第11話
今日は冒険者デビューの日。
記念すべき今日のために、異世界人の誰とも話していない。
「そろそろ行くよー」
「お、おう……」
すがすがしい風と朝のあたらしい光をあびて。俺は宿をでると背のびをした――フェリリには感謝してもしきれねーな。つきっきりで語学をサポートしてくれて。
「ごめん……探し人は見つからなかったナノ……」
「――きにすんな。ダメ元だったからな」
これから新しい冒険がはじまるんだ。
ふたりはこれから地道に探せばいい。俺たちはフレッシュな気分で、冒険者協会支部のまえへきた。
――そして、フレッシュな気分でとびらを開けた――
――しかし、そこにはフレッシュな気分など、みじんも感じない人々が待っていた――競い合うように、床の木目をひたすら数える二人の男――泥のように床で寝ている女――イスの背もたれによりかかり、両手をだらりとさげて、口を半開きで斜め上の中空をみつめる少女――騒ぎながら、カードを投げつけあう人たち――壁にひたすら正拳突きをする巨漢――あぐらで泣きながら、ひたすらお経を唱える老人――なんだよこれ……
なんだか、やる気がないヤツがおおいな……いや、やる気のある人もいるけれど、冒険者としてやる気あるかはあやしい……
「――こっちなの」
うながされるまま、俺はカウンターの前へきた。
「どんなご用件ですか?」
ショートカットのお姉さんだ。
どことなく三つ編みのおねえさんに似ている――っていうか本人じゃね?
「……冒険者登録したいナノ。それから戦う仲間をさがしに――」
「――分かりました」
「久しぶりですね」俺はカマをかけてみた。
「あ、分かりましたか?」お姉さんは答える。
「こっちが本業ですか?」
「わたしがそういう仕事していることも、あなたがセレクターであることも秘密です。なので、ここでは初めて会ったことに、しておいてくださいね」
こそこそと喋る。
こういう秘密って良いもんだな、なんとなく。
――セレクターって、セレクトスキルやアイテムをもらった人のことだろうか……?
「冒険者登録できましたよ。これ冒険者証です」
「ありがとうナノ」
「ここにクラスチェンジってあるんですけど……俺もクラスに就けるんですか……?」
「セレクターは最初からステータスから算出された、適正クラスについてますけれど、好きなクラスになれますよ」
お姉さんはセレクターであることが、バレないように小声で言った。
最初から適正クラスになってる?
俺の今のクラスってなんだ?
「……すいません……俺の今のクラスってなんですか……?」
「……えっと、商人になってます」
「しょ、商人……? 俺って今まで商人だったんすか……?」
「そうなっていますね。レアクラスですよ、やりましたね!」――お姉さんは平然という。
「レアクラスっても商人じゃないですか。戦闘むきじゃないですよ」
「そうなんですか?」
「いや、分からないっすけど……クラスに就くとどうなるんですか?」
「クラスについて経験値をかせぐと、レベルが上がります」
ふむふむ。
「レベルが上がるとステータスが上がるほか。スキルをおぼえることができます」
俺は一言も聞きもらすまいと、耳をかたける。
「スキルにはさまざまなものがあり。技スキル、マジックスキル、パッシブスキル、特殊スキルなどの種類があります」
なるほどなるほど。
「さらにレベルが百まで上がると、マスタースキルというものがもらえます。いわゆる、その職業の目玉ですね」
「『もらえる』ってどういうことですか……?」
「……クラスっていうのは、組合が提示してるものなんです」
お姉さんは、五本の両手指の腹を合わせて、笑顔でいう。
「たとえば、このソードファイターというクラス――『ソード協会』というところがつくったもので、協会はソードファイターになったプレイヤーから経験値――別名『魔源』の一部を徴収しています。つまり、プレイヤーが敵をたおすと、『魔源』という名の経験値が手に入るんですけど――大部分を自身のステータス強化につかい――のこりを協会側にわたすことになるんです」
「そうなんですか……でも、俺は前回の戦闘で手に入れた魔源を、すべて使ってしまったと思います……」
「大丈夫ですよ。てにいれた経験値は『自動的にプレイヤーの体内へ、一時的に保管』され――町の入り口やここ冒険者協会などにある、特殊な器具のおかれたポイントに来たときに、体内から放出され――自動的に支払われます――協会はその徴収した経験値『魔源』で技の開発や生計をたてています――クラスに就くことで、そういう徴収をされる契約と魔法をかけられているんです」
「……そうなんですか。レベルは百が最高ですか……?」
「……いえ、百以上に上がりますが、マスタースキルは最後のスキルなので、たいていの人はクラスをかえちゃいますね。クラスをかえるとレベルは一からです」
「えっ……急によわくなったら大変じゃないですか……?」
「そこでサブクラスです。サブクラスは、メインクラスと同時に就くことができますよ――サブクラスは上がり方は、メインクラスの半分くらいの、上がり方になるんです――メインクラスのレベルが上がりきったときには、サブクラスのレベルもそうとう上がっているので――クラスチェンジをするときに便利ですよ」
「なるほど、メインクラスが百まで上がったときには、サブが五十くらいまで上がってる。なので、そっちをメインにするのか」
「そいつは少し違うな」
ひびきわたる声がする……誰だ……?
俺は声のする方へ顔をむける――そこにはロンゲ男が立っていた。
こいつさっき、床の木目を数えてた奴じゃねーか。
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