4-6


 ――放課後。


「なによカモネギスレイヤー。こんな所に呼び出して」


「めぐみん。あんた、ゆんゆんに謝んなさいよ? 今朝の事がよっぽどショックだったみたいで、ずっとメソメソしてたわよ?」


 私は、校舎裏に呼び出したふにふらとどどんこに、開口一番そんな事を言われた。


「今度カモネギスレイヤーと呼んだら酷い目に遭わせますよ。というか、ゆんゆん以外にも、多数のクラスメイトにトラウマを植えつけた今朝の騒ぎは、元はといえば二人が原因なのですよ? 私が何を作っていたのか分かりますか?」


 私の言葉に、二人は顔を見合わせると……。


「まさか……」


「その、手に持ってるポーションって……」


「そう、自作の病治療ポーションです」


 二人は心底嫌そうな顔をした。


「不安なのは分かります。ですが、レシピ通りに作ったので問題ないですよ。多少材料を多く入れましたが、効果が大きくなるだけだと思われます。ささ、遠慮なくどうぞ」


「ええー……」


 ふにふらは心底不安気な表情ながらも、私の作ったポーションを渋々受け取った。


「さあ、これでゆんゆんから借りたお金は必要なくなりましたね。それでは、これと引き換えにお金を返してもらいましょうか」


「えっ! ちょ、ちょっと待ってよ、まだ、その薬が効くかどうかも……!」


 焦りながら言ってくる、ふにふらの言葉を遮る様に。


「そんな事は関係ありません。というか、ふにふらの弟が本当に病気なのかどうかも私にとっては関係ありません」


 黙らせるように、キッパリ言った。


「う……、い、いやそれは……」


「い、いや……。びょ、病気だから! ふにふらの弟は本当に病気だから!」


 口ごもるふにふらを庇う様に、どどんこがなおも言い募る。

 が、そんな事はどうだっていい。


「私が言いたいのは、寂しがり屋なぼっちの良心につけ込んでお金を巻き上げた事です。あの子は私の次に頭がいいんです。バカではないのですよ? 私がこれだけ怪しいと思っている事を、あの子が気づかない筈がないでしょうに」


 言いながら詰め寄る私に、二人は青い顔で慌てて言った。


「分かったって、お金なら返すからさ! ちょ、あんた、目の色が真っ赤だから!」


「本気で怒らないでよ、こ、怖いって!」


 そう言いながら、ゆんゆんから借りたお金を差し出してくる。

 おっといけない、どうやらかなり本気になっていた様だ。

 紅魔族は感情が昂ぶった際、紅い瞳の輝きが増す。

 このままでは、私のクールなイメージが崩れてしまう。


「……まあいいでしょう。では、このお金は私からゆんゆんに返しておきます。本当に友人になりたくてあの子に近づいたのならともかく、人の良さとチョロさにつけ込む気ならやめてください。さもなくば、私が魔法を覚えた際には、最初の試し撃ちの相手になりますよ」


「わ、分かったってば! まあいいでしょうとか言いながら、あんた、まだ目が真っ赤だから! ゆんゆんの事がどれだけ好きなのさ!」


「もうあんた達の仲の邪魔はしないからさ、今後はちょっかいかけないから、二人で好きにしてよ……!」


 ふにふらとどどんこが、焦りながらそんな事を…………。


「……なにか誤解してはいませんか? 別に、私とゆんゆんはそれほど仲の良い間柄ではないですよ? ……というか、友達でもありませんし」


「はいはい、もういいから」


「ていうか、これだけ必死に庇っておいて、友達じゃないってのならどんな関係なのよ」


 二人は面倒臭そうに、手の平で自分達の顔をパタパタとあおる。

 熱い熱いとでも言いたげに。


「どんな関係と言われても、ただの……。その、ライバルと言いますか……」


「はいはいはいはい、もういいからいいから。なんていうか、傍から見てると百合百合(ルビ:ゆりゆり)しいのよあんた達」


「めぐみん、目が真っ赤なんだけど。こういう時って、私達紅魔族は、嘘がつけないのが困りものよね」


 …………。


「ま、今回は折れてあげるけど。あんたも、自分が主席だからってあんまり調子には乗らない事ね」


「そうそう。あんた達がイチャイチャしてる間に、私達が下から追い抜くかもしれないからね。もし私が主席にでもなったら、あんたの愛妻が私をライバル視しちゃうかもよ? ま、そうならないように、精々今の内に……」


 私は二人のそんな捨て台詞を、最後まで言わせる事なく襲いかかった。


「ちょっ! ああっ、せっかくのポーションを割ろうとしないでよ! あんたズルい、卑怯よ! やめっ、やめてえ……!」


「こんな時ぐらい空気読みなよ! これは、こういった時のお約束の捨て台詞で……! ちょっ、やめっ……!」

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