第17話

 今日は七月三日。


 今日も、郊外にて講習を受けにきていた。


 そろそろ、テッシちゃんを、パーティに誘わないとヤバい気がする……


 講習が終わってから、パーティに誘うとなると。


 もうテッシちゃんは、パーティを組んでいて断られる。


 そういうことも、あるかもしれない。


 講習中はLVが、どこまで上がるか分からないので、講習が終わって――それからどこかのパーティに入るか決める……そう考えている可能性が高いと思っていた。しかし、この時期になると。LVがどの辺まで上がるだろうとか、ある程度は、予測できるのかもしれないし――先約がつく可能性がある――なので、今日あたりに誘いたいと思った。


 俺の三メートル左で、テッシちゃんが座りながら、両手の指を組んでいる。


 やがて、ふりかぶり――天に手のひらをむけて、力いっぱい背のびをしている――


 テッシちゃんをどうにか仲間に加えたい。


 俺がいうのも何だが、この子はどこか頼りないというか……悪い人に、騙されやすそうにみえる。


 それに、妹と合流したときに、一香ちゃんもいた方が、妹もさびしくないだろうしな……


「今日は昨日の続きです。なで切りの、別の使いかた――説明なんですけれど。その前に、説明しておきたい話があります」ララさんがいう。


「……なんですか?」


「回復には大きく分けて、『二種類の回復魔法』があるんです……『パワーヒール』と『ダウンヒール』です」


「どういう違いがあるデスか?」


 テッシが、よく分からないといった表情できく――ララさんは続ける。


「実は、回復魔法の回復量はダメージと同様に、『相手のBPの影響をうける』んです――つまり、『回復相手のBPが高ければ、回復力はさがり』、『回復相手のBPが低ければ、回復力はあがり』ます……さてここで問題です。『仲間のHPをたくさん回復させたいとき』に、どうしたら、たくさん回復すると思いますか?」


「自分のBPを上げて、仲間に回復魔法を使うデスか?」


「そうですね、それが一つの方法になります」ララさんがうなずく。


「そして、もう一つが仲間のBPを下げてから、回復魔法を使用する方法ですね」


 しかし、仲間のBPを下げていいのだろうか……?


「……そうですね、その二つになります」ララさんが、重苦しくいう。


「どっちのが強いんデスか?」


「どっちの方が強いということは、ないんですが――基本的に『パワーヒールのが便利』です。理由としては、一つ目のパターン――仲間と敵が戦っていて、その仲間のHPが低いとき――この場合に、『ダウンヒール』を仲間につかうと、回復しても、BPが下がったせいで、攻撃が弾かれるなどして、状況が悪化したり――せっかく、回復した分の仲間のHPが、その仲間のBPが下がったせいで、余計にダメージをうけて、回復した意味が、なくなってしまう――『パワーヒール』の場合には、この欠点はありません。二つ目のパターン――仲間のHPが低いのだけれども、自分が敵に狙われている――このときにパワーヒールなら、自身のBPを上げてダメージを軽減しつつ、仲間のHPを回復できます」


 リリさんがいう。


「そして、三つ目のパターン――仲間のHPを回復しつつ、自分のBPを強化して――攻撃をしかけることが、パワーヒールは可能なことですか?」


俺は横目で、テッシを視界のはしに捉えながら、ララさんにいった。


「それは回復するときのメリットとは、少し違いますね」


「あ、そうですか」


「でも、そういうメリットはありますね」


 ララさんは微笑む。


「どちらの回復タイプのクラスにしろ。万能な回復クラスは、ないとおもいます。とどのつまり、何かはおいていってしまう、そういうものです」


 リリさんは、笑顔でいう。


「でも、いまの話は、なで切りのヒントになってますね」ララさんがいう。


「なで切りの『BP+二〇〇 相手のBPマイナス二〇〇』と『BP+四〇〇』の技の違いって、分かりますか……?」


 リリさんは問う。


「例えば――『自分がBP一〇〇〇』で『相手がBP一〇〇〇』のとき――『BP+四〇〇』の技を使用すると、『自分がBP一四〇〇』対『相手がBP一〇〇〇』で、一・四倍。『BP+二〇〇 相手のBPマイナス二〇〇』の技を使用すると、『自分がBP一二〇〇』対『相手がBP八〇〇』で、一・五倍――つまり、割合の違いで、『なで切り』の方が、相手の攻撃を、はじきやすくなるってことですか……?」


