第12話

 ロンゲ男はカウンターまで歩いてきて、語りつづける――


「クラスはレベルが上がるほど徴収率が高いんだ……八十、九十にくらいなると、なかなかレベルが上がらねえ……クラス配給側からすると、LVが百になるとクラスチェンジされるからな――最後のひと儲けをしようとしてるんだ」


「……な、なるほど……」


 俺は恐れを抱きながら、あいづちをうつ……


「……それは誤解です……レベルが高いほどステータスを上げるのに、魔源がたくさん必要なこともありますし――過剰に高い徴収率は違法です――それに団体も開発費を回収しないといけませんし……」


 お姉さんは反駁はんばくする――


「――だが、きっちり基準をもうけたことで、合法化してしまった――基準以下なら、どんなに高くても認められることになってしまった」


 ロンゲの口調は演説じみている――やるなコイツ……


「それはそうですけど……」


 お姉さんはしょんぼりして、黙りこんでしまった。かわいい。


「それにインディーズの問題も残っている……」木目をいっしょに数えていた――ロンゲの相方――スキンヘッドだった。


「どういうことですか?」俺は問いかける……スキンヘッドは続ける――


「……大手じゃないクラス配給団体などが、独自にクラスを開発して配給してるんだ……その中にはかなり悪質なものがふくまれている――」


「……どんなものですか……?」


「こいつを見て欲しい――」


 ロンゲは一枚の紙をとりだす。そこにはクラスの詳細が書いてある。


 これいつも、持ちあるいてんの……?


「ここに槍の極みっていう、パッシブのマスタースキルが、書いてあるだろ……?」


「イエス」


「――これは槍技を使用するとき、SPを余分に支払うかわりに、槍技の使用中にBPが+三〇〇〇されるという、超強力なスキルなんだ――」スキンヘッドは、紙をトントン指でたたきながら説明する――


「……初心者なので、よく分かりませんが強そうですね……」


「みんなこのスキルを欲しがって殺到した――ところが後半になると、超高い徴収率が設定されていたんだ……」ロンゲだ。


「酷い話ですね……」


「みんなが諦めていく中――レベルが九十台の後半になっても、頑張って上げつづける人もいた……」スキンヘッドだ。


「もう引き返せないですよね、わかります」


 続けてロンゲが語りだす。


 なんでこの二人って、ずっと交互にしゃべってるんだ……?


「引き返せない理由がもう一つあったんだ。このクラスはマスタースキル以外の、いっさいのスキル取得が存在しなかった」


「マジすか!」


「――つまり、たとえレベル九十九まであげても、そこで投げてしまったらすべてが無駄になる――サブクラスのレベルも上がってるはずだが、それでも耐えがたい……」


「泥沼ですね……」


「九十九まで上げて、経験値をかせぎ続ける。しかし、レベルがいっこうに上がらない――レベル百にならない――みんなに焦燥感がただようなか、誰かが一言、こういったんだ――」


 〝――これ徴収率が百%なんじゃね?――〟


「悪夢ですね……」


「当然クラス配給団体にきくやつが出た――しかし、団体は『徴収率は百%ではない』と主張するだけだった――」


「『九九・九九九%だった』とかってオチですか……?」


「いや、レベルアップできなかったのは、システム上の問題だったんだ……」


「……どういうことです……?」


「……たとえば敵をたおして、魔源が百十ポイントその場に発生したとする……数字は仮のものだ。魔法によって魔源をわけることを、魔源徴収システム――略して『魔源システム』と仮によぶ――まずプレイヤーは魔源はっせい地点へいく――プレイヤーについている『魔源システム』が、その場にある魔源量を計測する。百十ポイントのうち、百ポイントを『魔源システム』が計測したとしよう――のこりは範囲外にちったなどだ。この百ポイントのうち、八十ポイントを『魔源システム』が徴収しようとする――」


「――この時点で酷いですね……」


「……でもここで考えてほしい……たとえば、色の付いた空気中の気体をストローとかで全部吸えるか……?」


「気体が全く拡散しないとしても、全部は無理ですよね……」


「同じようなことが起こったんだ……八十ポイントかそれ未満しか、プレイヤーが取得できなかった魔源を、すべて『魔源システム』が徴収してしまったんだ……」


「……悲惨ですね……」


「この問題は賠償問題にも発展し――さして高くない徴収率のクラスにもクレームが発生した――多くは賠償金目当てのクレームだった。これを機に、先にプレイヤーの経験値が確保され――それから徴収がなされるようになった――徴収率自体にも制限が入った」


「――でも、インディーズでは未だに違法スレスレや、違法なクラスも配給されてるんです……」


 お姉さんがいう。お姉さんおひさしぶりです。


「……俺らはこれで行くから」


 ロンゲとスキンヘッドは帰って木目をかぞえだす……


「あ、お疲れさまです」


 お姉さんは頭をペコリと下げる。


「……それにしてもあの二人には、クラスチェンジで苦労した過去があるんでしょうか……?」


「いえ……この町に常駐する冒険者は、レベル四十以下しかいないので――もっと高いひとは、もっとモンスターの強い町へ行ってしまいました」


 お姉さんは目をとじ。ため息をひとつついた。


「あの二人って、何をやってるんですか……?」


「この町で何か事件がおこったら、かけつけるお仕事です。普段ひまなんです……」


「そうなんですか……」


 ……俺は、なんともいえない気分になった……

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