おじさんは尚も話す。
「クレームが来て評判が下がると、クラス志望者が減るからね。
クラス志望者が減るということは、クラス配給会社の魔源徴収量もへり。
配給団体の母体を維持できなくなる。死活問題になるんだよね」
「生活基盤が崩れる……、それは一大事ですね」
「それにクレームをしてくるだけ良いかもしれないよ?」
「どういうことですか?」
「謝罪したりお詫びの品をおくったりして、対応すればそれなりに、納得してもらえるかもしれないからね。
それよりも、直接的に文句をいわない冒険者のが、ある意味怖いものなのかもしれないよ。
口には出さないけれど、とうぜん内心はよくはおもってないだろう。
そして、ちょっとした半プライベートの集いの場でいうんだ、あのクラスを使ったらこんなことがあった、と。
すると、そのクラスの評判は、少しずつ悪くなっていく。
冒険者がリーダー的な立場になくても、意見の一つとして提案することもあるだろう。
そして、その冒険者には、明確な悪意も悪気もない。
自分が酷い目にあったとすらいわないだろう。
ただ、迷惑かけられたことは伏せつつも、そのクラスより別の違うクラスに一票を投じる。
冒険は元来危険なものだ。
誰だって危険はできるだけ避けたい。
あるいは、それらの行為は冒険者という名前から、かけ離れた志、なのかもしれない。
しかし、誰もそれはせめられない。
それは場合によっては、この問題とは関係ない、単に安定性のないクラスなだけなのかもしれない。
いずれにしろクラスの人気は低下する。
人気の低下したクラスは、パーティには段々呼ばれなくなっていき、王道からは外れ、亜流となっていく。
定評は失われ、いつしか日陰者的なクラスになっていく。
そんなクラスには、新規冒険者もならないだろう。
パーティにあまり呼ばれないクラス、そんなリスキーなクラスを選ぼうはずがない。
古参冒険者がサブクラスとして選ぶだろうか?
いやいや、冒険者同士の事情を知ってる古参冒険者。
なおのこと、そんなクラスは選ぼうはずがない。
あまり問われないサブであろうとも、躊躇されるであろう」
おじさんは顔に影をつくり、暗い顔でいう。
「そしてクラス配給団体は考えた。どうすればこの問題を解決できるかを。そして、この問題をあるていど、解決する方法を導きだした」
おじさんは、握りこぶしを作っている。
「そんな方法があるんですか?」
さっぱり分からない。
「その過程の副産物として生まれたのが、レアクラスとかって、言われてるものなんだよ」
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