第15話

 俺が転生したのが四月一日。


 異世界語の習得に丸三ヶ月。


 講習の二日目だから、今日が七月二日だ。


 異世界の一年も、十二ヶ月なんだが。


 こっちの一日は、前の世界の丸六日分とほぼ等しいから、少し感覚が違うな。


 まだ慣れていない感覚を、異世界に合わせるように再確認する。


 今日を含めて、あと四日以内に、テッシちゃんを仲間に誘わないとな……


 俺はまた講習のために、ボイコット町の郊外に来ている。


 昨日の場所で、集合することになっていた。


 しばらくすると、テッシちゃんがふらつきながらやってきて、俺の近くの岩にちょこんとすわる。


 数分後、やがて講師の二人もやってきた。


「今日は、少し発展した戦い方をしますね」「頑張ってくださいね」


 ララリリさんたちと俺たちは、パーティを組む。


 そして、俺、テッシ、フェリリの三人を、少しはなれた森へ連れていった。


「このへんですね」


 まだ、それほど森の深くではない場所。


 ララさんは周りをみわたす。


 そして、手のひらを俺たちにむけ、静止をうながす。


 まわりには樹木が林立している。


 樹木の太さは、俺が両腕をまわしたら手がつくくらい。


 しかし、高さは十メートルもあろうかというほどだ。


 樹木は手でおすと簡単にきしみ、根元がかたむき、木の葉がふってくる。


 根っこがゆるく、幹自体も柔らかいようだ。


「きました」


 リリさんがいう。樹木のうしろ。


 一匹のモンスターが、四足でこちらへあゆみよる。


 モンスターは硬そうな甲羅を頭、背、手足の背面にゆうしていた。


「ヤジマジロ LV六 HP一三七〇 BP六二〇 SP二八〇


 冒険者がテリトリーに侵入すると、好奇心から近寄ってくる。


 冒険者がそれと戦うと、まわりから、大量の同種が湧き、取りかこむ。


 輪から出ようとしても、周囲の仲間が逃がさないために、攻撃してくる。


 輪の中央にもどると、周囲の仲間は攻撃をやめる。


 戦いがはじまると、凶暴で好戦的になり突進してくる。


 『ヤジマジガード』や『スカイダイブ』など、攻撃方法も意外と多彩。だってナノ」



 フェリリが巻物と魔卓であいての情報を確認する。


 しかし、意外とってなんだよ。


 図鑑かなにかの情報だろうに、誰目線の意外となんだよ。


「取りかこむ?」


 俺は周囲をみまわす。


 すると、いつのまにか、二十以上のヤジマジロが、周囲を取りかこんでいた。


 講師の二人は、こうなることを分かっていて来たんだから。


 大丈夫かなとおもい、俺はさしてあわてなかった。


「どうしましょうデス」


 しかし、あわてるテッシ。


 彼女はフェリリを後ろからつかみ、揉みほぐしている。


 くすぐったいとフェリリが笑い暴れるが、ほうっておくこととした。


 テッシちゃんがフェリリを気にいれば、パーティに誘いやすくなるだろうという打算だ。


「とりあえず。俺がいきます」


 俺が言うと、ララさんはうなずく。


「ヤキソバ LV五 HP一一五〇 BP五六〇 SP四〇〇 MP三二五 ナノ」


 俺は最初に姿を現したヤジマジロに向かい。


 駆けていくと、剣で切りかかった。


 しかし、ヤジマジロは丸くなる。


 剣からは、光とともに鈍い音がひびく。


「ヤジマジロの『ヤジマジガード』。BPプラス四〇〇 ヤキソバの攻撃は弾かれたナノ」


「BPプラス四〇〇? こっちはダメージ食らわないのか?」


「相手がガードスキルを使用した場合。こちらはダメージをうけません」


 リリさんがいう。なるほど。


 俺はふたたび構え、敵へむかっていく――敵の間近、正面へふみこむと――叫んだ――「なで切り!」ヤジマジロは、丸くなりガードする――が、今度は音がひびき、手ごたえもあった――「BPプラス二〇〇 相手のBPマイナス二〇〇 相手に一〇三ダメージなの」フェリリの声と、同時にリリさんの声が聞こえた――「テッシさん! 今です!」「えいデスっ!」――痛烈な音がした――いつの間にか近くにいた、テッシの攻撃は、ヤジマジロの頭を殴打していた――よろけるヤジマジロ――


