4-7


 二人に逆襲し終えた私が、スッキリ艶々とした顔でクロと鞄を取りに教室へ戻ると、教室内にゆんゆんが、一人ポツンと残っていた。


「……一人で、そんな所でなにをしているのですか?」


「なにしてるじゃないでしょ!? めぐみんを待ってたんだけど! クロちゃんを置きっ放しでどこ行ってたの!?」


 どうやら、私と一緒に帰ろうと待っていてくれたらしい。


「いえ、ちょっとふにふらに用がありまして」


 いつの間にか一緒に帰るのが当たり前の間柄になっていて、ふにふら達の捨て台詞が脳裏をよぎった。

 ……ま、まあ、邪神の下僕が里の中でも目撃されたぐらいだし、ライバル関係はしばらくお預けでもいいだろう。

 そう、友人なんて間柄ではないが、こんな物騒な時ぐらいは……。


 ゆんゆんは、口では怒り気味の口調ながらも、一人で待っていてちょっと寂しかったのか幾分ホッとした表情だ。


「めぐみんがふにふらさんに用だなんて珍しいわね。それじゃあ帰ろうか。確か先生が、今日の夕方から邪神の再封印をするから、早く帰れって言ってたし……」


「はい、これどうぞ」


 私は、帰り支度をしていたゆんゆんに、ふにふらから返してもらったお金を手渡した。

 お金の入った小さな袋を手に、キョトンとしているゆんゆん。

 私は用は済んだとばかりに鞄を手に取り、中にクロを詰めようとするものの、なぜかクロは鞄の中に入りたがらない。

 私の肩の部分に爪を立ててしがみつき、激しい抵抗を見せていた。


「ねえ、このお金……」


「ふにふらからです。弟さんへの薬はなんとかなったらしいですよ。だから、それは返すそうです。よかったですね」


 ゆんゆんに受け答えしながら、クロを肩から引き剥がそうとする。

 こ、こいつ……、それほど鞄の中が嫌なのだろうか……!

 私とクロが激闘を繰り広げていると、ゆんゆんが。


「ねえめぐみん。ふにふらさんの弟さんに、めぐみんがなにかしてあげた訳じゃあないの? たとえばその、めぐみんが……。病治療ポーションでも作ったりだとか……」


 そんな事をゴニョゴニョと呟いた。

 ほらみなさい、ふにふら、どどんこ。この子は私の次に頭が良いのですから。


「現実主義な私が、自分の利益にもならない人助けなんて、する訳ないじゃないですか」


「そう言われると、確かに凄く説得力があるわね」


 …………。


「ねえ、なんでサッサと帰ろうとするの!? ずっと待ってたのに置いてかないでよ!」



 ――学校の外に出ると、太陽が西の空に傾いていた。

 もうそろそろ夕暮れ時だ。

 後ろからはゆんゆんが、慌てて追いかけて来る。

 どうしても鞄に入ろうとしないクロを肩に乗せ、帰り道を歩いていると。


「ねえめぐみん、本当になにもしてないんだよね?」


「疑り深い子ですね。というか、万が一私がふにふらの弟に薬を作ってあげたとして、別に誰にも迷惑なんてかけていないし、いいではないですか」


「け、今朝の授業で、色んな子が迷惑してたあの騒ぎは……?」


 私はそれには答えず無言で歩いていると、ゆんゆんが早足で慌てて隣に並んでくる。

 そして、私の横顔を見ながら言った。


「……ねえ、めぐみん。別に、お礼だとか、特にそんな意味はないんだけどさ。……どこかに寄って行かない? お金が返ってきた事だし、奢るからさ」


 そちらの方をチラと見ると、ゆんゆんが笑っていた。

 ……頭の良い私のライバルは、既になにがあったのか、大体分かっているらしかった。

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