3-2


 ――魔力の豊富な紅魔族は、魔法関連の仕事に就く事が多い。

 魔道具職人だったり、ポーション職人だったり。


 そして、ぶっころりーが片思い中の女(ルビ:ひと)は、普段は占い屋を営み、修業が好きで、暇な時には一人で山に籠もって必殺技の練習をしてたりする、どこにでもいる普通の性格の紅魔族だ。

 喫茶店を出た私達は、そんな彼女の店へと向かっていた。


「しかし、よりにもよってそけっとですか。ニートのクセに、理想が高いですね」


「ニートのクセにって、ニートが理想を高く持っちゃいけないのか。いいかめぐみん、人間、理想は高く持つべきなんだ。それは仕事においてもそうだ。俺は靴屋なんかじゃなく、もっとデカい仕事に就きたいんだ……!」


「でも、お付き合いしたいっていうのなら、お仕事ぐらい見つけてからの方が……」


 変な持論を展開しているぶっころりーについていきながら、そけっとについて考える。


「相手は、紅魔族随一の美人と呼ばれるそけっとです。それに対してこちらは、なんの取り柄も変哲もない、親の仕事を継ぐのも嫌がる将来性もないニート。……ぶっころりー、今日の所は私達二人が遊んであげますから、もう諦めませんか?」


「冷静に分析しないでくれ! もしかしたら、ダメ男が好きな変わり者かもしれないじゃないか。まずは好みのタイプがどんな男かを聞くべきだ」


「自分がダメ男だという事は理解しているのですね。そこは好感が持てます。まあ、どうせ暇ですし、やるだけやってみましょうか」


「あ、あの、自分がダメだって分かっているのなら、努力して真っ当な人間になるってのじゃいけないんですか? タイプの男性像を聞いてくるぐらい構いませんけど……」


 私やゆんゆんの言葉を背に受けながら、ぶっころりーはズンズン進む。

同性の私達に、そけっとから、現在気になっている男性はいないのか。そして、好みの男性のタイプはどんな人なのかを聞き出して欲しいらしい。

 ぶっころりーが私達に相談を持ち掛けてきたのは、つまりはそういう事だった。


「好きなタイプぐらい自分で聞けばいいと思うのですがね。その方が、話のきっかけだってできると思いますし」


「そんな度胸と社交性があったなら、未だにニートなんてやってる訳ないだろ。……おっ、見えてきた!」


 どうしようもない事を自信満々に言うぶっころりーは、そけっとの店を、木に隠れながら遠巻きに観察する。

 占い屋の前には、紅魔族一の美人と呼ばれるそけっとが、ほうきを手にして掃き掃除をしていた。

 そけっとほどの美人だと、そんな当たり前の姿も絵になるものだ。


「そけっとは、相変わらず綺麗だなあ……。ゴミになって、あの人の足下に散らばって集められたい……」


「ニートなんて既にゴミみたいな存在(ルビ:もの)ではないですか」


「め、めぐみん!」


 そんな事を言いながら観察していると、そけっとは大きく背伸びをして店に引っ込んでいってしまった。

 そこでハタと閃いた。


 閃いてしまった。


「ぶっころりー! これです!」


「ど、どれ!? ゴミになって足下にって作戦か? いや、いくら何でもそんな変わったプレイはお付き合いしてからの方が……」


「何をバカ言っているのですか、違います! 良い考えが浮かんだのですよ。そけっとの店は、占い屋です。彼女はとても腕のいい占い師ですから、彼女に占ってもらうのです!そう、ぶっころりーの未来の恋人を!」


「ああっ! それはいいかも! 占いで、そけっとさんの姿が映れば良し! 告白する手間も省けるし、そのままお付き合いすればいいわ! そして、他の女性が映ったのなら何をしても上手くいかないって事だから……」


 告白して見事に振られるよりは、傷も浅いのではないだろうか。

 そんな私の提案に、だがぶっころりーは。


「ニート舐めんな、占いをしてもらう金があったなら、毎日店に通い詰めてるさ」


「私達、もう帰ってもいいですかね」


 帰ろうとする私達に必死で頭を下げるぶっころりー。

 しかし、こうなると一つ問題が。


「ねえ、そけっとさんは店に入っちゃったし……。私達が好みのタイプを聞くにしても、いきなり尋ねていって唐突にそんな事を言うのもどうかと思うんだけど……」


 そう、私達にとっても初対面に近いそけっとの店に、いきなり尋ねていってそんな事を聞けるはずもなく。

 と、ぶっころりーが腕を組み、真面目な顔を見せた。


「仕方ない。ここは一つ、占い代を工面しようか……!」

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