 俺は、首をかしげながら答える。


「そうですね。そういう考え方もあります」「でも。もっと違う意味があるんです」


「違う意味デスか……?」


「『BP+二〇〇 相手のBPマイナス二〇〇』の前の部分。『BP+二〇〇』は『基本効果』と言います」


 ララさんはいう。


「そして――『相手のBPマイナス二〇〇』は『追加効果』と言います」「この追加効果は、連携中にずっと有効なんです」


「そこで、このモンスターです……!」


 ララさんが顔を向けると、モンスターが歩いている。


「リザー刀 LV七 HP一二〇〇 BP八〇〇 SP三〇〇 MP二〇〇 爬虫類。二足歩行の変温モンスターで、寒さに弱い。刀のコレクションが好きで、通行人を試し斬りしたりする。危険なモンスターだ。攻撃されると、持っている刀で邀撃ようげきしてくる。『居合い抜き』は強力なので注意――だってナノ」


「こいつを倒せば、良いんデスね?」


 テッシは、歩いているリザー刀に向かっていく。


 グエグエッっと、おどろくリザー刀。


「振り下ろしっ」


「テッシ LV五 HP一〇〇〇 BP四七〇 SP四七五 MP五五〇 『ふり下ろし』はBP+五〇〇なの」


 テッシが、金属棒をふり下ろすと――刀を抜いたリザー刀が、金属棒に合わせるようにうける――雷光が周りに飛びちる――。


「この、バチバチ状態を『鍔ぜり合い状態』といいます」


「……鍔ぜり合い状態ですか……?」


「はい。この状態が終了すると、通常では『お互いにダメージをうけます』」


 ララさんは、光を浴び、片目を閉じていう。


「リザー刀に一八五ダメージ! テッシちゃんに一〇〇ダメージなの!」


「鍔ぜり合い状態だと、お互い、『移動も攻撃もできません』が、無防備という訳でもありません」


「部外者が相手を攻撃しても、『ダメージを与えられない』んです」


 二人はいう。


「じゃあ、何もできないんですか?」


「それができるんです――」「ここで『なで切り』ですね」


 はじけ飛んで後ずさりし、距離をおいたテッシが。


 もういちど、リザー刀へ向かっていく。


「ふり下ろしデスっ」


 刀を合わせるリザー刀。


 俺を見て――うなずく、ララさんとリリさん。


 雷光が飛び散る。そこへかけよる俺。


「……なで切りを使えばいいんですね……? なで切り!」


 鍔ぜり合い状態で止まっている敵に、なで切りをあてる――雷光がはじけ飛び――よろめくリザー刀。


「リザー刀に、二四九ダメージなの!」


「これが、もう一つの使い方――鍔ぜり合いのとき、技の追加効果で、加勢することができるの――なで切りの追加効果で、リザー刀のBPが二〇〇減ったわ」ララさんがいう。


「追加効果で、テッシさんとリザー刀のBP差が、一・三倍以上になります。そうなると、はじきが発生し――リザー刀だけが、ダメージをうけ――さらに、BPの差が増えたので、与えるダメージも増えてるわけね」リリさんがいう。


 ララさんとリリさんは、これを説明するために、


 丁度いいBPのモンスターを、選んだのだろうか。


 なるほど。


 BPがたくさん上がる技。


 それと、追加効果のある技。


 両方を持ってると、便利なのか――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る