第三章「紅魔の里を守る者《ガーディアンズ》」

3-1


「おはようめぐみん。朝食は食べた?」


「おはようございます。最近、妹が色んな方から貢がせている様でして。そのおこぼれをもらっているので、お腹いっぱいですよ」


「そ、それって人としてどうなの?」


 今日は紅魔族の祝日なので休校日だ。

 快晴とは言えない曇り空。

 私とゆんゆんはぶっころりーの相談に乗るべく、こうして朝早くから集まっていた。


「ふふっ、めぐみん、これを見て!」


 ゆんゆんが、喜々として何かを取り出す。

 それは、とあるボードゲームだった。

 確か、王都で人気のある対戦ゲームのはず。


「どうしたんですか、それ?」


「王都に旅行に行ってたおじさんが、お土産にくれたのよ。『これは一人じゃ遊べない物だから、これがあればきっとお前も……』とか、よく分からない事言ってたけど」


 ……ゆんゆんのおじさんも色々と気を回しているのだろう。


「これを学校に持って行こうかと思うんだけど、その前に、ぶっころりーさんが来るまでやってみない?」


「……まあ構いませんが。頭を使うゲームで負ける気はしませんよ?」


 芝生の上でボードゲームをする事に。


「じゃあまずは、私からいくわね……!」


 ――三十分後。


「くうううう! こ、ここっ! このマスに、『ソードマスター』を前進させるわ!」


「このマスに『アークウィザード』をテレポート」


「めぐみん、テレポートの使い方が嫌らしい! ……ねえ、『アークウィザード』は使用禁止にしない?」


「しません。ほら、そうこう言っている間にリーチですよ」


「ああああ、待って、待って!」


 ――一時間後。


「や、やった、このままいけば何とか勝てそう……! さあめぐみん、これで終わりよ!このマスに『クルセイダー』を……」


「エクスプロージョーン!」


「あーっ! めぐみんズルい、盤をひっくり返すのはズルいわよ!」


「でも、このルールブックにちゃんと書いてありますよ? ほらここに、『アークウィザードの駒が自陣に残っている際には……』」


 ――二時間後。


「もう一回! ねえめぐみん、もう一回お願い!」


「何度やっても私の勝ちですよ、もう諦めてください。……というか、このゲーム結構面白いですね。勝者の権利として、しばらく借りていきますよ」


「ああっ! ま、待って! ていうか、このゲームのルールがおかしいのよ! エクスプロージョンとかテレポートとか! 誰よこんなルール考えた人は!」


 涙目のゆんゆんが、悔しげに駒を指で弾く。


「しかし、肝心のぶっころりーが遅いですね。一体何をしているのでしょうか」

「……呼びに行ってみる?」


 ゆんゆんの言葉に従い、近所にあるぶっころりーの家へ向かう。

 ぶっころりーの家は、この里随一の靴屋さん。

 この地には靴屋が一件しかないので、自然と里随一の靴屋になる。

 店に入ると、店主であるぶっころりーのお父さんがいた。


「ごめんください。ぶっころりーはいますか?」


「おっ、めぐみんじゃないか、らっしゃい! 倅ならまだ寝てるぜ」


 ……おい。


「すいません、起こしてもらっていいですか? 実はぶっころりーから、『いたいけな少女の君達に相談があるんだよ、はあ……はあ……!』とか言われてまして」


「あの野郎!」


 ぶっころりーのお父さんは、即座に二階へと駆け上がっていく。


「ちょ、ちょっと! ぶっころりーさんが言っていた事とは、大体合ってるけど大きく違うわよ!」


「人を呼びつけといて呑気に寝ているニートには、このぐらいしてやらないと」


 二階から怒鳴り声と悲鳴が聞こえ、やがてぶっころりーが駆け下りてきた。


「ひいいっ! ああっ、めぐみん! 酷いじゃないか! 親父に、『このロリコン野郎!』とか怒鳴られていきなり叩き起こされたよ!」


「人に相談を持ち掛けといて、約束の時間を過ぎても寝ているからではないですか。ほら、とっとと行きますよ!」


「あっ、ちょっと待ってくれ! 俺、まだ着替えてもいない!」



 ――着替えを済ませたぶっころりーと共に外に出た私達は、里に一つしかない奇抜なメニューの喫茶店に入る事に。


「ゆんゆん、好きな物を頼んでください。ぶっころりーの奢りなので遠慮する事はないですよ。あ、私はカロリーが一番高いパフェをお願いします」


「それって俺が言う事じゃないのか!? 金なんてほとんど無いのに……」


「ええっと、私はお腹いっぱいなので、その、お水でいいです……。めぐみん、今朝はたくさん食べたんじゃなかったの?」


 テーブルに着いて注文を終えた私達は、改めてぶっころりーの相談に乗る事に。


「今日はすまないね。相談っていうのは他でもない。実は俺……。好きな人ができたんだ」


「ええっ!」


「ニートのクセにですか!?」


「ニートは関係ないだろ! ニートだって、飯も食えば眠りもするし、恋だってするさ!」


 ぶっころりーが抗議してくるが、既に私とゆんゆんは聞いてはいなかった。


「こ、恋話だ! ねえめぐみん、恋話だよ!」


「まさか、身近な人のこんな甘酸っぱい話を聞くだなんて思いもしませんでしたね。……というか、相手は誰なんですか? ひょっとして、私達の知っている人とか。いえ、もしかして、私達のどちらかだとか……!」


「おい、失礼な事言うなよ。二人とも自分の年を考えてくれ。俺はロリコンじゃ……や、止めろっ、止めろよ二人とも! 悪かったから、俺のコーヒーにタバスコ入れようとするのは止めてくれ!」


 慌てて謝るぶっころりーは、急に真剣な表情をすると。


「……その。俺が好きな人って言うのは……」

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