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「ねー知ってる? この里に勇者候補が来てるって噂!」


午前中の授業が終わり、昼休みに入ると、私とゆんゆんの席に弁当を持ってきたふにふらが、嬉々としてそんな事を言ってきた。

 里の周辺は強いモンスターが多い危険地帯な上に、のどかな田舎村といった感じの紅魔の里。

 こんな地に、勇者候補が何をしに来たのだろう。

 勇者候補とは、神々に特殊な力を与えられた、変わった名前をした人達の俗称。

 変わっているのは名前だけでなく、性格や行動、日常の習慣なども他とは違うと聞く。


「知ってる知ってる! ていうか私、昨日その人と会ったんだから! 爽やかなイケメンでさ、なんでも、魔王を倒すための仲間を探しにここに来たんだって! 腕利きの魔法使いを募集中らしくってさー。あーあ、なんで今来るかな? 魔法を覚えた頃にまた来てくれたならついて行くのにー」


 言いながら、どどんこが残念そうにため息を吐いた。

 ……ふうむ、爽やかなイケメン勇者候補か。


 今は魔法を使えないのでパーティー加入は無理だけども、私のような大魔法使い候補ならば、その勇者候補とはいつか出会うかもしれない。

 選ばれた強者というのは惹かれ合う存在だからだ。

 確か、類は友を呼ぶとも言う。


 ゆんゆんが、少し興味を引かれたのかどどんこに尋ねた。


「勇者候補かあ……。どんな感じの人なの? 強そうだった?」


「二人の女の子を連れて、凄い魔力を感じる剣を携えた、優しそうな人だったよ。職業はソードマスターって言ってたかな? 確か、ミツ……ラギ……?」


 強力な魔法の剣を持ったソードマスターか。

 ここ紅魔の里の周辺は、強いモンスターが多数生息している。

 そんな危険地帯を抜けて里まで来たのだから、その強さは本物だろう。


「なるほど。その人はしばらくここに滞在するのでしょうかね? しばらくいるというのであれば、魔法を習得したならぜひ一緒に連れて行って欲しいものですが」


 私の言葉にどどんこが首を振った。


「今日中には里を出るって言ってた。しばらく残ってくれるって言うなら、私だってキープしたんだけど」


 それは残念。

 勇者候補というからにはさぞかし人間ができた立派な人だろうし、どんなピンチもアッサリと乗り越える、英雄譚に出てくるような人なのだろう。


 私もいつかは魔法使いとして冒険者パーティーに入るつもりでいるが、所属するならばそんな勇者候補の下へ行こう。

 どんな困難にも真っ向から立ち向かう様な、真っ直ぐで正義感に溢れた、誰もが憧れる勇者候補が率いるパーティーに。

 そして、私の魔法で魔王の幹部だろうがなんだろうがぶっ飛ばし、世界にその名を轟かせるのだ。

 魔王を滅ぼし、私こそが新たな魔王、めぐみんとして――!


「めぐみん、ねえ聞いてる? どうしたのニヤニヤして……。だ、大丈夫?」


「大切な考え事をしていて聞いてませんでした。なんでしょうか?」


 妄想に浸っていたところをゆんゆんに現実に戻された。

 ふにふらとどどんこの二人は、既に別の話題で盛り上がっている。

 ゆんゆんがそんな二人を気にしながら、申し訳なさそうに言ってきた。


「ねえめぐみん。ちょっといいかな? 帰りに相談があるんだけど……」

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