「テッシ LV四 HP八二〇 BP三八〇 SP三八〇 MP四四〇 で今の攻撃は 四二ダメージ なの」


「今の攻撃。敵のすきをついて、うまく当てたんですね」


「……いえ、今の攻撃をヤジマジロは『ヤジマジガード』で防御できないの」


「……そうなんですか……?」


「今の攻撃は、あなたとテッシさんの連携攻撃なの。連携中に相手は『おなじ技で迎えうつことができない』の、たとえ四人が十秒もの時間をかけ――連携攻撃を行っていたとしても、『その十秒のあいだに相手は一度しか、同じ技では対応することができない』わ」


「……何でそんなことに……」


 俺は不思議だった。


「一説によると、技などを使ったときに『周囲の空間の魔源の親和性がみだれて反発するから』などと言われてるけれど、詳しいことは不明なの……」


 ――正直よくわからないな……


「それより、あなたのなで切りだけど、あれって『BPプラス四〇〇の効果の技』とあまり変わらないような気がしない?」「あのタイプの技には、別の使い方があるの。今度はそれを教えるわ」


「……別の使い方?」


 俺は、不思議そうにたずねる。


「あとで説明します……取りあえず、ヤジマジロを倒してしまいましょう」


「分かりました」


 俺は敵に向かって行こうとする――が、それより早く相手は丸くなり――こっちへ向かって転がってきた――「突進、BP+二〇〇なの!」「なで切り!!」敵の回転する甲羅と、自分の剣がまじわる――雷光がほとばしり――ヤジマジロは回転しながら、中空へとどまっている――「ヤキソバは七〇ダメージ。ヤジマジロは一五〇ダメージを受けたナノ」――雷光がはじけても、ヤジマジロは回転をやめず、回転しながら尻尾を飛びださせた「ヤジマジロのテールアタックBP+一〇〇なの!」俺はさけようとした――が、なぜか足が動かない――「くそっ、なで切り!」――しかし、なで切りが発動しない――俺は顔に敵の攻撃をうける――やがて足が動くようになる――俺はヤジマジロの進行方向とは垂直に、逃れるように右へとんだ。


「ヤキソバはテールアタックで、七九ダメージなの」


 回転し。宙空へとどまっていたヤジマジロが地につく。

 すると、取りもどすかのように勢いをまし。

 ピンポン玉のごとく、樹間をはね飛ぶ。


「今のは『一撃目は突進』『二撃目はテールアタック』の連携攻撃よ」


 リリさんがいう。


「だから、『二回目のなで切りが、発動しなかった』んですね……まだ連携中だったから……それにしても、一人で連携って、言葉としておかしくないですか?」


 俺はヤジマジロの攻撃をさけつつ。たずねる。


「もともと複数人でやってたことなんです。後から、一人でもできる方法が発見されたから、慣習上そう呼ぶことになっているの」


 ララさんは両手を口の左右にそえて、すこし遠くから、叫ぶようにいう。


 それにしても、敵がポンポンと移動して、

それを目で追っていると目がまわるな。


「ヤキソバさん後ろデス!」


 しまったとおもい、後ろを振りかえる――しかしヤジマジロはいない――「うえ! 上にいるナノ」――視点を上げると、ヤジマジロは上にいた。


 ヤジマジロは恐らく、奴の背後の、かたむいている樹木にぶつかり――ななめに倒し、かけ上がり――そのしなりを利用して、空中に飛んだのだろう。


 今、そのヤジマジロは、体を横に反転させ――こちらに向きなおり――同時に丸まった体を、開きそのまま、ものすごい勢いでむかってくる――「ヤジマジロのスカイダイブ、BP+八〇〇なの……!」「は、はっぴゃく……?」――迎撃するより、さけるべきか……? 俺は左にかわす――だが、ヤジマジロは空中で旋回し――俺を追尾する――技を使うにも、もう遅く――攻撃をまともにうけ、鈍痛とともに俺は吹きとばされ――樹木に叩きつけられる。


「ヤキソバに五九〇ダメージなの!!」

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