転生の部屋編

第3話

「……おぬし死んだぞい、わし神様」


 くらい部屋のなか、めのまえの老人がそういった――


 ヒゲが糞なげえ……イスにすわってるのに地面についてやがる。


 多量の本だなを背景に、つえをヒゲにおし当てながら、じいさんはいった。


「いま、その体はおぬしの生前の体を再現しておる。しかし、行き先が決まったら、その体ともさよならじゃよ」


 白ヒゲをなで付けながらいう。


「マジかよ……」


 がくぜんとして頭がフラフラする。轢死とか俺無惨。


「妹とその友達は、どうなったんですか?」


「二人とも亡くなったぞい、かわいそうにティーンなのに」


 ――助けられなかったか……俺の三分の一しか、生きてねえのにひでえな。


 くっそ。妹の成長をみまもるという、俺の人生、唯一のラストジョブすら果たせなかったのかよ……


「二人の行き先はどうなったんです?」


「二人とも同じ世界に、特殊転生したぞい」


「特殊転生?」


「危機におちいった世界をすくうと、一つ願いをかなえられるという、オプションがつく転生だぞい」


 お?


「おじいさん、その話もっとよく聞きたいです」


「危機的状況の世界がたくさんあっての、その世界をすくうと願いがかなうのじゃ」


 二回同じこというんじゃねえよ! じじい! ボケてんのかよ……


「行きたいのかぞい?」


 なんか口調に無理があるな……だけど素直に、「あ、はい、行きたいです」とはいわない。


 足元を見られるからな。


「でも、お難しいんですよね?」


「大丈夫だぞい。現地人にはない特典がいろいろあるぞい。それに世界がすくわれれば、参加した全員に特典があるぞい」


「うっそ! ただ乗りできるじゃねーか!」


「なんか急に、口調がかわったような気がするんじゃが?」


「気のせいだぞい」


 やった! これ楽勝じゃねーか、参加するにきまってるわ。


「あのう。僕、その知り合いのふたりが参加したイベントに、参加したいんですけど」


「わかったぞい。引継ぎの人が来るから、その人の案内にしたがってくれ」


 そう言うと老人は部屋から出て行く。


 ――しばらくすると後任の女性が入ってきた。

 後任である、三つ編みの二十歳前後のお姉さんが、テーブル越しに座り。


「ここにステータスを、書いてください」


 こっちむきにしかれた書類をまえに、営業スマイルでいう。


 三つ編みって引っぱりたくなるな、これ。


 俺が子供なら、引っぱってたかもしれん。


 三つ編みが、左右の肩と首のつけ根をとおっていて、肩はばの狭さをきわ立たせていた。


 俺は自分の名前を書き、年齢らんにアラフォーとつづった。


「そこのところ。ご自由な名前と、年齢で大丈夫ですよ。転生後の名前と年齢になります」


「あ、そうなんですか、わかりました」


「二十歳前後のが、冒険しやすいとおもいますけどね」


 俺はゲームでよくつかってた、昔のあだ名であるヤキソバと名前らんにかいた。あとは年齢か。


 ん?


 マジかよ、ティーンとかにして良いのかよ。


 ――っていうか、アラフォーで笑ってほしかったわ。勇気を出してネタにはしったのによ。


 しかし、この人。ぜんぜん営業スマイルくずさねえな。可愛いけど。


 ――っていうか。いま冒険っていったか? 俺、なにやんの?


「俺って、どんなことをやるんですか?」


「すいません。公平をきすために、お教えできないんです」


 おいおい、企業秘密みたいにいわれてもな。


 こっちは労働者だろ――教えてくれよ。


 でも、「しつこい男!」とおもわれたくないので、追求はしない俺。


 二十くらいにしとくか。俺は二十歳とかいた――


「次にステータスを割りふって下さい」


 書類には

 筋力

 敏捷力

 知力

 技術力

 魔力

 抵抗力

 潜在能力と並んでる。


 そして縦にならんだ各項目の右には、五という数字がならんでる。


 何だこれ、RPGかよ。


 俺そういうタイプの冒険すんの? 冒険者なのか?


「その五という数字は、すでに加算されてるポイントです。さらに、そこに二十ポイントを、ご自由に割りふって下さい」


 俺が用紙に数字を書こうとすると、お姉さんはふいに。


「あ、プラスのみでおねがいします。かけるとか、わるとか、何乗、階乗、その他、もろもろはダメですよ。もちろんマイナスもごはっとです」


 畜生ダメだったか……


 ――っていうかお姉さん。俺がそういうことする奴だとおもってんの?


 アラフォーとか書いて、ネタに走るんじゃなかったぜ。


 ところで、この七つの項目だが興味をひく項目がひとつある。


 『潜在力』だ。


 なんだこの俺好みのそそる項目は……やべえ……


「すいません。七つの項目に関して質問いいですか?」


「すみません。公平性のためにお答えできないんです……」


 まあそうだろうな。さっきと同じだわ。


「あ、別にいいっすよ、だいじょうぶっす」


 俺は首をこきざみに縦にふりながら、あいづちをうった。


 正直、潜在力に全部ふりたい。


 たとえば、もし冒険者として、底辺ぐらしになったとしても。


 『俺には潜在力がある夢があるんだ』とかなんとかいって、死んだ目でマインドを保ちながら、生きていける気がする。


「すいません。すこし考えていいですか?」


「だいじょうぶですよ。私ずっと待ってますから」


 そういうと、お姉さんは書類から目をはなし、周りへ視点をうごかして注意をそらした。


 俺はそれを見計らうと、潜在力の欄に二十と書いた。


「人生は何ごともバランスですよね」


 俺はそういい放った。


 後悔はない――あとはお姉さんが笑うかどうかだ。


 お姉さんは用紙をみて、淡々といった。


「そうですよね」


 くっそ! やはり、俺の力不足だったか……やべえ……俺この人のこと大好きだわ……

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