第14話

「まず敵に攻撃してしてみましょう。テッシさんからどうぞ」


 ララさんが言うと、テッシは武器らしき棒をもって構えた。


 棒の全体の長さは、足から胸くらい。


 棒の先端から、俺の肘から先くらいの長さに渡って、六角柱の金属がはめこまれている。


「テッシ  LV一 HP二八〇 BP一一〇 SP九五 MP一一〇

 ダサねずみ LV二 HP五〇〇 BP三〇〇 なの、以下略なの」


 フェリリが、電卓のようなものをみながら、スラスラという。


「それは魔卓ですね。ステータスをみたりすることのできる魔具です。でも、パーティメンバーだからといって、勝手にみてはいけませんよ……ちゃんと許可をとりましょうね」


 リリさんがそういうと、フェリリは「わかったなの」といい――テッシの所へいき――何かを話して帰ってきた。


「許可をとってきたナノ!」フェリリは羽をバタつかせて、得意顔でいった。


「おねえさんたちのステータスも、見ていい……ナノ?」


「ダメです」「ダメです」


 フェリリは残念そうに肩をおとす……


 やはり、ステータスを見られるのは、恥ずかしいことなのだろうか……?


「じゃあ攻撃しますデスよ~」


 テッシちゃんはそういうと、ダサねずみへめがけ、棒をフルスイングでおもいきり叩いた。


 ダサねずみは風を起こしてふっとび――自身の体躯よりも、ひとまわり大きな岩に激突する。


「六ダメージなの!」


 フェリリは、爽快な声でいった。


「六? あれって六なのか……?」


 どうみても、六以上のダメージをあたえてるような気がする……


 俺の疑問をさておいて、テッシはなおも殴りつづける……


「六、六、六、六、六、六、六、六、六、六なの!」


 あたらしい責め苦かよ……みてられねえ……


 俺は薄目で視線をそらす――


「……驚いたな……」


「……テッシちゃんに、あんなサディズムが眠っていたとはナノ……ね」


「別に、好きでやってるのではないと想うが……そう、いぶかってしまうな……」


 俺とフェリリは、冷や汗をたらしながら眺める……


 俺が驚いていたのは、テッシちゃんの馬鹿力の方なのだがな……


「いいナノ……?」


「えっ」


「このままじゃあのダサねずみ……マゾヒズムに目覚めてしまうナノよ……?」


 お前はそっちの方向で、話をひろげるのか……


「わかった行ってくる。テッシちゃんひとりに戦わせておけないしな」


 俺は講師のふたりに許可をとると、戦いの場へおもむいた。


 3


「……とりあえず、二人でダサねずみを殴るか……」


「ヤキソバLV二 HP五二〇 BP二三〇 SP一六〇 MP百三〇 なの」


 フェリリがステータスをつげる――俺はそれを聞き入れると、敵へ駆けていく――俺は剣を抜きはらうと腰をおとして、横手からダサねずみの足を突いた――これならリーチからいって、相手の攻撃と自分の攻撃が、ぶつかる心配もないからな。


「二三ダメージなの!」


 ダメージがふえてるな。レベルが上がったからか。


 よし。


 技のダメージも見てみるか。


「十文字切り!」


 ――だが何も起こらなかった。


 俺は数秒間、同じポーズのまま固まっていた。


 テッシがチラリとこちらを眺め。

 小首をかしげ、不思議そうな顔をしたが。

 敵へ向きなおり、再攻撃をはじめる。


 ……くそっ。


 技覚醒って新しく技をおぼえて、ずっと使えるわけじゃねえのか……恥かいたぜ。


 テッシは攻撃をつづける。


 しばらくすると。


 こうげきするテッシの武器と、敵の攻撃がぶつかり……雷光がほとばしる。


 テッシの攻撃ははじかれ……彼女は尻もちをつき、足裏を敵へむける。


「テッシに、一一五ダメージなのナノ!」


「……これって、テッシちゃんだけが、ダメージをうけるんですか?」


 俺は疑問をぶつける。


「敵と自分の攻撃がぶつかった場合。敵が自分のおよそ一・三倍以上BPがあると、自分の攻撃がはじかれて、自分だけがダメージをうけます」


 リリさんがいう。


 力とか関係なく、吹っ飛ばされるのか。


「ダメージは大丈夫です、わたしが回復します」


 敵から距離をとるテッシ。


 ララさんはテッシに向かって、魔法らしきものを放る――しかし、進行方向にはテッシに対するダサねずみ――うかつにも、敵に回復を使用してしまったと思うやいなや――光の塊は敵の体にはじかれ――蛇行しながら、光の帯をたなびかせる――そして、吸いこまれるようにテッシの元へいき、輝きとともにテッシを回復させた。


「……これがパーティの利点の一つ。攻撃を敵にしか効かないようにしたり、回復を味方にしか効かないようにしたりできます」


 ララさんは杖を、テッシへ向けたままいう。


 なるほど……敵に妨害されても大丈夫なんだな。


 俺は立ち上がり――交戦をつづけるテッシに加勢し攻撃する。


 俺が三度目に攻撃したあと、右手がひかった。


「――よし、十文字切り!」


 ダサねずみにヒットする


「BP七三〇 ダメージ二四五 二九〇 なの」


 ダサねずみはゆっくりとたおれていく。


 そのつぶらな瞳は『ありがとう』そういってるようにもみえた――


 ……たぶん気のせいだが。


 セレクターなのがバレるから、できれば、技覚醒はあまり使いたくはないな。


 それとも、このお姉さんたちは、把握しているのだろうか……?


 ダサねずみから黒いほこりが放出される。


 それは上空の一ヶ所にあつまると、やがて分かれてパーティの四人へ分配された。


 ふたりともレベルはまだ上がらないか、経験値が四等分だからな。


「どんどん倒していきましょう」


 リリさんはいう。


 しばらくの間、俺とテッシはダサねずみを、どんどん倒していった――


「ヤキソバはLV五に上がり、『なで切り』をおぼえたナノ。BPプラス二〇〇、相手のBPマイナス二〇〇だってさ」


 テッシはLV四になったのか。


 しかし、俺の覚えたこの、『なで切り』って強いんだろうか。


「二人とも、LVが上がるのがはやいですね」


「今日は終わりですね。明日はべつの敵と戦い、あたらしい戦いかたを学びましょう」


 ララさんはそういって、帰りの支度を始めた。


 しかし、俺はその言葉をよそに、この講義がすべて終了する五日後までに、どうやって違和感なくテッシちゃんをパーティにさそうか……それと、妹をどうやって探すかを心配していた……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る