5-6
バカな事だと知りながらも、ずっと求め続けたこの魔法。
「姉ちゃんが、ピリピリしてる! パリパリいってる!」
「めめめ、めぐみん!? 何これ、何なの!? 一体どんな上級魔法を使うつもり!? ていうか、里の人達が魔法を使う時でも、こんな事にはならなかったんだけど! ねえ、これ何の魔法なの!?」
遠い昔に丸暗記して以来、毎日欠かさず唱えてきたこの詠唱。
練り上げられる魔力、そして、紡ぎ出される魔法の言葉に応じる様に、辺りの空気に変化が見られた。
私を取り巻く様に静電気が走り、周辺の景色がおぼろげに歪みだす。
なにせ魔法を行使するのが初めてな上に、今から使用するものは、最上級の難易度を誇る爆裂魔法だ。
全魔力を上手く魔法に練り込めず、辺りに微量の魔力が漏れ出し、おかしな干渉をしているのだろう。
――私は爆裂魔法の詠唱を唱えながら、色々と思い出していた。
爆裂魔法習得に必要な残りポイントは、後1ポイントだった事。
そして、ゆんゆんと公園で喧嘩した後、ひょっこり現れたカモネギを締めた事を。
あの時にレベルが上がり、スキルポイントが貯まったのだろう。
只ならぬ雰囲気を感じてか、邪神の下僕達がギャーギャーと奇怪な鳴き声を上げて騒ぎ立てる。
魔法を発動させる祈りの言葉を一つ一つ紡ぐ度、魔力が失われていくのが分かる。
魔力量には自信があったはずなのにと、一抹の不安にかられてジンワリと汗が滲んだ。
爆裂魔法は最大の魔力消費を誇るため、生まれつきの魔力が足りず、習得しても使えない者が多い。
教科書に書かれていた文章が頭をよぎるが、紅魔族である自分が使えないはずがないと頭を振って詠唱を続ける。
やがて魔法の詠唱が終わると――
私の手の平の中には、小さな光が輝いていた。
……できた。
この小さな光を生み出すために、子供の頃からひたすらに努力を重ね、とうとう習得した私の魔法。
私にはまだ、魔法の威力を増幅させるための杖がない。
このまま爆裂魔法を放っても、その威力は本来の力の半分程度に落ちてしまう事だろう。
だが、それでも。
「ゆんゆん。こめっこ。頭を低くして伏せていなさい」
空にひしめくモンスターの群れを、一撃で仕留める自信があった。
ゆんゆんが、力の入らない体を引きずりながらもこめっこの傍に近づくと、妹を抱きしめ地に伏せる。
ゆんゆんは、私が何をしようとしているのかが分かった様だ。
手の平の間に輝く光は燃える様に熱く、それでいて膨大な力をギュッと濃縮した様な、心地の良い圧迫感がある。
大丈夫。私なら、ちゃんとコレを制御できる。
心の中で自分に言い聞かせ、空を見上げた。
ずっとずっと待ち望んだ爆裂魔法。
憧れだった爆裂魔法。
人生を賭けてもいいとまで思わせた爆裂魔法。
まともに食らわせられれば、ドラゴンや悪魔、神や魔王でさえも滅ぼしかねない、人類の持てる切り札にして最終手段。
子供の頃、目に焼き付いたあの光景を、今度は自らの手で――
「我が名はめぐみん! 紅魔族一の天才にして、爆裂魔法を操りし者! ひたすらに! ただひたすらに追い求め続け、やっと手にしたこの魔法! 私は、今日という日を忘れません! ……食らうがいいっ!!」
カッと目を見開くと、手の中の光を空に突き出し私は唱えた――!
「『エクスプロージョン』――――ッッッッ!!」
私の手から放たれた閃光が、モンスターの群れの真ん中に突き刺さる。
光は、一匹のモンスターの体内に吸い込まれるように掻き消えると。
一拍置いて、輝ける光と共に、夜空に大輪の華を咲かせた――!
「あああああああ! きゃああああああああーっ!!」
「――ッッ!!」
「わはははははは! これです、これが見たかったのです! なんという爆裂! なんという破壊力! なんと心地良い爽快感!」
ゆんゆんが悲鳴を上げながらこめっこを抱きしめる中、吹き荒れる爆風と轟音も気にせずに、私は最高の気分で笑い声を上げていた。
爆発の衝撃波で、その地点の真下にあった木々が根こそぎ引き倒され、私も為す術なく地面に転がされる。
膨大な魔力を伴った突風が吹き荒れ、何者も抗えない圧倒的な力と理不尽な暴力に、空を覆っていたモンスター達が消し飛ばされた。
地面に転がされ仰向けの体勢のまま、私は空を見上げていた。
魔力を使い果たした気怠い体で、煙が晴れるまでそこから目を離さない。
やがて煙が晴れた頃、そこには、あれだけひしめいていたモンスターの姿は影も形もなくなっていた。
「……ななな、何これ……。これが爆裂魔法……? 凄いとか、強いとか、そんな言葉は全て通り越しちゃってるわね……。魔力を制御し、威力を増幅させる杖もなしでこの威力だとか。最強魔法って呼ばれる訳ね。……ちょっとだけ。ちょっとだけ、めぐみんが爆裂魔法に取り憑かれた気持ちが分かったかも」
ゆんゆんが、爆裂魔法のあまりの破壊力に、呆れた様な声を上げる中。
私は返事を返す気にもなれず、寝転がっていた。
たった一発の魔法なのに、全魔力だけでは足りなかったらしく、体力までゴッソリ持っていかれた。
この魔法を使った後は無防備になる。
それはつまり、今後冒険者としてやっていくつもりなら、魔力と体力を使い果たした自分を守ってくれる仲間が必要だという事。
天才と呼ばれてきた私は、ずっと一人でやっていけると思っていたのだが、ゆんゆんに助けられた事といい、これからの事といい、私にはどうやら仲間が必要らしい。
ずっと一人でも大丈夫だと思っていた。
でも、一人では出来ない事もある。
今日あった事を忘れずに。私は、絶対に仲間を大事にしよう。
遠くから聞こえてくる、慌てた様子の里の大人達の声を聞きながら。まだ見ぬ、未来の仲間達の姿を思い浮かべ……。
――私は、気怠さに身を任せて目を閉じた。
「あーっ!! 姉ちゃんが、とりにく全部けしとばしたあああ!」
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